第4話 イミテーション時事問作戦
『なん・・・だと・・・』
河合攻略の翌日、最高に気持ちよく目覚めた俺は五分足らずで最悪の気分になっていた。
『これは・・・まずいな。いや、でもどうしようも・・・』
「どしたのお兄ちゃん?この世の終わりみたいな顔で」
『――――妹よ、嵐が来るぞ』
「は?台風?そんなの聞いてないけど――――」
妹のそんな的外れな言葉を無視し、俺はテレビをにらみ続ける。
――はい!今朝はおめでたいニュースがたくさん!!
「上野動物園にパンダの赤ちゃん爆誕!」
「あの大物俳優が結婚報告!阿鼻叫喚!」
「全国で海開き!熱い!!」
以上の三つを中心にお伝えします!――
そう、時事問題である。
「ねえ、あの俳優結婚て!鬱なんだが―――」
「今度、上野動物園いこーよ!かわいい―――」
「はよ試験終われ!!海行きてー-――――」
くそっ、やはりクラスでも話題になってやがる。
ここ最近目立ったニュースも無かったから出る問題も予想しやすかったが、これじゃあクラス一位は厳しいか・・・
『――いや、逆に使えるか、逆に』
社会科の教師はいつも直前にテストを作っていたはずだ、本番まではあと三日。
あの教師を特定の時事問題に誘導できればほぼ俺の勝ちだ。
今日が金曜、明日明後日は休み、今日がリミットか!
「――――いやー、手伝ってもらって悪いな、秋山」
『はは、全然いいですよ、委員長ですし』
「そういえばもう一人のクラス委員の河合、今日授業中ずっとぼうっとしてたけど何かあったのか?」
『いやー?あまり話さないからわからないですね・・・。それより先生今朝のニュース見ました?』
「ん?ああ、お前もあの俳優好きなのか?うちのカミさんもファンでな、朝から大変よ。」
『ははは、それは大変ですね。でも、って痛ッッッ!?!?』
「おー、気をつけろよ、職員室の入り口段差あるからな。後ちゃんとドア閉めろよー、っと。で、さっき何か言いかけてなかったか?」
『はいはい。でも僕ら!は海開きに注目してましたね、って話です。夏休みに海に行く友達も多くて、クラス中みんな!その話してましたよ』
「――――ほーう、そうなのか、そうなのか・・・」
計画通り。サブリミナル試験作戦の応用だな、これで出るのはせいぜい海開きした地域程度だろう。
「おう、ここまででいいぞ、ありがとうな秋山」
『あはい、ではお疲れさまでした!』
キーンコーンカーンコーン…
やるべきことは全てやった、後は・・・
「秋山君、少しいいか?」
『・・・・・・金剛、突然なんだ』
突然話しかけてきたのは俺が今から話しかけようとしていた相手だった、金剛ヤマト
俺のライバルで、今回の試験の一番の危険人物だ、元学年順位は3位。
「いや昨日、君と河合さんが勉強会をしているのを見かけてね、僕とも一緒にしてくれないかい?」
『なんの冗談だよ、俺がお前に教えることなんか何もないだろうが』
「いやいや、たとえ君が何も僕にできなくても誰かと一緒に勉強をする、というのは効率の話を抜きにして楽しい物だからね。どうかい?」
『どうも何も、大体・・・』
いや、これはチャンスか?元々こいつとは話す必要があったわけだし。
こいつが何を企んでるのかは知らんが、逆に利用してやるよ、逆に!
『・・・分かった、図書室でいいか?』
「ああ!いいとも、じゃあ先に行って待っているよ」
―――よし、覚悟は決めた。ここであいつを潰す覚悟がな!
作戦名「イミテーション時事問作戦」。
もう名前が全てを表しているが、先ほど誘導した出されるはずの時事問題と違う問題に金剛を誘導する。
あの社会科教師、いつも時事問題の配点がやたら高いからな、そこを落とすだけでも俺と金剛の僅差ならば致命傷になり得る。
・・・今までのように簡単に誘導することはできないだろう、金剛は強い。
だがここで倒せなきゃ後がない、前哨戦にして決勝戦。
―――行くか、作戦開始だ。
【イミテーション時事問作戦開始!自然な会話で金剛を誘導しろ!】
「―――ん?やっと来たか、先に始めていたよ」
『おう、数学やってるのか?』
「うん、今回数学の試験範囲が多いからね。君は数学は大丈夫なのかい?」
『ぼちぼちだな、でも俺も今は数学やるか。・・・ところで、社会科の勉強はしているか?』
「社会科?まあ、こちらもぼちぼちだけど、珍しいね社会科の話なんて」
『たまにはいいだろ、それより今回の社会科の試験に時事問題が出るらしいぜ』
「ほう?それは知らなかった。ちなみに何の問題が出るのかは知っているのかい?」
『詳細は知らんけどな。でもクラスの女子たちはパンダの赤ちゃんの話題で持ち切りだったし、もしかしたらそれが出るかも』
「なるほど、それは良いことを聞いた。・・・しかし、信じるに値しないな」
『ま、まあただの噂さけどさ、それでも・・・』
「そこではない、君が僕にその有益な情報を伝えてきたという事をだ。本来の君ならそんな方法誰にも、ましてや僕なんかに教えるわけがないだろう。何か裏があると考えるのが自然だ」
『い、いやそれは・・・』
「僕は君の非常に高い向上心を評価している。だからもちろんそういった権謀術数を咎めはしない、ただもう少し上手くやったほうがいい」
『いやだからう、嘘なんかじゃな――』
「ところで、君のやっている数学の問題、試験範囲外じゃないかい?」
『は、はあ?そんなわけ・・・』
「ほら、僕のプリントだ。見てみるといい」
『・・・・・・まじ、かよ』
「はあ・・・、術策を弄するのもいいがそれで本来の勉学を疎かにしているのなら本末転倒だな」
『なっ、もう帰るのかよ?』
「ああ、もうここにいても得るものはなさそうだしね。ああ、それと・・・君が社会科の照本先生と話していたのを偶然聞いた。―――その内容の時事問題も、ね」
その言葉を残し、金剛は出て行った・・・
【作戦終了】
『クッソがー--ッ!!!あの野郎、馬鹿にしやがって!』
家に帰って俺が一番最初にしたことは、数学の試験範囲の確認だった。
『あの野郎、人を騙すためだけにこのプロント作ったのかよ!!』
真偽は偽であった。ここまでするとか、暇人かよ・・・
『くそ、かなり時間を無駄にしたな』
金剛が帰った後、俺はこの偽プリントを信じて二時間ほど勉強した、その二時間がほぼ無駄になったと思うと・・・
『いや、こんないじけてる暇ないか。もう時間もない、後は・・・』
―――「イミテーション時事問作戦」はおそらく成功している。
後は、決戦の日に備えるだけだ。
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