150-1 敗戦国のその後
おはようございますウィズです。早速ですがヨレイド国に来てからとても困っている事があります。
お城の人達の態度? いえいえ、流石に大国の我らが国王陛下ファンボス様と一緒に来ているので表向きはとてもよくしてくれています。ヨレイド王にはあれから一度も会えていないけど、こちらも会うつもりはないので、そこはよしとして。
この国に招かれたのは遊学の為ではない! そう! 私は光の大精霊に会うためにっ、その情報をアルヴィンから聞く為に来たのです! だからアルヴィンに早くそのお話を聞きたいのに……っ!
ハイドとリュオのダブルコンボがいつも傍にいてアルヴィンと二人きりで会える機会がやってこない……っ!
日中はずっと二人が私にくっついているし、ならば夜にアルヴィンの部屋に忍び込んでしまおうかと思ったけど(犯罪)、何故気づくのかという感じでリュオが窓の外で待ち構えていてやんわりと部屋に戻されたりしている。
会えない! アルヴィンに会えない! みんなと会っている時に二人で会いたいという旨を手振り身振りで伝えてみたら「ウィズのダンスは面白いね」って言われたんですよ! 踊っている訳じゃない! 察してほしかっただけ!
アルヴィンからは光の大精霊の話がしたければいつでも聞いてと言われている。あわよくば会いに行こうと思っているからね……ハイドとリュオに話を聞かれてしまったら絶対一緒にいくと言い出すだろうし……。
「最終手段として二人の首の裏をトンッてして気絶させる手も考えなくちゃ」
「凄い明確な敵意を持ってこっちを見ないでくださいウィズ様」
私の後ろを歩く二人をじっとりとした目で見ると、即座にリュオにつっこまれた。
ずっとお城の中にいるのも息が詰まるので町を探索してきなさいとファンボス王様が送り出してくれたのだ。許されているのは町の中央と西側だけだけどね。勿論リュオとハイドも私についてきてしまって、他の護衛達は隠れてついてきてくれている模様。
「護衛はいらないのに……」
「姉さんが強いのは分かるが、他国で単独行動なんてさせられない」
「俺はウィズ様の専属護衛ですよ? 傍を離れる訳ないじゃないですか」
「はぁい」
散歩したらいい案も浮かぶかもしれない。ヨレイド国の城下町は水の都という名にふさわしく水路が迷路のように沢山あり、水害対策なのか家も縦に長いものが多い。区間の移動は小さな船でしていて、馬車の利用はほぼ無い。民の暮らしぶりを見ていても半袖だったりスカートが短めだったりと、雪国のポジェライト領では見慣れない恰好ばかり。
他に気になるといえば。貴族だけでなくやたらとみんな良い素材の服を着ているなと思った事ぐらい。店で売っている物も中々に物価が高いのに、みんな涼しい顔をして買い物をしている……裕福な国なのだろうか。
「林檎一つに700リベルもするんだね、うちの国だと150リベルくらいなのに」
ハイドは店先に視線を向けてから、私の耳元で小さな声で話した。
「この国が華やかに見えるのは首都だけだ」
「え……」
「身ぎれいであり、美しいものしか好まないとする国王の趣向から、富を持ったものしか首都には住めない。かといって、貧しい地区の税金を下げるでもない、税を払えないものは家ごと財をうばわれ、子供がいる家はその子供を攫われたりもしているという」
「えっ!? で、でも王様がこの国とは協定を結んでるって言っていたよね? 人権を尊重するって、まさか国事態が人さらいをしてるなんて事」
「ファンボス国王の前の国王までは他の国の事など見て見ぬ振りをしていたから合法だったらしい。しかし、ファンボス王になってからは協定を結び圧をかけさせてはいるが……隠れて続けているらしい。ファンボス王がここについてきたのもそのあたりの調査もあるかもしれない」
「……王様は、他の国の事なのになにかするつもりなのかな」
リュオも私の隣に立ち、こそこそと話をする。
「この訪問が最終警告だと話をしているのを聞いたよ」
「どこで聞いたのそんな話?! それに最終警告ってなに?!」
「……国王陛下はこの国の第一王子と親密だという情報もあるよね。ヨレイド王は知らないみたいだけど」
うちの隠密執事さんはどれだけ優秀なのだろうか。そんな国家機密をどこから入手してきたの。つまりは、アルヴィンと王様との間で何か話が進んでいるという事? 社交界デビューの時や、レグルスを幽閉から解放した時とかも少し繋がりがあるみたいな会話をしていたし……確かに何かありそう。
「くれぐれも巻き込まれないように大人しくしていてくれよ姉さん」
「そんな私がいつも何かに巻き込まれているみたいな言い方」
「ウィズ様の場合巻き込まれてるんじゃなくて、自分からハリケーンの中に飛び込んでいくようなものだから」
「否定出来ないけどっ」
王様とアルヴィンの話も一応把握しておこう。私の第一目標は別にあるから、勿論そちらを優先だよ。
船着き場から離れて階段を降りようとしたところでリュオに腕を掴んで止められた。
「ウィズ様、そっちは危険な地区だから行っちゃ駄目だよ」
「え? でも西区域には散歩にいっても良いって王様がいってたよ?」
ハイドとリュオが顔を見合わせ、苦い顔をした。
「姉さん、西区は貧民街だが」
「貧民街?」
「しかも治安がかなり悪い、衛生状態もよくないし犯罪者のたまり場だ。それに敗戦国の逃げた奴隷とかも蔓延っていると噂の無法地帯だよ」
「ヴァンブル王国でいうならSランクに指定されるレベルの危険区域だ。身なりのいい人間が足を踏み入れれば確実に襲われる」
貧富の差が激しいヨレイド国の危険区域か。でも、それなら何故王様は西区には行っても良いと言っていたんだろう? うんうん……王様からの了承はあるからね。パパ曰く、王様がこの旅の保護者なんだから、保護者がいいなら全部OKなんだよね。
「なるほどなるほど、じゃあ危険だから行っちゃいけないね」
「ああ、だから適当にそのあたりの建物を見たららもう帰……」
「危険だから二人はもう帰っていいからね! 私は一人で見て来るね!」
「はっ?!」
「ウィズ様?!」
二人を本気で引き離すつもりで西区へ続く階段の上から飛び降りて着地! そして全力で走り出した。
あわよくば合法的に二人をまけるかもしれない! まけたら一人でお城に帰ってアルヴィンに会いにいってお話をしたらいいよね!
階段を降りた下は坂道になっていて、入り組んだその道をジグザグに走りながら逃げまくった。足の速さには自身があるよ! 他の護衛も隠れて付いてきているからハイドの事は安心でしょう!
進めば進む程、建物が廃れていく。
崩れかけていたり、扉がないものは当たり前だし、地面で寝ている人もいっぱい居た。その殆どが汚れてやせ細っていて……胸が痛い。
この国の国王はこの惨状を放置して自分達ばかり欲を満たして肥えているのか。この人達は……国に捨てられたんだ。
「おいアマァ!」
「おっと!」
前方に刃先がボロボロの斧を持った五人組の男が行く手を阻んだ。急ブレーキをかけて取りあえず止まる。ふむ、私を追い掛けてくる気配はないから二人の事はまけたと思うけど、出来ればもう少し引き離したい。
「すみません、急いでるので用件なら簡潔にお願いします」
「この状況でよくそんな口が叩けるナァ!」
「金目の物全部おいていけやぁ!」
「はい! どうぞ!」
足に巻き付けていた装飾を外して男達に放り投げた。金色に光る物体が空高く光る。
「指輪だ! やっぱり金持ちだこの女!」
「よーしこっちだ! 受け取、ぐおぁっ?!」
受け取ろうと片手で取ろうとした男の腕が指輪と一緒に地面に叩き付けられた。アルヴィンから貰ったダンベルに装着するリング。筋トレの為に足につけていたのがまさか役立ちましたね。
「なんだこの指輪?!」
「指輪じゃなくてダンベルの重りね?」
「よくもコイツをやってくれたな! ただじゃ置かねぇぞ!」
斧だけでなく刃こぼれナイフも取りだした始末。そんな武器にもならないような、なまくらで私と戦うつもりですか。
「よーし! かかってきなさい! まとめて相手になっちゃうよ!」
「ほざけ! こいつっ」
私に飛びかかろうとした瞬間、一人目の男が地面に倒れた……というのも、空から人が降ってきてその人に頭から思い切り踏まれて地面にのされた。
「リュオ?!」
「コイツら……」
リュオは腰に潜めていた折りたたみ式の槍を即座に組み立てて構えた。殺気が半端ない。これはやるつもりだ!
「殺しちゃ駄目だからねリュオ?!」
私の声が届いたのか、切っ先の向きを逆に変えて、槍の柄の方で男達の胸や足を何度も突いて攻撃を繰り出した。壁際に吹き飛ばされた男達は唸り声を上げて倒れた。
「ウィズ様……」
「ワア! リュオって槍も使えたんだね! スゴイ!」
「ウィズ様……?」
「すみませんでしたごめんなさい反省しまし!!」
リュオの怒りの圧が凄すぎて思わず噛んだ。まけたと思ってたのにまけてなかった! こんな事になるんだったら筋トレの為に両足につけてたダンベルリングを外しておくんだったーーっ!
「何故返した筈の指輪を持って……?」
「どうしても欲しくて! つい魔が差して!」
「何故僕とハイドレンジアをまこうと……? ここがどれだけ危険な区域なのか自覚がない……?」
「ごめんなさぁーーいいっ!!」
ずいずいと怒りの顔で迫ってくるリュオに後ずさりしながら謝り続ける。
「わ、私なら危険な場所でも戦えるとおもってっ」
「どれだけ強くても君は女性なんだよ! 自分をもっと大切にっ」
リュオは思い切り息を吸い込んでから息をはいて、頭を抱えた。
「二度としないで……本当に怖かった」
「リュオ……」
本気でリュオが私を心配してくれていたのだと分かって申し訳なくなった。いくらなんでも危険な場所に入る事で二人をまこうとしたのは悪かった。逆の立場だったら凄く心配した筈だから。
「もうたまにしかしないよ、ごめんねリュオ」
「二度としないってい言ってほしいんだけど」
「でもここに来るのは王様の許可もあった訳だからつい……」
「考えを検めないつもりならこっちにも考えが、」
突如、倒れていた男の一人が起き上がりナイフを私目掛けて投げつけようと構えた。
「このまま帰れると思うなよーーっ!!」
「ウィズ!」
蹴り落としてかわそうかと考えた矢先、その男の後ろの家の扉がドカンと音をたてて外れて、ナイフを持った男を下敷きにしてしまった。
「ぎゃあっ?!」
「えっ?! なんで扉が突然壊れてっ」
衝撃でもくもくと土埃が舞う中、家の中から人影が姿を現した。
「ばあっ……なんてね」
「え、フレッツーーっ?!」
うちのポジェライト騎士団のフレッツが?! ハイドの護衛騎士もやってるフレッツが?! 昔は私の護衛騎士もやっていたフレッツが?! なんでこんな所にいるのーーっ?!
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