149-3 双子王子との再会
ガラス細工で作られたアーチが彩る庭に案内されて、そこでアルヴィンと対面でお茶をしている。
ハイドは意地でも私から離れないというように隣に座っているし、リュオも他の召使いのみんなと同様に壁際に立って控えていた。王様はまだ仕事があると言ってヨレイド国の方と出掛けてしまった。そしてレグルスは、明日にならないと塔から出られないという事で、塔へ戻されてしまった。
そういえば、今更だけどハイドの護衛騎士でもあるフレッツが今回の旅には同行していないみたい、どうしたんだろう?
「たいしたおもてなしも出来なくてごめんね」
「とんでもないよ! 沢山気を遣ってくれてありがとう」
この国にしかない食べ物が沢山テーブルに並んでいる。そしてハイドはいつもよりは遠慮しているけど、一心不乱にデザートを食べ続けていて、そのハイドのスイーツ吸引力に給仕の方が驚き過ぎて釘付けになっている。ハイドが幸せそうでなによりです。
「いや! それよりも怪我は平気なの?」
アルヴィンはお城の治癒術士に怪我の治療魔法を掛けてもらっていたから、見た目は普通に戻っているんだけど……。
「あのままだと見苦しいだろうから」
こんな事を言う、怪我を治したのが痛いからとかではなく【見苦しいだろうから】という理由だけ。アルヴィンのあまり自分に執着がなさそうな所が若干心配になる。
「見た目のことじゃなくて、私はアルヴィンが痛かったり辛くないかが心配でね」
「ありがとう」
「ええっと……」
言葉が通じているのかどうなのか……ケロリとした感じで笑顔でお礼を言われた。
「そんな事より、礼の事だけど」
「あっ」
ハイド達がいる事を意識して、小刻みに首を振る。今光の大精霊の事についた話す訳にはいかないっ。
「ふっ、二人になってからお話しない?」
「いいよ、じゃあウィズが話したくなったら言ってくれよ」
「分かったよ!」
ハイドがマフィンを頬張りながらジッと私を見ている……穴が開く程に見てくる。心なしか後ろからリュオの視線も背中にぐさぐさと突き刺さっている。
察しが良い子達だから、今の会話だけで私がただ遊学に来ただけじゃない事を察してしまったかもしれない。どう取り繕えばいいものか、大体この国に招待されたのだってアルヴィンを魔の森で助けたとかいう大嘘からなのだ。その状況について追求されてもないものは私は知らない。嘘をつくのが苦手なのに、ハイドとリュオに詰め寄られたら終わりだ。
「長い事ここにいるだろうから、首都周辺の国管理の施設は自由に回れるようにこれを渡しておくよ」
「これは?」
手のひらサイズの金色の紋章。ビカビカしていて目に悪い。
「それ俺の王家の紋章なんだけど」
「ぎゃあ?!」
「いい悲鳴だね」
「そそそっそそそんなもの渡さないで!」
「それがあったら大体の施設は利用できるし、町の人間も平伏すから楽だよ」
「いらないーーっ!! 返す!! 返します!!」
他国から来た貴族の私がこんなもの持って歩いたらあらぬ誤解をもたれてしまう! アルヴィン用の王家の紋章なんでしょう?! なんで私が持っているのかってなるじゃない?! へたしたら私とアルヴィンがいい関係なんじゃないかと思われちゃうじゃない!! 私は一応ヴァンブル王国の王子妃(仮)という名目で来ているのに! また戦争の火種フラグを立てないでほしい!!
「いらないの? 身の安全の保証にもなるよ」
「全力でいりません!! 身の安全は自分で守れます!!」
「じゃあ夜中にウィズの荷物に潜ませておくね」
「本気でやめて?!」
何がしたいの?! アルヴィンが何を考えているのか分からなさすぎる!!
「もう一つプレゼントがあるんだけど」
「いらないです!! もう勘弁してください!!」
「そう言わずにまずは見て」
アルヴィンが取りだしたのは豪勢な装飾の小さな箱。それをぱかりと開けた瞬間、周囲はざわめきたち、ハイドが勢いよく立ち上がり、後ろのリュオから殺気が溢れた。
「……指輪ですね?」
どう見ても指輪。それも二つ。太陽のように黄金に輝く宝石がリングに無数埋め込まれている。
指輪を異性に贈るというのは、異世界でも共通認識で恋人があげるものだ。
そして、それが貴族間になると、永遠の愛を誓い合った仲という事にもなる。なので、婚約期間中に指輪をつけていない者達は政治的意味の結婚である人が多いし、逆に指輪を付けている婚約者達は両想いであり、将来必ず添い遂げるという証明にもなる。寧ろ指輪をお互い付けてしまったら不貞をはたらこうが、気が変わろうが、必ず結婚をしなくてはいけないという証明になるようだ。だから指輪を互いにはめるのは余程の信頼関係と愛がなくては出来ない。
つまりは真実の愛を誓い合った証……。
前世の日本の指輪の認識よりも、とてもとても重いものである。
「なんで私にアルヴィンから指輪が贈られるの?!」
「姉さんちょっと貸して、凍らせてからたたき壊すから」
「ハイド?!」
「たたき壊すだけでは修復される恐れがあるので、この庭ごと爆破した方がいいのでは?」
「一理ある」
「一理も二理もないから!! 落ち着いて二人とも!!」
指輪破壊に庭を爆破してやろうかみたいな発言に使用人達が青ざめている。違いますそんなテロみたいな事しませんから!
「リュオも!! 後ろに戻りなさい! いくらなんでも王族が座る席に近づいちゃ駄目!」
「命じてくださればいつでもウィズ様を抱えて逃げられますよ」
「リュオ! ハウス!!」
リュオは渋々壁際に戻って行く。別の国に来たせいなのかリュオの心配性に拍車が掛かっている気がする。
「ウィズ、ウィズ」
「さすがにこれはもらえないよアルヴィン!」
「ちょっとこれ持っててくれる? 腕が折れそうで」
「へ?」
「これ付属品だから本体はまだ出してないよ」
付属品ってどういう事? それに腕が折れそうってなに?
呆けている隙にアルヴィンは私の手に指輪が入った箱を乗せ……。
「おっっっっっもぉい?!」
重力に引っ張られて転びかけてしまい、なんとか踏ん張って堪えた。え? なにこの指輪?! もの凄く重いね?! 私が重いと感じるんだからエランド兄様三人分くらいはあるのでは?!
「はい、これが本体だよ」
「わお、ダンベル……」
机の下から現れたのは人間一人分はあるかという長さの黄金のダンベル。アルヴィンはそれをテーブルの上のズドンと置いた。
「両端に穴が開いているだろ? そこにさっきのリングをはめるんだよ。魔力を込めたらリングの重さを変える事が出来るから、30㎏から500㎏までの重さ調整が出来るよ」
「な、なんと……?!」
「つまり」
「つまり……!」
「筋トレが出来る」
アミーゴ! 筋トレが出来る!! しかも重さ調整は魔力で出来ちゃう簡易機能付き!!
「ウィズは筋トレが趣味だって言ってたから、隣国に来たプレゼントにと思って、この魔道具を作らせたよ」
「すごおおおおい!! このサイズなら持ち運び出来ちゃう!!」
「喜んでくれて嬉しいよ、じゃあこれあげるね」
「とても嬉しいです! ありがとうございまっ」
「姉さん」
ハイドの手が私の肩にぽんっと乗った。
「貰うんじゃない」
「なんでーーっ?!」
「ダンベルだろうが、おもりだろうが、端から見たら指輪にしかみえない」
アルヴィンはきょとんとした顔で首を傾げた。
「それは指輪じゃないよ? というか、指につけたら指がへし折れるよ」
「そういう問題ではなく世間的な目がっ」
「ハイド! これはダンベルだから! 指輪じゃないからね!!」
「駄目だ」
「マッスルマッスルむきむきマッチョまっする?!」
「言語を正しく喋られなくなる程に欲しくても駄目だ」
何故なの……! ハイドはお姉ちゃんのマッチョ化を応援してくれないの?!
「じゃあ預かっておくから欲しくなったらいつでも言ってね」
「喉から手がでそうな程にほしいっ」
「姉さん」
「ひぃん……」
この日の事が、世間では「ヨレイド国の王子がヴァンブル王国の王子妃候補に指輪をあげて求婚をして令嬢もとても喜んでいたが、立場の違いから受け取る事が出来なかった。更には王家の紋章を与えてまで娶りたがったが二人の仲は引き裂かれた、なんという悲恋であろうか」と、大嘘な噂が囁かれるようになってしまったらしいけど、私が知るのはあとの事でした。
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