149-1 双子王子との再会



「私達はヨレイド国王様に挨拶しなくて本当に良かったのかな?」

「ファンボス様が必要ないって言っていたんだから従った方が良いよ」

「そうなんだね……」


 数日掛けてヨレイド王国の首都へやってきた私達。

 我らがヴァンブル王国は自然豊かなイメージが強いけど、ヨレイド王国は水の都というイメージだ。海に囲まれた大きな町で、町の至る所に水路がありそこを船で移動している。運河もある事から漁業も盛んなんだろうという事が窺える。


「時間があったら運河も見に行きたいな~」

「運河に興味があるのウィズ様?」

「ふふっ、ちょっとね」


 前世、日本で暮らしていた頃は港町に暮らしていたのだ。なんだか懐かしいからちょっと眺めてみたいなと思ってしまった。

 ……ふむ、前世。私は地球からこの国に転生してきたと思うんだけど。じゃあ更に前世が初代聖女というのはどういう事なんだろう? 何故異世界を行き来しているんだろう?


 用意された貴賓室のソファーに座りながら、優雅な動作で私に紅茶を煎れてくれているリュオの顔をじっと眺める。

 リュオやハイドならこういう小難しい話も相談にのってくれるかな……それでいい答えを一緒に考えてくれたり……いや、でも大切な二人を巻き込んでしまうのはやっぱり怖い。敵が誰で、どんな目的なのか分かっていないし、巻き込んだせいで二人が辛い思いや怪我をするような事があったら……。


「やっぱり更に筋肉を鍛えて私が全て筋肉で解決出来るようにならないと駄目みたいだね」

「世界征服をしたいって話? 計画を立てるのは取りあえずヴァンブル王国に戻ってからの方がいいと思うよ」

「いや! 世界征服の話じゃないからね?!」


 扉からノックの音が聞こえてきて、すぐにハイドが部屋に入ってきた。


「城内の確認が終わった」


 お城についてすぐ、ハイドは移動が許された範囲の城内の場所の確認をしにいっていた。予想よりも早く終わったみたい。


「騎士の方が教えてくれるって言ってたのに、結局自分で行ったんだね」

「見知らぬ土地だ、自分の目で情報を知っておきたかった」


 ハイドは部屋に私とリュオしかいない事に不思議そうに首を傾げた、可愛い。


「他の護衛は?」

「隣の部屋で待機してるよ、お城の侍女さん達はこの魔法のベルが鳴った時だけ来てもらう仕様になってるんだって」

「なんで……」


 ハイドは何か引っかかったようだったけど、それを発言する事なく丁度いいと別の話題に移った。


「僕達が行動を許された範囲は一般の貴賓が許された範囲と同等くらいだった。つまりあまり移動できる場所はない」

「それはそうだろうね、只でさえ隣国の客人という感じなんだし」

「気を抜かないでいた方が良い、この国は友好国ではない……あくまで停戦中の国なんだから」


 ハイドは窓に近づき、外の景色を眺めた。


「まず、姉さんに用意された部屋からあの塔が見える事自体嫌がらせなのかと思うな」

「塔って、あの古い感じの塔?」


 円柱形の縦に長い長い塔。見た所入り口は一つしかないし、その周りは湖に囲まれている……まるで罪人を逃がさないと言わんばかりの構造で、ちょっと不気味な塔だ。


「あの塔には忌み子と呼ばれる第二王子が幽閉されているらしい」

「えっ?!」


 と、いう事はレグルスが? 遠くから見ても塔は所々痛んでいるし、窓も見当たらない。あれがレグルスを閉じ込めている塔だとしたら。


「赤い月の晩、生まれた双子は吉凶の象徴であり、幸福と不幸を呼ぶ不吉な存在である……というのがこの国の言い伝えらしい。第一王子アルヴィンは国に幸福を呼ぶ存在と言われ、第二王子は不幸を呼び込み国を滅ぼす存在だと本気で信じているようだ」

「そんな……」

「ヴァンブル王国にも似たような伝承はあるが……あくまで伝承だろう」


 ハイドは青に変えている瞳を少し手で覆い隠してから、振り返った。


「真相はともかく、国にとって不幸と呼ばれる存在を幽閉している塔が見えるような部屋に大切な客人を泊まらせるか? 少なくともこの国の王は僕達にいい感情を持ち合わせていない事は確かだな」

「そういう事になるね」

「だから、この国では決して一人になるなよ姉さん」

「わかったよ、ハイドを一人にはしないからね!」

「僕の話ではなく」


 私がハイドを守るからね! と息巻いたのにハイドは困ったというように頭を抱えてしまった。

 私達のやり取りを見て、リュオが私とハイドに淹れたての紅茶を勧めながら話しかけてきた。


「ハイドレンジア様が言いたいのは、自分がウィズ様を守るから傍を離れないでって事だと思うよ」

「へ」

「今のハイドレンジア様ならウィズ様を守るにもたり得る力はあるってメティス様にも判断されているらしいから。一般兵を護衛につけるよりは安心できると思うよ」


 リュオに促されるままハイドとソファーに座る。


「そろそろ守るだけじゃなくて、頼ってあげないとハイドレンジア様が拗ねちゃうよ?」

「リュオっ」


 照れ隠しなのかリュオをギッと睨んだハイドにリュオは「ハイドレンジア様の方の紅茶には蜂蜜をどっさり入れました」と言われて、大人しく紅茶を飲んでいた。いやもうね、こういう所が可愛くて……普段無表情でクールなのに甘い物の事になると雰囲気が若干ほわってするのが可愛いんですうちの弟。


 頼る……頼るかぁ。

 リュオに煎れてもらった紅茶を飲みながら考えようとしたけど、その紅茶のあまりのおいしさに目が覚めた。


「美味しい! すっごく美味しい紅茶だねリュオ!」

「お褒め頂いて光栄だよ、この国の茶葉は初めてだから緊張したんだけど。帰国したらもっと美味しいのを煎れてあげるねウィズ様」

「うん!」


 普段から煎れてくれる紅茶も美味しいけど! 更に腕をあげたんだねリュオ! 一体いつの間にこんなに美味しい紅茶が煎れられるようになるというの! リュオは戦えるしお料理も出来るしなんだったらダンスの練習にも付き合ってくれるしで、本当になんでも出来ちゃうね。一家に一人リュオが欲しい。


「ところで王様はまだ戻らないのかな?」

「大々的な訪問ではないにしろ、あの方がここの国王に会うとしたら政治的な面でも色々と圧をかけているだろうから、長くなるかもね」

「や、やっぱりお仕事の意味でも付いて来てくれていたんだね」


 国王陛下自ら出向いているんだから相当な事なんだろうけど、王様は光の大精霊に会いにいきたいという理由以外でも用事があったのかな。


「あれ」


 足音が聞こえる……それも廊下じゃなくて【部屋の中】から足音が響く。


「ねえ、足音が聞こえない?」

「え? 廊下を確認してくるね」

「違うの、廊下じゃなくて」


 リュオとハイドが不思議そうにしている。私しか聞こえない? 視力だけでなく耳もそんなによかったっけ? ううんと唸りながら音が聞こえた暖炉に近づいてみると、突然暖炉が軋んだ音をたてて回りだした。


「ええっ?!」

「ウィズ様! 危ないから下がって……」


 リュオに肩を抱かれて押し戻されて、ハイドが私の前に立った直後。回転扉の向こうから二人の人影が姿を現した。


「あ! やっぱりウィズだ! そろそろ来る頃と思っていたんだ。ようこそ俺達の国へ」

「はっ、ウィズ?!」

「え、え……?」


 同じ顔をしているのに、対照的の雰囲気を纏う金色の髪と黒色の髪の男の子達。


「アルヴィンにレグルスーーっ?!」


 なんで暖炉が回転して二人が出てくるの?!

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