148-2 木と金の大精霊との邂逅

「げほっ、げほっ、リュオ、大丈夫っ?」

「このマントのお陰でなんとかっ、ウィズ様は?」

「私も大丈夫だよ!」


 壁が吹き飛び、その瞬間チェシャさんに被せられたマントが防御壁を張ってくれたようで、私達は無傷で済んだ。


「今の爆発はなんだろう? なんか上から衝撃がきたような感じがあったけど」

「あっ、そうだよ! エランド兄様は?!」


 土煙を手で掻き分けながら、破壊された扉から兄様がいるという儀式の間に入った。


「兄様! 兄様無事……」


 部屋の中に魔力が充満している事に気づく。それも膨大な力が二つ。どちらも澄んでいて息をまともに吸い込むには重すぎる気配を纏っている。


「そこにいるのは誰……?」


 煙が段々と晴れていく。地上から何か大きな力で破壊されたような大きな穴が開いていて、朝日が地下まで伸びていた。

 倒れているエランド兄様とシマエナガのラフィちゃんの前に、二人の人影を見た。

 新緑のような淡い光を放つ長い耳の少女と、頭の上に二本の角を生やした男の人、その肌は固そうで鋼の用に鈍く光っていた。

 人……じゃない、魔力の流れる先はこの二人からだ。

 怖ろしい力を持つ何かがエランド兄様の前に立っている。もしかしてエランド兄様に攻撃したのはこの二人?


「エランド兄様から離れて!」


 剣を抜いて倒れる兄様の前に駆け寄った、人外の何かを睨みながら剣を向けても二人はただ私をジッと見つめるだけだ。


『怪我はポーションを飲んだようだから治るだろうよ』

「え」


 男の人の言葉に驚いて口が開いたままになる。


『この建物は崩壊する……貴方達が逃げるまでの間、魔法で保たせるから……早く陛下を連れて逃げて』


 少女が手をかざすと足下から緑の蔦が伸びて生え、怖ろしい速さで建物全体の壁や床に張り巡らされた。それと同時に男の人も竜のような鳴き声を上げ、崩れかけている壁を更に頑丈にさせて補った。

言葉の通り、私達が逃げるまでの間この建物をもたせてくれるという事だろう。


「貴方達二人は一体誰なの?」


 私の問いに少女は淡々と答えた。


『私は木の大精霊……そしてこっちは私の旦那の……』

『金の大精霊だ!』


 顔を赤くして少女の言葉に被せてきた、ラブコメの波動を感じたのは私だけじゃないはず。


「え、え? 待って、大精霊って?!」


 しかも木の大精霊と金の大精霊はまだ私が出会った事がない大精霊だ! まさかこんな所で会えてしまうなんて! 偶然って凄い!


 そう偶然……あの魔法の本がエランド兄様を追えって言わなければ会えなかった訳で。


「あの、話を! ああっ、でも兄様を先に助けなくちゃ!」

『お前、さっき剣を抜いていたな』

「はっ! 違うんです! ごめんなさい大精霊様だって知らなくて! 兄様に怪我を負わせた悪い人なのかと勘違いをっ」

『守られるだけだった聖女が強くなれたんだな』

『姫様はずっと力がほしいと嘆いたいたから……よかったね』


 聖女? 姫様? それはもしかして前世の私の話をしているの? もしかして大精霊達はみんな、私の前世の事を知っている?


「私は……大精霊の皆さんと会った事があるの?」

『……どうやら、私達が最後だったらしい。条件は満たされた、光の大精霊に会いに行くといい……』

「条件って?」

『前世の出来事を語る事が許される条件というのか、呪いには色々と制約がつく』

「呪い……?」


 金の大精霊は続けて何かを言おうとしていたけど、言葉を言う事が出来ずに喉を押さえて顔を顰めていた。


『エランド……様をこんなにしたのはシロツメクサの君』

「シロツメクサの君……?」


 何故かゾッと背筋が凍る想いを感じた。シロツメクサと言えば、ピアルーンの街での事や、少し前にポジェライト家の庭で何故か狂い咲きした事がある。

 ずっと……何故かいい印象を持てないでいる花の名前。


『シロツメクサの君には気をつけて……ずっとずっと……封印が解かれる日を狙っている』


 ふわりと二人の体が宙に浮いた。もうこれ以上の話はないという事だろうか。まって、私はまだまだ聞きたい事が沢山あるのに!


「シロツメクサの君って何者ですか?! なぜエランド兄様が狙われたの? 私とはどういうっ」

『全ては光の大精霊から聞いて……』

『今までの時間軸では光の大精霊と再会しないほうがいいと避けていたが、戦えるように強くなったお前なら立ち向かえるかもしれないな』

「まっ?!」

『今度こそ、幸せになれるといいね……姫様』


 突風と共に緑色の葉がザアザアと音をたてながら私に吹き付けて、それに顔を背けた僅かな隙に二人の大精霊は姿を消してしまった。


「いない……」

「ウィズ様! 早く逃げないと!」


 リュオがエランド様の元へ駆けよって容態を確認している。どうやら木の大精霊に足下を蔦で固定されて動けなかったらしい。それが解けてようやく部屋の中に入ってきたみたいだった。


「りゅ、リュオ、今の話聞いてたよね?」

「聞かないで欲しかったんなら忘れとくから、とにかく大精霊の加護が残っている間にエランド様を連れて逃げないと!」

「そ、そうだね!」


 とにかく逃げなくてはと兄さんを肩に担いで立ち上がった。リュオの転移魔法は魔力を大きく使うから連発出来ないからね!


「いやいやいや……出来るだろうと思っていたけどそんな軽々と長身の男を持ち上げるなよ」

「御姫様抱っこは狭い通路じゃぶつかっちゃうからね!」

「抱き方の問題じゃなくて……もういいや逃げられたらなんだって」


 リュオは悟った顔をしてラフィちゃんを持ち上げて両手でくるんだ。


「逃げるよリュオ!」

「凄いな、走る速さもいつもと全然変わらないもんな」


 私達が地下施設から地上に出てからすぐ、大精霊の加護が消えた地下施設は激しい音をあげながら完全に崩れ去った。

 騒ぎを聞きつけた兵士に頼んでお城の騎士達も呼んでエランド兄様を保護してもらった。

 そして私はこっそりとポジェライト家のタウンハウスにリュオと帰ったのだけど、その数日後に王家を通して私宛に隣国のアルヴィンから手紙が届いたのだった。



【光の大精霊の居場所を教えてあげるから、魔の森で俺を助けてくれたお礼や、遊学と称して君を隣国に招待しよう】



 と。私が全ての大精霊に出会えた事を何故知ったのかは不明だったけど、とにかく光の大精霊の事を知れるなら行かない選択肢はない。

 メティスを守る為にも光の大精霊に会いにいかなくちゃ!





◇◇◇





 ……と、こういう経緯があって全ての大精霊に会うことが出来た経緯を王様に心の声で説明をした。

 王様は終始黙って聞いてくれて最後に「鳴る程」と頷いた。


『色々と仕組まれた気配を感じるものだ』

『へ?』

『ウィズ嬢、君は一人でなんでもこなそうとしてしまうようだが、もうすこし周囲を頼ってもいいと思うぞ』

『それは……?』

『全てを打ち明けて頼れる相手が多いことに越したことはない、いないのか? 語れるような相手は』


 確かに私も自分の頭の回転の限界を感じて頼れる人がいたらいいなと思ってはいたけど……。

 チラリと隣に座るハイドと、馬車の外を馬に乗りながらついてきているリュオを見た。

 私が頼れるとしたらこの二人かな……パパは魔王という存在に悪感情しかないから絶対に相談できないし。でもっ、私よりも年下の二人に前世がどうとか魔王がメティスだとか話してもいいものかっ、二人なら私の意思を尊重してくれそうだけど、巻き込んでしまうのもよくないだろうしっ。ましてやハイドは乙女ゲームにいたんだよとか言ってどん引きされちゃったらお姉ちゃん悲しいしーーっ!!


「姉さん?」


 じっと見過ぎてしまったようで、ハイドがどうしたのかと首を傾げた。


「ハイド、お姉ちゃんはハイドにはいつも幸せでいてほしいわけでね」

「……僕もそう思っているが」

「可愛すぎませんか私の弟――っ!!」

「ハッハッハッ! 隣国へ到着するまでまだ時間はある、ゆっくり考えるといいウィズ嬢」


 それからワープホールで国境まで飛んで、そこから隣国に到着するまで私はハイドとリュオを交互に見ながらひたすら悩んで唸っていたのでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る