147-3 隣国からの招待状
あっという間に時は過ぎて、私が隣国へ旅立つ日がやって来た。
私とハイドの手続きの数々は既にパパがやってくれている。今回の旅にパパはついてこれないので、その事を酷く残念がっていた。
そして、本当に当日になるまでメティスには会うことが出来なかった。ハイドが言った通りメティスについて来られては色々とまずいと考え直したので、後ろめたい気持ちもありつつ、当日ギリギリに手紙を渡す事で旅立つ事にした。突然の報告ならいくらメティスでもついては来れないし、黙って旅立つ訳ではないから少しは許してくれるんじゃないかなと思って。
そして、私の手紙を届けに王城へ向かったリュオの帰還を待って旅立とうという時に、我がお屋敷の前に煌びやかかつ大きな馬車が駐まった。門の前でハイドと二人、絶句しながらその馬車を眺めていた。
「ハイド、私の視力が下がっていなければ王家の紋章が刻まれている馬車に見えるんだけど」
「奇遇だな姉さん、僕にも王家の紋章が見える」
「だよね?! これ王家の馬車だよね?! なんでうちに駐まってるのかな?!」
驚き慌てる私の後ろからパパの声が聞こえてきた。
「お前達はヴァンブル王家の加護の元、ヨレイド王国へ向かうと説明した筈だが」
「え?!」
「聞いていません父上」
どういう事なのとハイドと一緒にパパに振り向くと、パパは逆に変な顔をした。
「一ヶ月ほど前の晩餐の時に伝えただろう、俺が隣国へ立ち入れない代わりにお前に信頼おける保護者をつけると」
「それは聞いていたけど王家だとは聞いていないよパパ?!」
「俺が信頼していると言った時点でアイツだと察すると思っていたが」
「どの方?!」
またパパが説明を省略してたんだ!! 大切な事をまたちゃんと伝えてない!!
馬車の中から合図するようにコンコンと扉を叩く音が聞こえて、近衛騎士が馬車の扉を開けた。
「そういう訳で私が一緒についていく事になっているんだ、ウィズ嬢」
「おっっ王様?!」
流石に驚き過ぎて倒れるかと思った。パパは保護者って言ったよね? 一国の王を保護者呼ばわりしちゃ駄目だと思います!!
「こ、こ、こ、こく、こくおうへいかにおかれましてわ、わわわわっ」
「ははは、楽にしてくれていい、私と君達の仲だろう」
流石のハイドも青ざめている。もうどうしてこうなってしまったの。
「ウィズ嬢、隣国から君に手紙が届いた時点で私も共に行こうという話をヴォルフとしていたのだよ」
「そ、それは何故でしょうか? アルヴィン王子より招待されたのは私だけの筈ですが」
「ヨレイド王国と我が国は表面上は和平を結んでいるが、裏では少々きな臭いからね」
「え……」
王様は馬車の中で座ったまま、足を組んで不敵に笑っている。
「そんな国からの招待状だ、我が国にとって大切な人材である君にもしもの事があってはいけない。あの国の王を黙らせる事が出来るとしたら、同じく王族である者くらいだろう」
「それなら、国王陛下御自ら出向かれるのではなく、メティスやエランド様の方がよろしいのでは」
「ふむ、だがあの二人は三男坊のせいで今忙しいようでな」
王様の声と脳内にガラスを弾くようなキンという音が重なって聞こえた。これは前にも経験した事がある。王様が魔法で相手の脳内に直接話しかけて来たときのあれだ。
『やあやあウィズ嬢聞こえるだろうか? ヴォルフ達には聞かせられない話だと思って君だけに語りかけているよ』
『は、はい、聞こえます!』
ハイドとパパをチラリと見ると、何やら揉めている。ハイドも話を聞いていなかった事でパパに少々文句があるようだった。
『君がアルヴィン王子から招待を受けたという事は、五行の大精霊全てと出会えたという事かな?』
『……はい、会えました』
『そして、光の大精霊の話をアルヴィンに聞きにいくと』
『そうです』
王様はそうだろうなと言いながら、表面上は笑顔を取り繕ったままで保っている。
『そうだろうと思って私も共にいくことにしたのだ。私も光の精霊と話がしたかったからね』
王様は光の大精霊と契約して、先代の魔王を封印した勇者だった。王様と契約を破棄したあと、光の大精霊は隣国に渡ったのだとアルヴィンが言っていた。
『王様も光の大精霊とお話したい事があるんですか?』
『そうだな、泳がせておくには危険になってきた気がするのでな』
『それは?』
『光の大精霊が、メティスが魔王の生まれ変わりだと気がついたかもしれない』
ゾッと体中が一気に冷え切った。歴代の魔王を封印してきた光の大精霊が魔王の生まれ変わりがメティスだと気がついたかもしれない?
『それに、魔王との戦いで私と魔王がどんな事を語らったのか……そろそろ奴にも教えても良い頃かと思ったのだ』
『失礼ですが、何をお話になるつもりですか? メティスに、なにか危険な事がおきるというならっ』
『大丈夫だよ、今回私がついていく事にしたのは、君とメティスを守る為だからね』
王様はおどけるように肩をすくめて笑っている。
『それに、エランドよりも私が出向いたほうがいい。隣国が何か仕掛けてきたとしても、この国は次代を担うエランドがいれば問題はないだろう』
『お、おうさま……』
『おや、あれだな、自分で言っておいてなんだが死亡フラグとやらをたててしまったな』
『王様~~っ!!』
冗談だと王様は笑う。そして、いつの日かメティスが誘拐された先で放っていた圧倒的強者のオーラをほんの少し瞳に宿して目を細めた。
『安心しなさい、これでも私は勇者と呼ばれた男だ。己の身も、未来の娘達の身も必ず守ってみせるよ』
かっっこいい……凄くかっこいい台詞と笑顔だった。流石エランド兄様のお父様……不意を突いてかっこよさで乙女心を殴りにかかってくる。
王様はパン! と手を叩くと脳内の会話を打ち切り、口に出して喋りだした。
「私が行く事で国同士の牽制にもなるのだ、それに勿論私の仕事もある、先方には既に伝えているよ」
「つまり、私とハイドだけが知らなかったと……」
「私と君達が向かっても不思議ではないよ。ウィズ嬢は将来王家に嫁ぐ身であるから、国王と王子妃が隣国へ招待されたとしても問題はない」
「その言い方が問題があるだろうが……」
パパが低い声で王様を威嚇している。どうやら王子妃という言い方が気にくわなかったようだ。
「分かっている、ウィズ嬢がポジェライト家を継ぐかどうかは置いておいて、こういう時こそ権力を利用して安全を確保すべきだろう? 嘘でも誠でも王子妃という肩書きを使っておいた方が身のためだ」
「……そうだろうが」
「本来なら婚約者のメティスが共に来る所だろうが、残念ながらアイツは公務で忙しそうであるからな~」
だから自分がいくと王様は言う。え……いいのかなこれ。いや、私の為だけじゃないもんね? 表向きは私の用事と王様の公務が偶然重なったから一緒に行くという……そういう事にして王様は光の大精霊に会うのに一緒についていきたいという事なんだね。
パパも賛成していたという事だし、確かに王様と一緒に隣国に訪問する程安全な事はないだろう。私としても、光の大精霊の事情を知っている王様が一緒のほうが安心出来るしね。
パパと王様は少し会話をして、準備が整ったとばかりに私とハイドを王家の馬車に乗せた。
ああ……やっぱり王家の馬車で行くんだね。こんな大事になると思わなかったなぁ。
「王様、メティスはやっぱり忙しいのかな?」
「残念ながら、密輸船の事件の処理と、私が不在の間のエランドの公務の補佐で大変忙しいだろうなぁ」
「前に聞いた話よりも酷い状況になってる……!」
どうしてこんなにもエランド兄様もメティスも忙しい状況になっているの? 兄様に至っては忙しすぎて私が居なくなった事にも気づけなさそうなレベルになってる。
「ああ、君の専属執事君も戻ってきたみたいだね」
王様に言われて窓の外を見るとリュオが馬で駆けて戻って来た所だった。
「リュオ! こっちだよ!」
馬車の窓から顔を出して手を振って呼ぶと、リュオはにっこり笑顔で私の元にやってきた。
「頼まれたとおり、メティス様に手紙を渡しておいたよ」
「直接渡せたの? 忙しそうじゃなかった?」
「執務室の空気が地獄だったね」
「あ、あぁ……」
サンレドブルーが関わっているし、主にアレスが大変メティスにこき使われそうな予感がする。手加減してあげてねメティス……。
「あれ? リュオその胸のお花はどうしたの?」
リュオの胸ポケットに青色のお花が刺さっている。青薔薇かな?
「おまけにってくれたんだよ」
「なんのおまけ?」
「メティス様がウィズ様に渡して欲しいってさ」
リュオから青薔薇の花束を渡された。メティスの部屋に入った時と同じ香りがして、心がほわっと温かくなる。
「メティスが私にくれたの?」
「うん、二人にとって特別な花だから渡してくれって」
「えへへ、ありがとう」
メティスの事だから、もしかしたら是が非でも付いてくるかもと思っていたけど、今回ばかりは難しかったみたい。それで良かったんだけど、少しだけ残念に思っている自分もいる。けど、思い出の青薔薇の花束をくれたから、メティスのいってらっしゃいが優しくて嬉しい気持ちでいっぱいになる。
「隣国についたらメティスにお礼の手紙を書かなくちゃ」
「書いたら俺が届けるから言ってね」
「うん」
待っててねメティス! アルヴィンに光の大精霊の情報を聞いて、光の大精霊に直接会ってくる! そして返答次第では懲らしめてくるね! メティスを、魔王様を守る為に私頑張ってくるね!
「パパ行ってきます!」
「二人とも気をつけて、何かあったらすぐに戻れ」
「うん!」
「はい」
パパは隣国の王族からの招待状を断れないと知っていた。そして、隣国に最も睨まれているパパは立ち入る事すら出来ない。だからこそ、最強の味方を傍につけてくれた。
私とハイド、そしてファンボス王を乗せた馬車が動き出す。
「ハイド、到着するまでの間どうする? 恋バナでもする?」
「……する」
「するんだ?!」
予想では嫌そうに拒否されると思っていたのに。相当ルティシアとの関係に切羽詰まっているとみえるねハイド……。
『ああそうだウィズ嬢、もう一つ聞きたい事があったんだが』
また王様が脳内に話しかけてきた。という事はハイドには聞かせられない内容という事だ。
『社交界デビューの日までは、君は木の大精霊と金の大精霊には出会っていなかった筈だが。一体いつ出会ったのかな?』
王様は確信していて、けれど私の口から直接聞こうとしているようだった。
それは気づくだろう……だって王太子殿下であるエランド兄様が城を抜け出したあの日に兄様の後をつけて行って、倒れている兄様を見つけてお城の兵を呼んだのは私だったんだから。
『倒れたエランド兄様を崩壊した地下闘技場で見つけた時に、そこで木の大精霊と金の大精霊に出会いました』
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