144-1 シナリオなんてクソくらえです



 光属性の魔法は光の大精霊と契約しなくては使えない筈。なのに、何故ラフィがその力を使う事が出来るんだ?


「ラフィ……お前は一体?」

「何やら懐かしい匂いがすると思ったらお前か」


 シロツメクサの君が喋りだし、桃色の髪の少女は目を見開いたままで動きをピタリと止めた。

 ラフィはガタガタと震えているが、俺の前から退けようとしない。


「もうそろそろ消滅した頃だろうと思っていたが、そんな死に損ないの鳥の体を借りて、いつ外に出てきた?」

「う、うぅっ」


 ラフィとの出会いはドワーフの里、ドドブル鉱山の壁画前だ。助けを求める声に導かれて封印を解いた事が始まりだった。


「まさか……お前を封印していたのが、シロツメクサの君だったのか?」

「そ、そうです……ラフィ、今ならちゃんと思い出しました。

私は、次代の光の精霊として創られました。でも、生まれる前に封じられてあそこに居た……です」

「なんだって?!」


光の精霊と言ったか? ならば歴代勇者や父上と契約したのもラフィ……いや違う、ラフィはずっと封印されていた筈だ。それに、次代光の大精霊という言葉も気になる。


「創られた器を奪われて、魂だけ封じられていた、です」

「私がお前の力を奪って殺す事は残念ながら出来ない。だから長い年月をかけてお前の力を吸い取り操り人形を作っていたというのに」


 シロツメクサの君が目を見開いたまま動かない桃色の髪の少女の肩を叩く。一目見た時から無機質で感情が乗らない瞳だと思っていた。

 まさか、あの少女の体は本来ラフィのものだという事か? 魂と体を引き離されて、魂だけ封じられ体は操り人形の傀儡として使われていたと?


「この器にはお前の魂から吸い取った光の魔力を流し込んでいる。性格やらの感情表現は人間が好みそうなものを書き込んでいるが魂はない」


 桃色の髪の少女……ラフィの体の肩に爪をたてながら憎しみを感じる程に強く掴んでいるが、ラフィの体は何も反応しない。発言した通り、アレには魂が入っていない操り人形だという事だ。


「あとはお前が消滅すれば全ての光の力を回収できて、完全なる聖女の模造品が出来上がる筈だったのに……!」


 大気がバリバリと音を立てて震え出す。シロツメクサの君の殺気の全てがラフィに注がれた。


「まさか、ルーパウロの主様が定めた運命の契約相手と今世で再会していたとは! もう少しで消滅していた筈が力を共有し、生きながらえているとは!!」

「そ、そそそそれは私になる前の貴女の役割だった筈です! けれど貴女はルーパウロの主から離れたくないがばかりに沢山の罪を犯しました! だから次代のラフィが生まれたですよ!」

「ああ、だから私の力の全てを奪って生まれようとしたお前を封印したのだ。私は破滅しない、消えてやらない、必ず初代聖女の魂を内側からズタズタに斬り裂いて壊してから魂もろともこの世界から消し去ってやるのだ!!」


 シロツメクサの君が黒い稲妻をラフィ目掛けて放った。


「お前を殺す事は出来なくとも痛めつける事は出来るのだぞ!!」

「ひっ」

「お前なんて誰も必要としていない誰もお前を知らない誰もお前を愛さない!!

だから、せめて役にたてるように私の為に消えて散れ!!」


 絶望の色に染まった顔色になったラフィを押しのけて立ちはだかった。


「エランド様!」

「ラフィの運命をお前が決めるな!」


 聖剣を大きく振り下ろし稲妻を弾き飛ばした。


「たかが剣で私の魔法を弾くなどっ、いやまさかその剣は、あの出来損ないの犬……っ」

 僅かに動揺しているシロツメクサの君に剣を向けた。

「どう生きていくかはラフィが決める事だ。

誰に出会い愛されるのか、その可能性を奪ったお前がラフィに発言出来る事など何もない!」

「エランド様……」


 背に庇っているラフィに語りかける。


「ラフィ、ゼノはお前があまりに純粋すぎてこの先が心配だと言っていた」

「ゼノ様?」

「だからこそいろんな者と会話をして世界を広げられれば良いのにと心配していたが、それはゼノがお前を気に入っている証拠なんだ。お前はまだ俺やゼノくらいとしか会話をしたことがないだろうが、お前ならきっと色んな人に愛される存在になる」

「そうでしょうか……そう、でしょうか」

「大丈夫」


 顔だけ振り向いて笑って見せた。


「お前には誰もいない訳じゃない、誰かと出会う機会を奪われていただけだ。常に一生懸命で相手を思いやるお前の事を愛する者はこの世界にきっと大勢いる」


 こんなに小さいのに、俺を守る為にと自分を陥れた巨悪に立ち向かおうとしてくれた。誰かに守ると言われて、誰かに背に庇われて、それがどれ程嬉しかったか。


「俺もラフィと出会えてよかった」


 ありがとう、ラフィにはラフィとしてこれからも生きていてほしい。

 誰かに必要とされたいのなら、俺がその証明となろう。ラフィが俺を必要としてくれたように、俺も必ずお前を守ろう。


「今のお前は一人じゃない、そうだろう?」

「……っはい!」


 クッと、失笑する声がシロツメクサの君から漏れた。


「茶番だな……」


 頭にかぶっているフードを鷲掴み、堪えきれないとばかりに嘲笑う。


「お前達がどう足掻こうが魔王様の復活を防ぐ事などできまい」


 シロツメクサの君の合図でラフィの体が再び動き出す。


「シなりお……シナリオを、修正しなくては」


 自分の足に光の魔法を打ち込み、瞬足になり俺の目の前に躍り出た。


「私の名前、フィローラって言うんですよ」

「その名前はっ」

「驚いたでしょう? そうですよそうですよ、エランド様がそこの鳥ちゃんに付けた名前と同じですもんね!」


 手に握り絞めた光の刃で的確に俺の左目を狙ってきた。その手を払い落とし、ラフィと共に後ろへ下がる。

 ラフィの名前はフィローラと俺がつけた名前だ。ラフィという呼び方は愛称として呼んでいるもの。


「フィローラという名前、前世のエランド様がルーパウロの主から光の精霊を契約相手として貰う時に考えた名前なんですよ! その名前を付けているだなんて、フフッ、記憶は戻っていなくても本能で分かっているという事ですね!」


 ラフィの体は操られるがまま、目を見開いて心の無い笑みを浮かべて俺を指さした。


「ラフィを守ってくれるんですよねエランド様? じゃあ私がエランド様に何をしてもこの体も傷付けずに守ってくださいね!」

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