143-3 シナリオを修正しよう
シロツメクサの君が赤黒い稲妻を魔法で作りだし、俺目掛けて打ち込んできた。
「雷の魔法か?!」
聖剣を振り下ろし、その一撃を相殺するも、握り絞めた剣から唸るような振動が響く。雷属性の魔法はかなり稀少だ、いやあれは本当に雷か? 雷に何かを混ぜ込んだような禍々しいオーラを纏っている。
「力の全てを寄こせとは言わない」
今度は頭上から雷を打ち込まれ、ラフィを庇いながら攻撃を避けた。
「半分あれば聖女を陥れる力を蓄えるに十分だ」
俺の周りに円を描いた雷の輪が現れ挟み込もうとしてきたが、体の軸を回転させて炎を宿した聖剣で切り裂いて破壊する。
「それに全て奪ってお前に廃人になられては困るんだ、お前には私よりも弱い力で有り、私の思い通りに藻掻いてもらわなくては」
地面の裂け目を縫うように赤黒い雷が怖ろしいスピードで蛇のように這って迫る。
「今一度魔王様には信じる者全てに裏切られ絶望に染まって頂かなくては!!」
聖剣を地面に突き刺し、炎の魔法を解放して迫る雷にぶつけた。押せど押し返しの猛攻に酷く空間が揺れ、砂埃が辺りに舞う。
「そうしてようやく、魔王様は完全に復活を遂げられるのだ」
「ふざけた事ばかり言うな!!」
地面に刺した剣に更に炎の魔力を流し込み、縦一閃に剣を振り上げて相手の攻撃を相殺した。
「ハァ…ッ、ハッ」
息が上がっている、これぐらいで息が上がる程弱くはない筈だが。いや、違う……これは疲労からではなく、酸素が足りないんだ。いくら息を吸い込んでも満足な分の酸素が得られなくなっている。
「炎属性の魔法は止めた方が良い」
シロツメクサの君は笑いながら周囲を見ろと促す。
「この空間だけ切り取り時間を止めてある」
「なっ」
この部屋全体が巨大な半透明のガラスのような四角い箱に捉えられている。先程の猛攻はこの魔法の展開をバレないようにさせる為だったのか。
「新しい時はここでは流れない、消してしまった時間は戻せない。ここに留まる酸素を炎で燃やせば酸素は消えるだけだ」
つまり、ここで炎の魔法は使えないという事だ。炎の大精霊のフォルを召喚しただけで酸素が失われてしまうだろう……まさかそれも見越してここに閉じ込めたか。
「そんな事をすれば貴女にも死の危険があるだろう」
「私か? 今の時点で死なれるのは勿体ないが死んでも構わない」
死を恐れないというのか、隣にいる仲間も巻き込むというのに。
「もしやこれの事を気に掛けているのか? エランド王は相も変わらず胸くそ悪い程にお人好しだな」
隣にただ立っていた少女の肩を掴み、深く笑う。
「だが、これは酸素が無い程度では死なない作りになっている、問題ない」
「ならばお前達が何者か正体を検めさせてもらおうか!」
炎の魔法は使えない、ならば剣術で戦うのみ。素早く間合いを詰めて剣を振りかぶるが、シロツメクサの君を守るようにもう一人が間に入ってきた。
「……私、守ります!」
「なっ?!」
同じ歳位の少女が魔法で光の盾を作り俺の攻撃を防いだ。フードが肩に落ちて顔がよく見える、桃色の髪に金色を主体としながらも光に当てられて多様な色に見える瞳。感情が全く乗っていない張り付いた笑みを浮かべていた。
盾に弾かれて一度後ろに飛び退く。見間違いで無ければ今のは光属性の魔法じゃないか? あれは光の大精霊の加護を受けた者か、契約した者ではなければ使役出来ない筈では?
「エランド様とヒロインはまだ出会ってはいけません。貴方はルーパウロ学園に入学してからヒロインの私と出会い、私に恋をするんですよ」
「何を言っているんだ?」
「ヒィッ」
俺のファーの中に隠れていたラフィが桃色の髪の少女を見て恐怖に戦いた。
「あ、ぁ……なんで、どうして」
「ラフィ?」
「エランド様!」
桃色の髪の少女が両手を叩いて俺を呼び微笑み掛けてくる。
「出会いはルーパウロ学園の図書室でなくてはいけません。ここで私達は出会ってはいけないと私の体にいんぷっとされているんです。ですが大丈夫です、シロツメクサの君が言っています、エランド様の魔力を半分奪って貴方を弱体化させてから私との出会いの記憶を消すと!」
この空間で、無機質な少女の笑みがよりいっそ不気味に思えた。
「ですから、貴方は安心して私に恋をして、私と世界の為に、そしてシナリオ通りにメティス様を殺してくださいねエランド様!」
「ふざけた物言いは止めてもらおう!」
「えー? どれに怒ってるんですか? あっ! もしかしてメティス様を貴方が殺すという話ですか?」
口元に指先をあてて「くふふ」と愛らしい声を漏らす。
「エランド様! 貴方は絶対にメティス様を許してはいけません! だってメティス様は沢山の人を殺したんですよ!」
「は……」
「この魔法召喚の儀式の時に魔力を爆発させて魔法使い含む、大勢のなんの罪もない人質と奴隷を殺しました! ピアルーンでは町に魔物をけしかけて大勢の人を殺戮してしまいました! 社交界デビューのパーティーの時は自分に向けられた暗殺者を魔王の力で殺して、それを見てしまった貴族達を無慈悲にも口封じにと殺したんですよ!」
なんだ……今の話は、どういう事だ。メティスが罪も無い人々を殺した?
いや違う、俺が受けた報告ではメティスの誘拐事件の時に捕まった子供達の多くは救い出されていたし、ピアルーンも死者は出ていないと。社交パーティーでは暗殺者が現れたが迅速に捕まえたお陰で被害はなかったと。
だが、もしも俺が知らない情報があったとしたら? メティスを案ずる俺を見越して父上が情報操作をしている可能性がないとは限らない。
「それも楽しそうに楽しそうに殺したんです! そんな魔王を貴方は赦していいんですか? このままでは更なる犠牲が出てしまいますよ!」
「メティスは、そんな事をする奴じゃない」
「魔王として覚醒してしまえば人間の頃の理性なんて無くなりますよ! 今のメティス様を信じていたとしたらそれは無駄です」
無駄……か? メティスは変わった、色んな物に興味を示すようになり、自分も気づかぬうちに誰かを大切にする事を学んだ。よく喋るようになったし、笑うようにもなった。魔王として覚醒したら……その人格も想いも全て無駄になるというのか?
メティスが魔王として覚醒して人々を殺すというのなら俺はメティスを止めなくてはならない。けれどメティスを失いたくもない。だが、国を守る者として最後は必ず決断しなくてはならない。間違えられない……俺は、誰を信じたらいい?
「そういう事ですので、シナリオを修正した未来ではよろしくお願いしますねエランド様! シャイニングアロー!」
動揺していたせいで動きが一歩遅れた。炎の魔法とまではいかずとも操れる土属性の魔法を行使しようとしたが発動しない。この場の時間を止めたと言っていたが消せは出来ても動かす事は出来ないようだ。剣であの無数の光の矢を弾けるか……だが反撃をするにも間に合わない。
「お休みなさいエランド様! ゲーム通りの隻眼の貴方もきっと素敵ですよ!」
迫り来る光の矢をこの身に受けるのだと覚悟を決めた時、俺の肩からラフィが目の前に飛び出した。
「しゃいにんぐあろーっ!!」
ラフィの体が光り輝き、全く同じ魔法を詠唱し、無数の光の矢を生み出した。それは鋭く放たれ、相手の攻撃を全て打ち落とした。
「ラフィ……? お前光魔法を」
「わ、わたし、隠れないです、逃げないです」
ブルブルと可哀想な程に震えながらラフィは叫んだ。
「ラフィはっ、エランド様を守るです!!」
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