143-2 シナリオを修正しよう
「何者だ」
剣の柄に手をかけ突如現れたフードを被った二人組を睨み付ける。
なんの気配もしなかったのにどこから現れたというのか。それにこの場所は国が管轄している危険地区に指定された場所、一般人が迷い込む筈がない。
やはりダルゴットの罠だったか、だがダルゴットの気配は感じられない……どうせ証拠を残さずにしらばっくれるつもりなんだろう。
「シナリオを修正するならこの場所が一番正しいと思ってな、偶然ここに来てくれるとは嬉しいよ」
「偶然? ダルゴットを通じて俺を呼び出したの間違いでは?」
「おやおや……なんの事やら」
くつくつと意味深に笑う。対してもう一人は項垂れたまま何も喋らない。しかし分かる事は、声や体格、雰囲気から察するに二人とも女性という事だ。
「応えるかは別だが、俺をここへ呼び出した理由を聞こうか?」
「話が早くて助かるぞ、そうだな……私の事はシロツメクサの君とでも呼んでくれ」
フードの隙間から見える薄紫の髪を揺らし、自分をシロツメクサの君だという女は笑みを深めた。
「私は誤った道に進んでいるシナリオを修正したいのだ」
「シナリオ……?」
「私が描いた未来へのビジョンがあってね、何度繰り返しても邪魔をされているんだ。だからその度、この人形を動かして戦う騎士を変えてみた、とある時間では竜騎士ゼノを、とある時間では妖精師ラキシスを、そしてエランド王太子……お前を」
「戦う騎士と言われてもな、俺はお前達の事など知らないが?」
「はははっ、今はそうだろうな。私がしている話は未来の話なのだから」
「未来の話……だと」
「信じるかどうかはお任せしよう。だが、私達は何度も同じ時間を繰り返している、私と初代聖女の戦いが完結するまで永遠に繰り返される。何度も時間を巻き戻しているが、その力も残り僅かだ……これが本当に最後の巻き戻りの時間なのだから私も慎重に行動したくてね」
初代聖女とシロツメクサの君との戦い……?
普通なら信じがたい話であるが、初代聖女……つまりウィズの名を出されては反応せざるを得ない。俺達に前世というものがあり、今に至るのなら、時間を操る術があるというのも少なからず可能性はある。
それに、初代聖女と敵対している者がこの女性なのだとすれば──。
「初代聖女の生まれ変わりに呪いをかけたのは、貴女か?」
「呪い?」
「恋が出来なくなる呪いの事だ」
「ああ、あれか。ははっ、あれは私ではない。しかし、あれを呪いと呼ぶか、実に愉快で実に哀れだな!」
シロツメクサの君は狂ったように高笑いをしている。ウィズに呪いをかけたのはこの女性ではないという事か?
「しかし、あの呪いを解いてくれるというなら私としても助かる。あれがあるせいで初代聖女の魂は守備に長けてしまっているのだから」
「馬鹿な! 心を喰われる呪いのどこが守備だというんだ!」
「ならばお前が解けばいいだろう、呪いの解き方はお前であれば簡単だ」
何かを投げて寄こされて、それを受け取る。手のひらサイズの丸い銀の箱だが、力を加えてもそれは開きそうにない。
「その中には私の呪文が施された小さなナイフが入っている、それで呪いをかけた相手を刺せば呪いの根源は絶たれるだろう。私の気配を察しされると面倒だから、その銀の箱で封じられてはいるが、時がくれば開くだろう」
「何故……こんな力を寄こすんだ」
「呪いを解きたいのだろう? 力を貸してやると言っているんだ」
こんな力全く信用出来ない、呪術に長けているメイベル師匠ですら数年掛かっても解呪方法を見つけられていないというのに。
「捨てても構わないが、それが呪いを解く唯一の方法だ」
「……呪いを掛けた者は誰なんだ」
「この私と対になる存在だ、故に呪いを解くには私か呪いをかけた本人しか出来ない。だが、奴は絶対に呪いは解かないだろう、寧ろ最近は呪いを強化したように思えるが?」
こんな怪しい奴から貰ったものなど信用に値しない、だが呪いが解ける唯一の方法だと聞かされて無碍に出来ない。城に戻ってから調査するとしよう……捨てるにしても何か情報を得られるかもしれない。
受け取るという意を組んだのか、シロツメクサの君は満足げに笑った。
「さて、私の話に戻そう」
「お前が言う未来のシナリオを修正したいという話か」
「そう、何度も輪廻転生を繰り返して分かったよ。ラキシスルートは面倒ごとが付きまとうし、ゼノルートは有効ではあるが竜の怒りで身動きが取りづらい。
エランドルート、結局は初代勇者の生まれ変わりであるお前が一番魔王様に立ち向かう力を持つのだと!」
今度こそ鞘から剣を抜き放つ。俺を初代勇者の生まれ変わりだと確信している以上、前世でも出会った事がある人物だと確信した。
「貴女は前世でも俺に会った事があるという事か」
「あるとも、だが私はお前が憎くて仕方が無かったよ」
黒い煙が辺りに立ち込め、魔方陣が淡い紫色の光を放ちだした。
「我が君はただ一人だけだったのに、あの方の傍にずっと居たかったのに、あの方は私をお前に下げ渡して契約させようとしたのだ。人間如きのお前と……あの方に捨てられて何故お前なんかと……ッ」
地鳴りが聞こえて地面が揺れ始めた。シロツメクサの君が何かの魔法を発動したに違いない。
「ラフィ! 危険だから後ろに下がっていろ!」
反応が無い、肩の上を見るとファーの中に潜り、頭を埋めながらガタガタと震えていた。
「やめて……やめて……やめて……」
「ラフィ? どうした?」
俺の声に応える余裕が無いほどに怯えている。何に? この状況にというよりも……あのシロツメクサの君に怯えている?
「エランドよ、お前がこうして無事にいること事態がシナリオから逸脱してしまっている、あの日お前はこの場所で赤き瞳を捧げなくてはならなかったのに」
「あの日、というのはまさかメティスが攫われた事件の話をしているんじゃないだろうな?」
「そうだとも、愚かな手下の人間達には魔王復活の儀式に必要な贄であると偽りを伝えた。魔王復活の器として第二王子を、そしてその贄として人間の子供を、鍵となる贄には赤目を持つエランド、お前をと」
揺れが酷くなっていく、地下であるこの場所が倒壊してしまっては逃げる術を失う。ラフィもいる、戦うよりも脱出を優先しなくてはならないか。
「本来は第二王子に人を殺させる事が目的だったのだ。人など簡単に殺せる事を理解させて、貴方の力があれば何人も何百人も何千人も殺せるのだと、世界は貴方のものであるのだと、その力の素晴らしさを思い出させようと思っていた……が、実際は邪魔をされて救出されてしまったが」
「まさかお前がメティスの誘拐の指示をしたというのか?!」
「魔王様の復活を望む愚かな人間を誑かせば簡単な事だったよ、馬鹿な話だ、魔王様は既に産まれていたというのに」
やはりそうか、メティスは精霊王の生まれ変わりであり……魔王だ。
つまり、魔王という存在は最初から魔王であった訳ではない。
ルーパウロの主であった世界の要……精霊王が堕ちた姿という事だ。
ぐらりと目眩がする、何故精霊王が堕ちたんだ。何故魔王となった。何故魔王は人間を殺す? メティスお前は……人間を殺した事はあるか?
もしも、俺が知らない所でメティスが多くの人を殺め、自分の力に溺れて死を楽しみ望むような存在になってしまっていたら俺は……王太子としてお前を罰しなくてはならなくなる。
「私が甦る為にはこの人形だけでは力が足りない」
隣に立つ俯いた女性を見てから、俺へと振り向いて残酷な笑みを浮かべた。
「シナリオの通りに、お前の瞳に宿る力の半分を私へ寄こせ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます