142-2 光の大精霊と初代勇者の契約について
光の大精霊と初代勇者……つまり前世の俺が魔王を討伐するという約束を交わしていた?
「ではもしも、俺が生きる時代に魔王が復活したとしたら、俺も光の大精霊と契約する代わりに力を譲渡して金の目に変わるという事ですか?」
「お前が光の大精霊に力を渡す事はないさ、何故なら初代勇者が大精霊と約束を交わし、末裔達に己の力の半分を未来の一人一人に受け継がせた。そのお前の力を末裔達が光の大精霊に渡し続けてきたのだから、お前はもう代償は払っているという事になる」
初代勇者の強大な力の半分を未来へ紡ぐ末裔達へ流したと。そして、その者達は歴代勇者となり光の大精霊と契約して力を譲渡して共に魔王を討伐してきた?
だが、何故そんなまどろこしい事をしたんだ? 普通に考えれば初代勇者が生きていた時代に力を未来の末裔達に譲渡せずに自分が光の大精霊と契約して倒せただろうに。
初代勇者が魔王を倒す事を拒否しているように思える……そう前世の俺が。
考えろ、自分がどうしてこんな契約をするのか。国を守ると言う事を俺が見捨てるとは思えない。光の大精霊に俺【たち】の魂を未来へ連れて行くという約束とは?
確かに先日視た前世の光景では、前世と今を生きる者達で名前も姿も同じ者が大勢いた。未来へ連れて行くというのはその者達の事だろうか。
前世の俺が魔王を倒す事を断念して、大勢を未来に連れて行く目的は? 何故魔王を倒さなかった、強大な力を持ち人間を滅ぼそうとする魔王を何故……。
そこでふと、最悪な可能性が頭を過ぎる。
いや……まさか、違うだろう? けれど、前世と今の大きな存在の違いを無視出来なかった。
魔物が今の世界では溢れかえっているが、前世では居なかった。ルーパウロの主という絶対的な精霊達の創造神がいて人間界とのバランスを計っていた者が今の世界にはいない……その代わり居るのは魔王という存在。
そして、ルーパウロの主……精霊王の生まれ変わりは間違いなく、メティス。
最悪の想定に思わず酷く顔が歪み、拳を強く握りしめてしまっていた。
俺が、前世の俺が魔王討伐を躊躇する理由がそれしか浮かばない。けれど何故だ、結論を出すには分からない事が多すぎる!
「父上はどこまで光の大精霊から話を聞いているのですかっ」
「光の大精霊から聞いた話はお前の今話した事が全てだよ。けれど、私は魔王を討伐するその瞬間に魔王の呪いを受けた」
「魔王の、呪い?」
「その時はまだ光の大精霊と契約していてね、精神干渉が得意だったもので魔王の魂と同調してしまって、視てはいけないものを視てしまったのだ」
父上は意味深な笑みを浮かべてから、俺の隣へ歩み寄った。
「過去の世界、前世と言うのだろうか? そこで生きていた者達がいたのだろう。
しかし、それとは別に今の世界にだけ産まれて生きている者達もいる、私はその一人だろう」
俺の肩に優しく手を乗せた。
「いなかった筈の者が加わる事で変えられる未来があるのではないかと、私は思っているよ」
「父上……?」
「私はお前達の父親だからな」
ポンポンと二度肩を叩き、そろそろ仕事へ戻る時間だと言う。
「私が話せるのはここまでだ、あと光の大精霊を探すつもりなら止めておきなさい。探すだけ無駄だろうから」
「お待ちください! 魔王とはなんなのですか?! まさか魔王はっ」
「話したくない」
「父上!」
「最後の私の教訓をお前に教えてあげよう」
机に肘をついて不敵に、意地悪く笑う。
「バレなければ何をしてもいい」
「は……」
「いざという時は思い出しなさい、さあもう行きなさい」
強制的に部屋から追い出され、それと入れ替わるように父上の側近達が部屋へ戻った。これ以上の話をすることは不可能という事だ。一人残され、頭を抱える。
「まだ確定ではない、しかしもしも俺の考えが当たっていればメティスは」
視線を感じた。
父上の隣の部屋からだ、まさか今の話を盗み聞きしていた者がいるのではないかと急ぎ扉を開け放った。
「……誰もいない、か?」
部屋には書類の山が積み重ねられていてカーテンも閉められていて暗い。念入りに人の気配を探ってみたが……誰もいないようだ。
「気のせいだったか」
父上との話で気が動転していたせいで気配を読み違えたか。考えを整理する為に自室へ戻ろうと廊下に出た時だった。
「これはこれは、エランド王太子殿下」
「……ウェスト公爵」
ダルゴット・ウェスト。紅蓮院の総帥であり、血の上ではウィズの祖父にあたる人物。だが、ポジェライト家との確執や、俺を持ち上げようとしてくる癖にウィズとの婚約は断固として反対している姿勢は矛盾で不気味。普通ならば、俺とウィズが婚約すれば自分にも利があると思いそうなものだが。富や権力ではなく、他の目的があり俺の周りを嗅ぎ回っているに違いない。
「紅蓮獅子の一つ星にご挨拶申し上げます」
「その名は好きではないと言った筈だ」
「これは失礼、貴方様の赤き瞳があまりにも美しいもので、称える言葉としてつい言葉として出てしまうのです」
昔からこうだ、他の者が赤目に内心恐怖を覚える中で、ダルゴットだけはやたらと赤目を褒め称えてくる。
昔はなんとも思っていなかったが、赤目というのが強大な力を持つ者の特徴だと知った今では、この者も何か知っているのではないかと勘ぐってしまう。
「ご存じでしたかな? 第二王子殿下が誘拐された事件のあの場所、地下闘技場の存在を」
「当然知っているが」
突然なんの話だと顔が歪む。メティスの誘拐事件に関して触れてはならないというのに。
「あまりにも負の力と死者の怨念が溜め込まれているせいで、取り壊すにしても聖職者達が浄化に手を焼いているようですぞ。この数年かかっても浄化が出来ずにいるそうで」
「その件についてはトゥルーペ大神官が担当だったと思ったが」
「ええ、そうですね。ですが、そのトゥルーペが最近になって不思議な痕跡を見つけたとかで」
「不思議な痕跡?」
「その痕跡というのが……魔王復活の痕跡ではないかとの事ですぞ」
◆◆◆
「危なかった……」
王城から逃げ出して、路地裏に身を潜めてからマスクを脱ぎ捨てた。もしも、誰かに姿を見られても俺がリュシェットだとは気づかれないだろう。
この前、エランド王太子殿下とウィズ達がお茶会をしてからというもの、ウィズ姉様の様子が少しおかしかったから、原因を探ろうと無謀にも王城に侵入して王太子殿下をつけてみたら……盗み聞きするには危険すぎる話が飛び出していた。
「光の大精霊と国王陛下が知り合いなのは分かるけど、際どい話をしていたな」
この話はウィズ姉様にするべきだろうか、いや話したら色々と俺の事情もウィズに勘ぐられてしまいそうだ。
「困ったな……タイミングをみないと」
「何が困ったんすかリュシェット」
「うわぁっ?!」
背後から声を掛けられて、驚き飛び退いてナイフを構えた……が。
「フレッツさん?!」
「こんな路地裏で何してる?」
「え、いや……ウィズ様を狙う刺客が潜んでいないか調査を、ですね」
「仕事熱心な事っすね、でも子供がうろつくには危険な場所だ。戻った方がいい」
「は、はい……」
うまく誤魔化せたようだけど、逆になんでフレッツさんがこんな場所にいるんだ?
「フレッツさんはなんでこんな場所に」
「屋根裏の方が相手の顔色も窺えるし、声も聞き漏らさないからオススメ」
「はい?」
「今後の参考にしたらいいっすよ」
「あ! 待ってくださいフレッツさん!」
そういえば俺は休日だからいいけど、フレッツさんはハイドの護衛の仕事の日じゃなかった?! なんでこんな所でサボってるんだよ!
「ハイドレンジア様をちゃんと守ってくださいよ?!」
「それは勿論」
フレッツさんは怠そうに首に手を乗せた。
「急ごう、お互い知らせる人が居るだろうし」
「俺が今知らせたいのはヴォルフ様へフレッツさんのサボり情報ですよ!!」
「あー……それは困った」
この人は本当にわけわかんないな!
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