142-1 光の大精霊と初代勇者の契約について



 光の大精霊の歴史について調べても既に俺が知っている情報しか出てこなかった。魔王が甦ると勇者の前に必ず姿を現し、勇者と契約して聖女を定め、魔王討伐まで力を貸してくれる存在。魔王が封印されれば契約は解除されて、どこかへ姿を眩ましてしまう。

 そんな、国民なら誰でも知っているような伝説ばかりしか光の大精霊に関しては情報が出てこない。ならばと、実際に光の大精霊と契約した事がある父上を訪ねる事にした。


「光の大精霊に関して調べる事は禁じられているとお前も知っているだろうエランド」

「存じておりますが、避けては通れないと判断したので伺った次第です」


 父上は執務室でやれやれと溜息をつき、室内にいた側近達に席を外すようにと指示を出した。

 そして、誰もいなくなってから腕組みをして背もたれにもたれ掛かった。


「何故光の大精霊について知りたいのだエランド」


 まさか、前世の光景を視る機会があり胸騒ぎがするので真実を明らかにしたいのです、とは言えない。信じてもらえるかどうか以前の問題で、正気を疑われてしまいそうだ。


「いずれ私もこの国を担う者として、人を救済する存在である光の大精霊に関して正しい情報を知りうるべきだと思ったのです」

「それは……魔王を倒す為にか?」

「いえ、次代国王として次代に繋げる知識として知る為にです。それに、魔王は父上が封印したばかりの筈、再び現れるのは私の世代ではなく、更にその先になるでしょうし」

「はは……」


 父上は意味深な笑みを浮かべて、机を指先でトントンと突き何やら思案していた。


「エランド、お前にだけは告げておこう」

「はい?」

「魔王と人の戦いは数千と数万年続いている。その中で魔王は人に倒されては封じられてを繰り返し甦り続けているが……もうその力にも限界が近づいている」

「つまり、魔王の本当の意味での死期が近いという意味でしょうか?」


 父上はゆるりと頷く。しかし、晴れない顔をしている。魔王が甦る事なく消えるというなら、人にとってこんなに喜ばしい事実はない筈なのに。


「甦る度に力を使い、人を滅ぼす為に魂をすり減らし続けている。いくら魔王といえどその力は無限ではない……俺の予想では、次に魔王が復活すればそれが最期の戦いとなるだろう」

「なるほど、その戦いで魔王を倒せば今度こそ世界は平和になるという事ですね」

「エランド」


 父上が席から立ち上がった。何かを願うかのように真摯に俺を見つめてくる。


「もしも、その瞬間が来てしまったとしたら……魔王を倒すという使命と、お前が己の心に誓う願いのどちらが最もお前にとって大切なのか考えてほしい」

「父上?」

「世界を守る為には魔王を倒す事が正しい、お前は次代国王だ、魔王を倒す事が正義だろう、国民を守る為にもそうするのが正しい。

だが、お前は幼少期から【守る為に強くなりたい】と言っていたな、その志をどうか最後まで忘れないでくれ」

「おっしゃっている意味がよく……?」

「皆何を思って生きているのだろうな」


 父上は椅子に座りなおし、息をつく。


「お前は守る為に強くなりたいと言い、メイベルという師の元で力をつけた。

メティスは全てはウィズ嬢の為に生きるとでもいうように行動しているが、それについてきてとても人らしくなったよ、子供の頃はがらんとした何もない部屋で過ごしていたというのに今では興味が持つ物も増えたし、己の部下には心をやる事もしている。父や兄にも頼ってくれる子になっただろう?」


 父上は嬉しそうに笑う。


「ラキシスは子供らしく笑い、時に我が儘に振る舞い、面倒ごとからは逃げる子だが、芯はしっかり通っていてな、道化を演じている様が誰かと似ていて心配にもなるが」

「私は父上に似ていると思っていますよ」

「はははっ、そして、ウィズ嬢は幼き頃からずっと力が欲しい力が欲しいと言っていたものだが……力が欲しいと貪欲に願うものは、圧倒的な力の前に無抵抗に踏みにじられた者が言う言葉でもある。おかしいだろう? 何故幼少期からそんな言葉が出たのだろうと。あの少女は何か力を得て成したい願いでもあるのだろうかと、よく勘ぐったものだよ」


 父上が何を言いたいのかよく分からない、話が逸らされている気もするが、そういった雰囲気を感じ無い。


「決断は急がずに、視野は広く持つようにな」

「はい……?」


 父上は満足したように頷き、今度は自分の目を指さした。


「俺の目が昔は赤色だった事は知っているな?」

「ええ、光の大精霊と契約して金色になったとか」

「歴代勇者は全員元は赤目なのだよ」

「え」

「そして、光の大精霊に太古の力を返す事で金目になるのだ」

「ま、待ってください、どういう意味ですか?」


 とんでもない事を口走っている。丁寧に詳しく話してほしいと焦るが、父上はじっと俺の目を見ていた。


「しかし、お前の瞳ほど深紅の赤色ではなかった。本物のお前が産まれて来た世代が決着の時なのだろうと思ったよ」

「父上っ、父上はなにか存じていらっしゃるのですか?!」


「いや、俺は光の大精霊から話を聞いただけだ。光の大精霊や魔王が遠い過去に何があったかは詳しく知らないよ。

ただ、光の大精霊は初代勇者と契約をした時に約束を交わしていたそうだ。

お前の魂を未来へ連れて行く代わりに、勇者の末裔が魔王を倒すこと。勇者の末裔が産まれる度にその力を光の大精霊へ与える事。

……そう、約束を交わしたそうだよ」

「なんですか……それは」


 光の大精霊が勇者に力を与えて魔王を封印しているものだとばかり思っていたが、それでは逆にならないか? まるで、弱っている光の大精霊を回復させる為に勇者の末裔達が長い年月をかけて力を与えていたように聞こえる。


「赤目が昔から疎まれているのはその強大すぎる魔力に人々が恐れを抱いたせいだ。世界に与えられた力が瞳に宿り赤色として現れるらしい、そして、初代勇者の末裔の中に極稀に強い力を持って産まれる子が現れる、その子と光の大精霊は契約を交わして失われた力を蓄えていっているのだ。

魔王を共に倒すという契約を果たしながら、ね」


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