141-1 もう二度と死なせない【ウィズ視点】



「ウィズ! ウィズ!」

「メティス……?」


 体を揺さぶられる感覚に目を覚ますと、酷く心配そうな顔をしたメティスと目があった。どうやら気絶した私の体を支えながら何度も名前を呼んでくれていたようだ。


「私……どうしてたのかな?」

「兄上が飼っている鳥が突然光を放って、そのあと僕以外の全員が倒れたんだ」

「あ……」


 辺りを見回すと気絶する前にみんなと居た部屋のままだった。向かいのソファーではエランド兄様とシマエナガにそっくりなラフィちゃんが倒れて眠っている。


「メティスは……ずっと起きていたの?」

「起きていたよ」

「なんともない?」

「え? 少し眩しかっただけだよ、君が寝てから数分しか経っていないし」

「そっか……」


 じゃあメティスは【あれ】を視ていないという事だ。

 私が今視ていたものはエランド兄様の前世の光景だった。初代ヴァンブル国王が産まれた日から、初代聖女の誕生、それに兄様を支えた五人の騎士達の姿。

 初代聖女の姿に懐かしいと感じてしまったものもあったけど、それが自分の事となると一致までいかない。

 不思議な場面が多すぎた。メティスも居たのにルーパウロの主と呼ばれていたし、メティスは魔王の生まれ変わりだよね? でもあれはメティスで間違いないと思う。

 それに、私の前世は名前がエルローズなのに、他のみんなは容姿も名前も同じ人が多く居た。偶然にしてはあまりにも同じすぎる。


 前世と、私がいた地球と、未来を描いた乙女ゲーム。


 この三つの時間軸になにか秘密でもあるんだろうか……。

 前世の事を少しでも知れたのはメティスを救う未来の為にも嬉しい事だったけれど、なんでラフィちゃんの魔力にあてられて前世を視る事が出来たんだろう……ラフィちゃんは一体何者だろう?


「ウィズ、具合は?」

「平気だよ、ちょっと眠っちゃっただけだから」

「そう……よかった」


 メティスは安堵の溜息をついて、私をソファーに座らせて一瞬にして表情を凍らせた。


「あの鳥、やっぱり消した方がよ

さそうだね」

「だ、だめーーっ!!」


 メティスの腰に抱きついて止めてと動きを止める! 折角前世を知る手がかりを掴んだのに何をしようというの?!


「エランド兄様が助けた大切な小鳥ちゃんでしょう?! 痛い事するのは駄目だと思うな!!」

「安心して、痛いと思う間もなく消すから」

「そういう問題じゃなくてえええっ!!」


 殺意を剥きだしにしてラフィちゃんに手を下そうとするメティスを必死に抑えてと止める!


「落ち着いてメティス! そんな簡単に怖い事しちゃ駄目!」

「ウィズがキスしてくれるなら落ち着くと思うよ」

「まっ?!」


 顔を赤くして何を言い出すの! と叫べばメティスは何故か上機嫌になった。


「そうだよね、キスをしたらウィズは直前の事を忘れてしまうもんね」

「なに?! なんの話をしているの?! わ、わたしはまだだれともキ……ちゅーなんてした事はない筈で……」

「ウィズは本っっっ当に可愛いねぇ」

「なんで怒ってるんですか?!」

「う……」


 騒がしい私達の声で目が覚めたのか、エランド兄様も目を開けた。まだ意識が朦朧としているようで、視線を彷徨わせている。


「エランド兄様おはよう! 目が覚めたばかりなのに申し訳ないけど、メティスを止めるの手伝って!」

「……」


 兄様に駆け寄ってメティスがまた危険な事をしていると訴えようとしたのに、兄様の手が伸びてきたかと思ったら、私の体は兄様に抱きしめられていた。


「え、兄様?」

「すまない……すまない……っ」


 カタカタと震える兄様の体、何度も謝罪を繰り返す声は後悔に塗れていた。

 兄様も私と同じように前世の光景を視ていたと思うのだけど、私が視ていない何かも視ていたのだろうか? 私は五人の騎士と兄様が仲良しだという所までしか視ていないから。


「兄様? どうしたの? 何か怖いものでもみた……WAO」


 思わず発音がキレキレで驚きの声が出た。しょうが無いと思うんです、抱き合う私達の姿をメティスがいつぞやのドドブルの鉱山の魔王様降臨再来みたいな顔をして凝視していたんですから。そして私の背後に回ってぽんと肩を叩いた。


「僕を捨てるなら君を誰の目にも届かない所に捕まえちゃうけどいいんだね?」

「待ってぇ?! エランド兄様が寝ぼけて私をぎゅーしちゃっただけだよ?! メティスも見てたよね?! ね?!」

「やだなぁ……冗談だよ、冗談」

「目が本気――っ!!」

「兄上、寝ぼけていないでウィズを離してください。許せる事と許せないことがあ……」


 メティスの声に反応して、エランド兄様は今度はメティス諸共抱き寄せた。


「え」

「え」


 エランド兄様に抱きしめられている私とメティス。三人でぎゅうっとくっつきあっている、うん暖かい。

 メティスも最初は驚いて固まっていたけど、すぐに我に返って離せと兄様の体を押し返していた……力で負けて押し返せてないけど。


「なんなんですか兄上っ、寝起きが悪いにも程があるでしょうっ」

「メティスやっぱり筋肉だよ! こういう時に筋肉が備わっていれば力でどーんと解決できるからね!」

「筋肉なんてなくてもやろうと思えば魔力でどうとでもなるんだよウィズ」

「どうともしないでメティス! 前から思っていたけど筋肉に対する敵意が凄すぎると思うんだよ!」

「君が僕よりも筋肉が好きという態度ばかりとるから」

「そ、そんな事は……ない、ような事もない気がしないでもない……けど」

「人類なんてみんな滅べばいい……」

「止めてーーっ!! 筋肉からの人類滅亡はやめてーーっ!!」

「二人とも……」


 らしくない兄様の震え声にメティスと二人で動きを止めた。


「もう二度と、お前達を死なせない」

「兄上?」

「兄様どうしたの?」


 兄様は今一度私達を強く抱きしめて、ここには居ない何かを睨んでいた。

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