7-1 君に出会えてよかった
「にーさまぁっ」
「来たかウィズ」
太陽のような真っ赤な髪、エランド兄様の姿を見つけるなり嬉しくなり、駆け寄って抱きついた。
そう! 今日も今日とて王城へ遊びにきましたウィズです!
王城通いは最早日常的になっていて、お城から迎えの馬車が来るとソフィアと一緒に乗って出掛けるというのがいつもの流れ。私だけではあのお屋敷から出る事は難しいので、それを分かってか頻繁に王様やエランド兄様が私を呼んでくれる。
ママは相変わらず弟の事しか可愛がっていないし、お屋敷の空気は冷たいし、パパは一度も帰って来ない。でも、今の私にはソフィアだけじゃなく、エランド兄様や王様が居てくれるから寂しくないよ! 毎日がとっても楽しいもん!
普段は王様とお話したり、エランド兄様とお庭で遊んだり、お菓子を食べたりしているけど、今日はちゃんとした目的があって来ました。
「出会った時より大きくなったなウィズ」
「うん! ウィズね、三歳になったよ!」
「おめでとう、鑑定士の所まで送っていくから一緒に行こうか」
「うん!」
エランド兄様がにっこりと微笑んで頭を撫でてくれた。
そう! めでたいのだ! 三歳になったという事はつまり、魔力鑑定が出来る年齢になったという事! 私も貴族の端くれなら魔力がある筈なので、その属性を鑑定してもらいに来たのだ。
本来なら、年に数回王城に貴族の子ども達が集められて、順番に魔力鑑定をしてもらうという行事があるらしいんだけど、私は特例で先に受けてみないかと王様が言ってくれたらしいのです。王様とパパが友達だからだろうか? ぶるじょあって凄いなぁ。
魔力はなんだろうと考えながら、エランド兄様と手を繋いでるんるんとご機嫌に廊下を歩く。
「ウィズの魔力の属性はなんだろうな」
「ウィズね、こおーりがいいなぁ!」
「なんで氷……ああ、ヴォルフ様が氷属性だから?」
「うん!」
パパは氷魔法に秀でた有名でかっこよくて強い魔法使いだってソフィアが教えてくれた。だから私もパパみたいにかっこいい氷魔法使いになりたいな!
エランド兄様はじっと私を見つめてから、面白そうに笑った。
「ウィズは氷属性じゃなさそうだけどな」
「ええーーっ、どうして?」
「魔力の適正に血筋は確かに影響されるけど、その人物の産まれた月や性格も深く関わってくるからな」
血液型診断とそれは似ているとエランド兄様は言う。
「氷属性の人は物静かで几帳面な現実主義者の人が多いし、ウィズの明るい性格から見て氷の線は薄そうに見えるな」
「えええ~~やだぁ」
「大食いの精霊とかが居たらウィズにぴったりなんだけどな」
「ウィズおおぐいじゃないもん!」
「その小さな身体にケーキが五個吸い込まれた時はなんの魔法かと思ったが、無意識だったんなら大食い精霊の可能性も本当にあるかもしれない」
「んもぉおおおおおおおう!!」
エランド兄様の腕をぽかぽか叩くけど、兄様は楽しいと笑っている。
最近エランド兄様は私をよくからかってくるようになった、優しいのは変わらないけど、私をからかって遊んでいる所があるのだ。他の御令嬢の女の子にはレディーファーストでかっこいい完璧な紳士様なのに、どうして私だけっ!
文句を言った所でいつも負けてしまうので、今日は私が引いてあげるのだ。私も三歳になり大人になったから、今日はこの位で勘弁してあげるのです。
「エランドにいさまは火のまほー?」
一瞬、エランド兄様の顔が強ばった気がした。
「にいさま?」
「なんでもない……火だけど、それがどうしたか?」
「メラメラ、かっこいい!」
手を伸ばしても届かないけど、憧れのそれに手を翳して飛び跳ねた。
「まっかな髪の色も、目のいろも太陽みたい!」
初めて出会った時にそう思ったのだ、決して消える事なく燃えさかり皆を照らしてくれる太陽みたいだって。
「にーさまの色はウィズのひーろーっ!」
エランド兄様は驚いた顔になってから、息をつくようにフッと笑った。
「ヒーロー? 俺でも誰かを守れるって?」
「ウィズをまもってくれたもん! 火はにーさまの属性で、あかはひーろーの色だもんっ」
と、その時。お城の鑑定士の人が私を呼びにきた。
「ポジェライト辺境伯家、ウィズ・ポジェライト公女様、魔力測定の儀へご案内致します」
「はあい、にーさま、ばいばい!」
繋いでいたエランド兄様の手をほどいて、鑑定士の人の元へと向かう。
「ウィズ!」
「はあい?」
去り際にエランド兄様に呼ばれたので振り返ると、兄様は泣きそうな顔で、けれど嬉しそうに笑っていた。
「ありがとう……な」
「うん! いいのよ!」
兄様もしかしたらヒーローに憧れていたのかな? だからウィズのヒーローになれて嬉しいのかな? 泣きそうになるほどに? 兄様もまだまだこどもだね!
でも私は今日はそんな野暮な事は言わないのだ、三歳になって大人になったからね!
兄様に手を振ると兄様も手を振り替えしてくれて、私は鑑定士のおじちゃんの後ろを追って王宮の奥へと進んで行ったのだった。
◇◇◇
王宮の最奥にあるという祭壇を目指してちまちまと歩き続ける。
その場所で精霊王に祈りを捧げた後で鑑定師のおじちゃん直々に魔力を測定するらしい。
杖からビームが出て魔方陣が足下に現れて光の柱がどーん! ってなって、ファイアー!! って魔法が身体から溢れ出して派手な花火があがるのかって期待していたけど、そんな事はないらしい……がっかりですね。
「あ……!」
中庭を通りかかった時、宙に浮かぶ巨大な物体を見つけて足を止めた。
あれは、そう! 一年前もここで同じものを見たんだよね! 思いだした!
私が足を止めた事に気づかずに先を歩いて行く鑑定士のおじちゃんの背中と、中庭を交互に見比べて、好奇心が勝ってしまい、私はこっそりと中庭に降りた。
ふりふりのドレスがお花にぶつからないように気をつけながら、生け垣をよじ登って、前にも来た事がある噴水広場へとやって来た。
そして、宙で髑髏を巻いて飛んでいる白蛇……じゃなかった! 白龍に向かって叫んだ。
「りゅーちゃ! こんっにちゃわー!」
ぐるんと私へ顔を向けて、白龍ちゃんはそのまま私から目を反らさずに凝視してくる。もしかして今、こんにちはと言いたい所を噛み噛みになってしまった事を気にしているのだろうか? 我慢してほしい、いくら一年前と比べて口が達者になったとはいえ、まだ三歳児なのだ。長い言葉を連続で喋ろうとすると噛む。
どうにか撫でられないかな~~! っと、その場でジャンプを繰り返していると、白龍ちゃんは身体を反転させて空を飛んでいってしまう。
「あー! まってぇ!」
白い鱗をナデナデしたい! あわよくばその背に跨がって空を飛びたい! そんな下心いっぱいで、慌てて白龍ちゃんを追い掛けた。
後を追って中庭の奥へ奥へと進んでいくと、薔薇の生け垣で作られた巨大な迷路が現れた。私の背の何倍も高く聳え立ち、どれくらいの広さなのか見渡せもしないので測定不能。一歩中に入ってしまったら確実に迷子になってしまうだろう。
けれど、目的の白龍ちゃんはこの薔薇の迷路の先にいる、しかも一定の場所に浮かんでから、身体をくねらせてその下へ着地したのが見えた。
空を飛んでいたのが地面に着地したのだ。つまり、その場所に辿り着ければナデナデし放題っ!
この迷路も寧ろ恐怖よりも面白そうという好奇心が勝った。これは先に進むしかないね! 冒険しよう冒険!
即席で作った陽気な鼻歌を全力で歌いながら薔薇の生け垣の迷路の中へと踏み込んだ。
「きれ~なおはなっ♪ おはなっ♪」
入り口付近は赤い薔薇だけだったのに、奥に進むと白い薔薇や黄色い薔薇など、区域ごとに色がわけられているようで、散歩しているだけでもとても綺麗だった。
「どど~んがどんどん♪ ぽんぽんじゃーんっ♪ おは~なレンジャーどはでにとうじょうっ♪」
迷路が楽しくて、ずんずんと先に進んでいく。正直どういう風に攻略して先に進もうとか、戻るにはどの道がいいのかとか全く考えてない。本能が趣くままに爆進する。同じ色の薔薇の区域を何度も通った気もするけど気にしない。
「ばらちゃんマン! たいせつなところはぜんぶばらでかくす!」
歌も飽きてきたので今度は物語を考えて、それを口に出しながら歩き続ける。薔薇ちゃんマンとか格好良いと思うんだよ、大切な所は全部薔薇で隠すっていうのは、衣装が浮かばないせいだ。
「まんとをひらりとなびかせて! 土のなかからバラをくわえてかれいに登場!」
良い感じ! 夢の国みたいな綺麗な場所をご機嫌に散歩しているお陰でアイディアがどんどん降りてくる!
「ひとりじゃないぞぉ! なかまもつぎつぎと土の中からかれいにとうじょう!」
そして悪と戦うのだ!
生け垣の薔薇が、紫の薔薇から初めて見る青色の薔薇に変わった事にも気づかずに夢中になりながらお話を考え続け、開けた場所に足を踏み入れた。
「さいごはきょだいかして、せかいからバナナがなくなってしまうのだ!」
「なんで?」
第三者の声にピタリと足が止まる、誰の声かと声の主を追うと、青い薔薇の生け垣で囲まれた芝生の上に寝転んだ男の子が居た。男の子は寝転んだまま、怪訝そうな顔で視線だけが私へと向いている。
あれ? この子前にも会ったことがあったような……陶器のように真っ白な肌と、白銀の髪の綺麗な男の子。
「あっ! めちす!」
「覚えていたとはね……光栄だよウィジュ」
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