2 王子様との約束
恐竜だ! 古代の最強生物だーーっっ!! かぁっこいぃいいい!!
突然現れた恐竜に大興奮して、目の前にいる男の子を通り越してその後ろにいる真っ白な恐竜を見上げながら釘付けになった。
「がおー! がおー!」
「うーん……」
触ってみたい! と思って、ぴょんぴょん跳ねながら恐竜に手を伸ばすけど、恐竜は私の手を嫌がるようにして身を引いた。なんで?! 何故触らせてくれないの?!
近づけば恐竜が逃げる、それでも近づけば恐竜はふわりと宙に浮き上がり手の届かない位置まで逃げた。
「がおおおおおおっっ」
悲しげな叫びに、私の手を引いていた兵士は目を丸くしながら戸惑う。
しかし、真っ白な男の子は何やら考えるように唸ってから、薄らと笑って兵士に言った。
「ちちうえが招いたきゃくじんって、このこ?」
「は、はい! さようでございます!」
「そう、じゃあぼくがちちうえの所へつれていくから、きみはさがっていいよ」
「で、ですが、お小さい二人だけにするのは」
「さがっていいよ」
最後の言葉だけは語尾を強めに発言していた。柔らかい言葉ではあるが、下がれと命じているのだ。
「し、失礼しました! では!」
兵士はビシッと敬礼してから即座に元来た道を戻っていってしまった。
「さて、と」
真っ白な男の子は私の顔を覗き込んで微笑んだ。
「ぼくはメティス、メティス・エミリオ・ヴァンブル、きみは?」
「うぃじゅ!」
「うぃじゅ…?」
「にちゃい!」
指を二本突き出して挨拶が出来た事を得意げに胸を張る。
正確にはまだ一歳だけどもうすこしで二歳だ、ちょっと背伸びをしたいお年頃なのだ。
「二歳なんだね、ぼくより一歳とししただ」
という事はこの真っ白な男の子…えーとメティス? は私よりも一つ上という事なんだろう……え? 三歳? 三歳ってこんなに流麗に喋るの? こんな落ち着いているもの…? というかさっき噴水の縁に座りながら本を読んでいなかったかな? 私あと一年でここまで成長出来るだろうか……不安になってきたよ。
「ところで、きみ、彼が見えている?」
「かれー?」
「ぼくの後ろにひかえている龍のこと」
メティスが振り向くと、真っ白な恐竜は僅かに頭を垂れた。
「きょーりゅー?」
「きょうりゅう? ちがうよ、龍の姿をした……大精霊なんだ」
「りゅー…」
どうやら恐竜ではないらしい。そっか……龍か……なんだぁ……いやいや、ガッカリしていない……がっかりなんて……ちょとしかしていない。
しかし子供の身体は正直なもので、がくーっと肩を落としてしまうと、メティスはクスクスと笑った。
「どうやらほんとうに見えているね?」
「まっちろ、おっきーへび!」
「蛇っ、大精霊相手に蛇だってさ、ふふふ」
メティスは肩を震わせて笑い、真っ白な龍は巨体をうねらせ不服だと言いたそうな黄金の目で私を睨んだ。
「でも二歳か、三歳までこどもは神の子だといわれているからね。こういった精霊や霊などの、このよのものではない物がよく見えるこどもも多い」
メティスはじっと私を見つめ、ふっと目を細めた。
「いまはまだ彼をしょうかいしてあげないよ、きみが三歳をこえてもまだ見えるというのなら、おしえてあげる」
「うーん?」
「ちちうえのところへ送っていってあげる、いこう」
メティスに手を引かれながら歩き出す。
ふと後ろを振り返ると、先程の龍が上空へと飛びだった姿が見えた。
「がおー、おそら!」
「飛んだりもするよ龍だもの。まあ、大精霊はみようとおもっても普通のにんげん達にはみえないから、城のじょうくうを飛んでも問題ないよ」
「せいれー?」
「きみはまだまだ小さいからね、せかいの理も習っていないんだろう。
この世界には精霊が沢山いるんだ、下位のものから上位まで様々、にんげん達はその精霊のちからをかりて魔法をつかっているんだよ」
「まほーー?!」
魔法って、あの魔法?! ゲームとかでも見たあのファイアー! ってしたら炎が出たりするあの魔法?! この世界は魔法が普通に使えちゃうの?! 凄い!!
ん? げーむ……って何だっけ?
「貴族のこどもならたいていは精霊と契約できるはずだよ、ふつうは下位の精霊とだけだけどね、余程の力をもっていたら中位精霊くらいとは契約できるんじゃないかな」
「ちゅーい? めちすは?」
さっきメティスはあの白い龍に対して大精霊だと言っていなかっただろうか? 中位の精霊と契約出来る事が珍しいというのなら、大精霊が従えていたメティスはどういう事になるんだろう?
メティスは人差し指を口にあてて内緒だよと笑う。
「さっきみた彼のことはぼくたちだけの秘密だよ、だれにもいっちゃだめ、いいね?」
「しー?」
「そう、しーだよ、約束……まもれる?」
メティスの瞳に影がさす。
約束だよと口では言っているが、絶対に言うなという脅しのように見えた。
「あい! しー! ないちょ!」
メティスの手をぐいぐいと引っ張って、お互いの小指同士を絡めた。きゅっと結んだその指を軸にぶんぶんと上下に振った。
「え、え? これはなに?」
「しー! ないちょ! やくしょく!」
「……約束?」
「うんっ」
大丈夫です! 私絶対嘘はつかないから! 守るといったら絶対まもるよ! 安心してね!
満面の笑みでそう頷く。
メティスは結ばれた小指同士を見つめて不思議そうに呆けてから、溜息交じりに笑った。
「……じゃあ、みのがしてあげる」
結ばれた指をほどき、メティスは先に数歩進んでから目の前の扉を手のひらを見せて促した。
「このへやは父上のテラスガーデン、プライベートで使う場所だから此処にいるとおもうよ」
「うんー?」
「三歳を超えたらまた会おうね、ばいばい、ウィジュ」
ひらりと手を振って、メティスは廊下の先へと歩いて行ってしまった。
あまり先程の庭から歩いていない、寧ろ目と鼻の先だった。二歳児を歩いて連れて行くのだから、待ち合わせの場所も近場にしてくれたのかもしれない。
それにしても…メティスって一体何者だったのかな? でもまあ、考えても分からないものはわからないよね! 今は用事を済ませてはやくソフィアの所に戻らなくちゃね!
身の丈の何倍も大きな扉に向かって私は手をグーに握り締めて、コンコンとノックした。
「……うー」
しかし、なんの応答もない。
何度か同じ事を繰り返したけどやはり応答はなし。
二歳児の拳では軽すぎて音が聞こえないのかもしれない……やはりまだまだ身体を鍛える必要があるようだ。
という事なので、私はおなかいっぱい息を吸い込んで──。
「たのもぉおおおおおおぅっっ!!」
叫んだ。
確か誰かを訪ねるときは「たのもー!」というのが貴族の一般常識だった筈だ、誰にも習っていないけど私の知識的にはそうだ。
すると、固く閉ざされていた扉が内側から開いた。
「元気いっぱいだな、ポジェライト家のお姫様」
顔を見せたのは、太陽のように輝くブロンドのお兄さんだった。
パパと同じ歳位に見えるから、二十代前半位かな? 優しい笑みを浮かべながら私を見下ろしている。
「だぁれー?」
「これはこれは、レディに対して失礼をした」
金髪に金色の瞳…! スラッとしたスタイルと金の刺繍が施された高級そうな青い服、裏地が赤いマントは高位のひとの証。
このお城の騎士様かな?! それとも王子様かな?! わー! かっこいい!
私が興奮気味に見上げているとお兄さんは私と視線を会わせるようにしゃがんでくれた。
「私の名は【ファンボス・エミリオ・ヴァンブル】この国の王様だよ」
「おうしゃま…」
私は衝撃を受け、深く絶望した。
だって…王様だというのだ、なら…なぜっ。
「じょりじょり……」
王様にお髭が無いなんて…誰か嘘だと言って。
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