第57話 真夜中のロープウェイ
「うん、こんなもんでいいだろう」
「ミエル少年は前に、ショーコちゃんは後ろだ」
「えっ、前って……やっぱ三人いっしょなんですか?」
「当然。そもそも滑車は一つしかないんだぜ、一気に行くしかねぇだろう」
この期に及んで戸惑うミエルをよそに晶子はすっかり腹を括っていた。
「
「その通り」
そう言って
「ほら、ミエルもさっさとやるし」
「わ、わかったよ」
ミエルも彼に抱き着くようにその首に手を回した。
「よし、あとはこいつで縛れば出来上がりだ」
ロックンローラー風の男が忍者ガールを背負ってバニーガールを抱きかかえている、その姿は珍妙を通り越して滑稽でもあった。意識を失ったまま目覚めない大門啓介の様子をうかがっていた
「
「おいおい、チャイニーズ。お前さんだって笑ってる場合じゃねぇだろ。俺らのルートは片道切符、あんたの分まで用意してないんだぜ、どうするんだよ」
「ウチにはウチの考えがある。それにまだこいつとの話すことがあるよ。だからお前たちはお前たちで勝手にすればいい。
「そうかい、それじゃ達者でな。俺たちが無事向こうにたどり着けたならこのロープで降りられるルートを残してやるからあとはあんたの好きに使うといい」
「
「これはいざというときの命綱だ。こいつのお世話にならないよう、少年少女はせいぜい神様にお願いしておいてくれよな」
「さあ行くぞ。いいかお二人さん、絶対に下を見るなよ。いいか、絶対に、だ」
「わ、わかりましたから、早く終わらせましょう」
「ミエル、ビビってるし」
しかしそう強がる晶子の手もまた震えていた。
「よし、真夜中のロープウェイ、出発だ」
こうして一蓮托生となった三人を吊り下げた滑車は
ショーでも使うそのロープには油を浸み込ませてあるし滑車には蝋を塗ってある。三人を吊り下げたロープウェイは滑らかな速度でおよそ一〇メートル先の終点を目指していた。
「うわ――、なんかちょっとキレイかも」
緊張の面持ちの二人とは裏腹に晶子だけが眼下の眺めに興味津々だった。
「ちょっと晶子、なんで君は下を見てるんだよ」
「だって前を見たらあんたの顔じゃん。てかさ、バニーの恰好なのはわかるけどなんでウサ耳まで付けてるわけ?」
「これは……だってバニーなんだから、しょうがないじゃないか」
「じゃなくて、この状況でもウサ耳をはずさないって、あんたってやっぱヘンタイだし」
「そんなぁ、ひどいよ、晶子」
それは晶子がみんなの気を紛らわせるための精一杯の強がりだったのだろう、そのおかげでミエルも
さほどの速度は出ないもののそれでもゴールは確実に迫っていた。残すはおよそ二メートル、だがそこで事態は急変する。三人を運ぶ滑車がその場で動きを止めてしまったのだ。
あともう少し、もう少しあれば手が届く。
「こ、
「ミエル少年、君も俺もショーコちゃんもしっかり括られてる。君だけが落ちることは絶対ない。心配するな」
「
「だったらあたしもなんとかしてみるし」
そう言いながら晶子は
それぞれが
「晶子、マジで、マジでやめてくれ。ピンチどころじゃなくなっちゃうよ」
「だったらあんたがもっと頑張るし」
あまりの無茶振りに呆れた思いでミエルが晶子の顔を見返したそのときだった、ダイモンエステートビルの手すりに人影が見えた。ルームからの明かりで逆光ではあったがお団子ヘアのシルエットでそれが
「こ、
ミエルの一言で
「なんだって? まさかあのチャイニーズ、このまま俺たちを落とそうって魂胆じゃねぇだろうな」
「ちょっと、ふざけるなし」
「マジでヤバい、今度こそほんとにピンチかも」
でもそうなったらそうなったで助かる可能性はある。こちら側のフックはまだ生きているのだ。ならばミエルと
よし、ピンチをチャンスに変えるんだ。ミエルは自分で自分にそう言い聞かせた。
それからほんの数十秒、三人にとってそれはえらく長い時間に思えたがようやっと事態は好転する。なんとロープの張力が増したのだ。止まっていた滑車がゆっくりと動き出す。
一〇センチ、二〇センチ、ゴールの手すりが徐々に近づいて来る。あと少し、もう少しだ、
ミエルの
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