第58話 赤い墓標の瞬き
「二人とも大丈夫か」
「はい、なんとか……生きてます」
「やっと、やっとだし」
「ちょっと手荒だったけどお疲れ様だ。さて、さっさと撤収するぞ」
「これであのチャイニーズも脱出できるだろう。あとはこいつだな」
「ミエル少年はこれが欲しかったんだろ?」
「え、いいんですか?」
「いいもなにも、こんなところに証拠を残すわけにいかないし、何より捨てるには忍びないだろ。かと言って俺はこんなもん使わねぇし、君ならいろいろ使いこなせるだろ」
すると晶子が会話に割って入った。
「でもリモコンはどうするし」
「実はこんなこともあるかと思って……」
ミエルは嬉しそうな笑みを見せながらバニーガールのコスチュームの胸元をまさぐるとそこから小さなリモコンを取り出した。
「おいおい少年、ちゃっかりしてるなぁ」
「なんかミエルだけおいしいとこ取りで、ちょっとムカつくし」
「それは……その……ボクだって大変だったんだ。恥ずかしいカッコを撮られたりしたし……そりゃ
「ははは、まあ役得ってことだな」
「はいはい、わかったし。そんなことより
「お、おお、そうだな」
三人は揃って屋上の塔屋の前に立つ。
「ここはお二人さんの出番だな」
「それならボクがやります」
「ドローンの分までしっかり働くし」
そう言って晶子はベストのポケットからピッキングツールを取り出してそれをミエルに手渡した。ミエルが片膝をついて鍵穴にツールを差し込むとそれに合わせて晶子がスマートフォンのライトで彼の手元を照らす。なんだかんだで息の合った二人はあっさりと解錠してしまった。
「さあ、急ぎましょう」
階段室の照明にはセンサーが付いているのだろう、彼らが進むとともに蛍光灯の白い光が次々と階段室を照らしていった。ダイモンのビルとうって変わってこちらにはまるで
ついに一階に到着、長かった夜もそろそろ終わりを迎える。ほっと一息つくミエルと晶子だったが
「まずいな、ここを出るとビルの裏手、マークされてないとは思うけど警察がうろついてるかも知れねぇ。俺とショーコちゃんは問題ないけどミエル少年のそれはなぁ、職質してくれって言ってるようなもんだし」
「や、やっぱマズいでしょうか。どこかのコスプレパブのコンパニオンってことで誤魔化せると思うんですが」
「バカじゃないの。ドローンを抱えたコンパニオンなんているわけないっしょ」
「でも……」
ミエルは手にしたドローンを名残惜しそうな顔でその場に置こうとした。すると
「あ、ありがとうございます」
「いいってことよ。とりあえずこれなら言い訳もつくだろう。あとは警察がいないことを祈るだけだ、さあ行こうぜ」
「ショーコちゃん、ご苦労様。みんな無事に脱出できてなによりだわ」
「は、はい。でも、なんでママがそんなことを知ってるんすか?」
「なんでも何もミエルちゃんのカメラはずっとオンのままだもん」
「でもあたしのファブレットは月夜野たちに渡したし……」
「だからその月夜野をさっきからそこいらに待機させてるのよ。それで映像はしっかり中継されてるってわけ」
「それじゃ……」
「もちろんスリリングなロープウェイも拝見させてもらったわ。
「はい、ママ」
「それでね、今から
ママはそれだけ言うと通話を切った。晶子はママとの話を
警察の非常線から外れているとはいえ赤色灯がビルの壁に反射して赤いチラつきとなっているのがわかる。とにかく迎えが来るまでは酔客のふりをしてやり過ごすしかない。三人はなるべく往来の人たちと目を合わせぬよう注意しながら身を寄せ合っていた。
やがて空冷エンジンの乾いたエギゾースト音が聞こえて来た。晶子にとってはついさっきも聞いたあの音である。ビルの裏口前の歩道に横付けした車からメイド姿の
「みなさんお待たせしました。さあ、お乗りください」
その車を見て声を上げたのは
「おおっ、
「この車はおじいさまの形見ですの」
「そりゃ大事にしないとだな。それよりまさかこの車の実物に乗れるなんて、これはうれしい誤算だぜ」
「
「ああ、シトロエン2CVだ。ずいぶん前だけど俺はこいつが欲しくてさ、でも今となってはそうそう出回ってないし、いい値段するしで諦めたんだよな」
憧れの車に上機嫌な
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