第25話 密告と密会
普段の授業では悪友のヨシオがちょっかいを出してきたり放課後の予定の話を振ってきたりするおかげで適度な緊張感を保てているが、彼がいないこのクラスでは黙々と授業を受けるのみ、前の夜、いや今朝方未明まで裏の仕事をしていた大悟にとってこの時間は眠気との戦いだった。
「ふわぁ――」
今日何度目のあくびだろうか、それでも大悟はなんとか眠らずに持ちこたえてはいたものの、所々で意識が飛んでしまうこともあってこの日の授業はさっぱり頭に入らなかった。そして放課後、今日もまた悪友からの誘いを断って大悟は晶子を待つために校門へと急いだ。
「ふわぁ――」
「あ――、タバシ、またあくび」
「ほんと、今日はあくびばっかだよね」
「どうしたぁ、タバシぃ」
授業を終えて校門へを向かうご一行の中で
「う、うん、ちょっと寝付けなくって」
「またまたぁ、寝付けなかったんじゃなくて寝かせてもらえなかったりして」
「え――っ、誰に、誰に?」
「さ――てね、でも、きっと今日も……」
「バ、バカ言うなし」
取り巻きたちの
「
「あ、ありがとう……ふ、ふわぁ――」
そんな彼女の言葉に助けられながらも、またもやあくびをする晶子だった。
やがて彼女たちが校門に近づいたとき、その門柱に隠れるようにして立つ
「ほらやっぱり。絶対怪しいって、タバシと大悟先輩って」
伊集院祥子を囲むにぎやかな集団に別れの挨拶を告げると晶子は大悟を振り返ることなく早足で帰路に就く。そんな彼女の後を追うように大悟も慌てて歩を早めるが、つい校門を振り返って二人を見送るご一行に軽く頭を下げた。
「余計なことするなし、ますますメンドいし」
「ご、ごめん……」
「とにかくさっさと帰ってひと眠りっしょ。今夜もあの変態ショーがあるし」
「変態って……あれは仕事なんだから」
「ハイハイわかりました、とにかく急ぐし」
せっかくの気遣いが裏目になってしまった大悟を従えるように先を急ぐ晶子、どう考えてもお似合いの二人にしか見えない彼らを校門の前に立つ伊集院祥子は温かい目で見送るのだった。
――*――
かつてはバブルの塔と揶揄されたタワーマンション、その最上階に
「
「でもそれはママが仕入れたネタだろう。それを俺に提供してくれるってのか?」
「もちろんよ。そもそもカジノに潜り込む算段をつけたのは他ならぬ先生よ、だからこれはその見返り分と考えてもらって結構だわ。もちろん間違いが起きないように先生はリードオンリー、読み込み専用になってるけどね」
「これはありがたい、実は秘密兵器を見せられたときからどうやったらデータをいただけるかってのをずっと考えてたんだ。これで大門にひと泡吹かせてやれます、マジで恩に着ます」
「詳しい使い方はショーコちゃん、あなたが教えてあげなさい」
そして今、
「サンプルを拝見、拝聴しましたが、思った以上によく撮れていて少々驚きました。きっとあなたにはかなり有能な協力者がいるのでしょう。しかしそんなことはどうでもよいことです、もしそれが我々に害を為す者とあらばただ潰すのみ、我々にはそれだけの力があるのです」
ボイスチェンジャーを通しているとは言え物静かなその語り口にかえって凄みを感じながら
「あなたもその世界ではそれなりに知られた存在、だからこそ今この場に立つことができている。ここに至るまでの経緯、経路については不問にしておきましょう、あなたの野心、いや、執念に免じて」
「ありがとうございます」
郷に入っては郷に従え、連盟なんぞに頭は下げたくなかった
部屋を出るときにスピーカーを介して会頭の言葉が聞こえた。これから毎週末にデータを持って来ること、媒体は今回同様マイクロSDカードとすること、そして次からはそれをロビーの郵便受けに投函しておくこと。
「今日の謁見は特例である旨、肝に銘じておくのです、よろしいですね」
すなわち
「最後まで小者扱いかよ」
「さて、いかがでしたかな、お二人さん」
会頭の呼びかけとともに別室から出てきた二人、ひとりは
「驚いたね、まさかショーを演じる縛り屋がスパイの真似事をしているなんて、さすがのウチもまんまとやられたよ」
「ほほほ、凄腕の
「
「ウチにはもうアタリがついてるよ。一緒にいるバニー役の小娘、本当のスパイはあいつね」
「小娘って、まさか……」
「
中国語が混じった二人の会話を聞いていた会頭が
「兎だか鼠だかの扱いはあなた方におまかせします、
二人の中国人は
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