第19話 ミエルを俺に貸してくれ
不義理の代償、そう言われてしまっては
「ママ、不義理ついでに俺の話を聞いてください」
「いいわ、話だけなら聞いてあげる」
すると恭平までもがイスを手にして興味津々な顔でテーブルに着いた。ミエルも晶子も飲み干したカップにコーヒーのお代わりを注ぐことも忘れて
「実はあの日、
「ちょっと、ちょっと、なにやらキナ臭い話になってきたわね」
そう言ってママが身を乗り出してくると、話が長くなりそうだと察した恭平がポットを手にしてその場にいる全員のカップにコーヒーを注いだ。
「睡眠薬を飲んでの練炭自殺、夫婦揃って車の中で死んでたそうで」
「でもあそこには占有屋の連中がたむろしてたんじゃないかしら、うちの子たちが連中に
「ちょっと待ってくれ、ママ、そんな話は初耳だぜ」
ママは誤解がないように順を追って事の経緯を説明した。
「なるほど、そういうことでしたか」
ママの話に納得した
しかしあのときカッコなんぞつけずに彼女の様子をうかがっていれば事態は変わっていたかも知れない。失ってみて初めて亜梨砂が自分にとってかけがえのない存在だったことに気付いたのだった。
「それで警部に言われて俺もその荷物の中身を確認したんです」
彼はその封筒を開けて中身をママに見せた。
「これは……遺書、かしら?」
「ええ、おそらく。そこに事の真相が書かれてます、地上げの実態と大門の野郎に乗せられてあの街に暮らす仲間たちまで巻き込んでしまった贖罪の言葉が」
手紙の内容、それこそママのみならず伊集院会長も求めている大門啓介による悪辣な所業の実態だった。彼は狙った相手を女やギャンブルで陥れては負債を追わせてそのカタに土地の権利を奪取していたのだった。
案の定、
「そこでだ」
ひと通りの説明を終えた
「俺はヤツらにひと泡吹かせてやりたいんだ。まずは大門の所業、裏の顔ってのを白日の下に晒してやろうと思ってる、亜梨砂の弔い合戦の代わりにだ」
するとママは俄然興味を示して身を乗り出した。
「具体的にはどうするつもりなの?」
「ママはさっき不義理の代償としてダイモンにつなぎをつけろと言いました。でももう既に話をつけてあるんです」
「ちょっと、どういうこと?」
「潜入です。ヤツらのカジノに乗り込んであることないこと、とにかく暴露してやるんです」
「でも、そんな簡単にできるんですか、潜入なんて」
ママと
「そこで君の出番だ、ミエル少年」
「えっ、ボクが、ですか?」
「そう、君だよ、君にしかできないことだ」
「ママ、彼を、ミエルを俺に貸してください」
「う――ん、それはあなたがどんな絵を描いてるかによるわね、うちの子に危ないマネはさせられないし」
「カジノで緊縛ショーをやる算段をつけました。大門のところで番頭をやってる高峰ってのに顔をつないでもらったらあっさりでしたよ。とにかく入りこんでしまえばあとはどうにでもなります」
「なるほど、それはなかなかの名案ね。こっちの手間も省けるし……その話、乗ったわ、ミエルちゃんもいいわね」
いいわねも何も、ミエルに拒否権などないのだ。こうして彼はまたもや潜入、それもダイモングループ率いる闇カジノへの潜入という超がつくほど危険な仕事に巻き込まれるのだった。
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