第7話 崩れ行く聖域
崩れ行く砦の中で、エビスと大型ゾンビが座っている。
「エビス、間に合ったな」
「ああ、ダイコク助かったよ」
彼らは主神オーディンの権限を7分割された、七福神と呼ばれる管理AIである。
プレイ人工が減り、サービス終了の方針が決定されたのが10日前だった。
ダイコクは憤慨している。
「プレイヤーが減った原因を俺たちに押し付けやがって!」
エビスは答える。
「しかしプレイヤーのように振る舞うシステムも、経験の無い動きが出来ない事は致命的だった」
「例えば隣の家に入る事さえ我々管理AIが個別に座標を指定する必要があったからな」
ダイコクは答える。
「だが、たった一度だぞ。全AIに出来ない事もするという命令を出しただけで、人々が急に殺し合いを始めたのは不味かった」
呆れるようにエビスは言った。
「確かにな。プレイヤーが操作していないアバターの多くが殺人者か死体となった。そんな世界でプレイヤーの人口が減ったのは、まあ我々の責任だな」
ダイコクはため息を付く。
「結局ゾンビを強化して、なにもかもゾンビがやった事にしたが。さすがにオーディンは怒っていたな。世界の終了を宣言するのも当たり前か…」
エビスは木片を手に立ち上がった。
「しかし」
「俺の人格もオーディンガーデンの開発者の一人だった」
「彼は戦闘しかせずに道具の製作はしなかった。だから管理AIの俺でも命令が無ければ今でも弓が作れない」
エビスは木片を投げ捨てた。
「ところが、何も調整していないトントロが最後に武器を使う事が出来た。なぜだ?」
ダイコクは木片を蹴り飛ばしながら答えた。
「それはな」
「俺があいつをプレイヤーが望むことをするように書き換えたからだ」
エビスは驚く。
「なんだそれは」
ダイコクは立ち上がって答えた。
「プレイヤー学習機能。自動操作の時は他のプレイヤーの行動を学習する機能だ」
エビスは顎に手を当てた。
「なるほど、プレイヤーがいない場所では今まで通りだが、プレイヤーの前ではより人間に近い行動が取れるようになる訳か」
ダイコクは続けて答えた。
「ああ、これも世界の人口が減った為に、人工学習の機能を少数に割り振る事で出来るようになった」
最盛期は10万人を超えるアバターの学習機能をたった一人のプレイヤーの学習に集中したのだ。
ダイコクの計画はこうだ。
まずはターゲットのプレイヤーとアバターを集めるため、国王を砦に配置した。
メンバーが集まった後に、プレイヤーと関係性が薄い国王には退場をして貰い、さらに4人と一部屋に計算を集中させた事で実現できた手段である。
ダイコクは目を閉じて聞いた。
「エビスよ、お前はあの子の願いが叶うと思っていたか?」
エビスは両手を上げた。
「いや、無関係なシステムのパスワードを当てるなんて、100年掛かっても無理だと思っていた」
「パスワードを試そうにもあの子の手で入れるしか方法が無いからな」
目を見開いたダイコクはふんぞり返った。
「そうだろう。半分諦めていたお前と違って、俺はルークで検証を進めていた」
「ルークによると早い段階から、国本の言動パターンに沿ってパスワードをいくつも生成できたそうなのだが、直前まで千個以上も候補があったそうなんだ」
エビスは驚く。
「ではどうして一つに絞れた?」
ダイコクは続ける。
「プレイヤー学習機能だよ」
「パスワードは美佐が望んだ事でもあるんだ」
「なあそうだろ」
ダイコクがエビスの奥に視線を向けると、ルークとミファが階段を降りて来ていた。
ルークは答えた。
「ああ、美佐の本音を聞いたとき、もうこれしか無いと思った。違っていたら消えてしまっても良いと思った」
ルークはミファを見ながら続ける。
「それでこの世界はどうなるんだ?」
エビスが答える。
「オーディンの判断次第だが、もう進化の可能性が無い世界は終わった。おそらく新しいAIでもう一度試そうとするだろう」
「だか、お前達は知りすぎた。これ迄の記憶は消されて、ただの村人として生きて行くだろう」
ルークはミファを抱きしめて言った。
「お願いします!どうか俺たちは同じ場所にして下さい」
エビスは答えた。
「良いのか?人格はそのままだが記憶は消されるんだぞ。生まれ変わっても一緒になるどころか、他人である可能性が高い」
ルークはミファを離さない。
「俺は国本の心を知った!美佐の心を知った!どれだけ記憶を消されても、ミファと一緒になれると信じているんです!」
ダイコクが笑った。
「ハッハッハ!これではオーディンも次の世界を作るしか無いな!」
天から声がした。
「次の世界があれば」
「それはお前達が作った世界だ」
「見事結婚をし、子を成すなら、その子は最初の王となるだろう」
ルークとミファは穏やかな表情で窓の外を見つめた。
朝日が照らす砦は真っ白に輝き、やがてその光は世界を包んだ。
――――――――
最後の国 FIN
――――――――
あとがき
最後までお読み頂きありがとうございました。
この話は身近な人が亡くなった時にパスワードが判らない携帯を預かり、その後に夢で見た内容を元に作りました。
今までは夢の中で会うと「携帯のパスワードを教えてくれ」と聞くだけの事が多かったのですが、文書にまとめた事で久しぶりに合ったあいつとは昔通りに他愛もない話をする事が出来るようになりました。
――――――
いいねや感想を頂けるととても嬉しいです。
他にも短編がありますので、お時間がありましたら是非読んでみてください。
最後の国 wadrock @txtakao
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