第4話 本当の姿

 記者とは時に失礼な奴らが多い。特ダネが掴みたくて無茶ぶりをして痛いめに合う人がいる。勿論、偽りなどを使う奴らもいる。


 そんな中、出版社で働いている中村瑠璃は取ったネタを書き込んでいる最中だった。


 作っていてもまだ終わらず、ため息が漏れる。


「はぁ、終わんない」


 ここ何日かは寝ておらず、近くの温泉に行っては会社に戻り、書き続けていた。

 そういう日々が長く続いた。


「ねぇ瑠璃ちゃん、そろそろ休んだらどう? 寝ないと身体に毒よ?」


 先輩の山田優は、コーヒーを両手に一つを瑠璃のデスクに置いた。


 先輩の気遣いには感謝をしているが、瑠璃はそういうわけにはいかなかった。


「ありがたいですが、あの事が終わらないんですよ」

「あぁ、あの不可解な殺人事件でしょ。もぉ五人も死んだんだよ。警察は何やってんだか」


 迷惑そうな顔をし、コーヒーを一口飲むと扉が乱暴に開いた。


「おい! また新しい情報が入ったぞ!」

「またですか? 部長」


 優はめんどくさそうにいうと、膨らんでいるお腹を揺らしながら、部長の小野寺は興奮を隠せない状態の中言い張った。


「同じことが起きたんだよ! これで不可解の殺人が六件だ! そして今度は先生が生徒を妊娠させたことがSNSで話題だぞ!」


 興奮状態の小野寺はSNSのコピーした記事を机に置いた。


 瑠璃は目をとろんとさせ、その記事を手に取り見てみた。


「はぁ、これがですか」

「またですか? 全く、警察は何してんだが」


 優はため息を吐き、苛立ちを見せた。


 そんな優に小野寺は、落ち着かせるように言った。

「まぁまぁ、そう言わずに。あっ、そういえば瑠璃。お前今日、確か今日姪っ子さんの入院先を少し見にいくって言ってなかったか?」

 

 小野寺の言葉に、瑠璃は「あっ!」と一言言った。


「そうでした。あの」

「もちろん仕事はその後で構わんし、お前少し休め。顔がやつれているぞ。優は警察に聞き込みをしてこい!」

「わかりました」


 小野寺は優は場所の紙を渡すと同時にその場をそそくさと去った。


「そういえば、瑠璃さ」

「はい」

「入院された姪っ子さんってさ、この事件の子なのよね。大丈夫なの? 色々と」


 優の言葉の通り、入院している姪っ子は小野寺の言っていたSNSで話題の子だった。顔も少しだけ去られているが、奇跡的にも瑠璃のことや他の親戚のことは知らされていなかった。


 優には前々から姪っ子のことは少しだけ話していたため、名前を聞いただけで分かったそうだ。


 瑠璃はカバンの中に荷物を詰めながら話した。


「まぁ、なんとかですけど、あの子の親、見舞いにも行ってなさそうなんです」

「えっ! なんで?」

「聞いたんですけど、高校生な挙句、ホテルにいって子まで孕んだ娘になんか会いたくない。あの子のせいでどれだけの迷惑が掛かってるんだって」


 瑠璃の説明に、優は「なるほどね」と言いながら腕を組んだ。


「恋は盲目 っていうけれど、結構な段階まで行っていたなんて親御さんも思わなかったでしょうね。でも、誰だって恋はするけど、先生が結構クズだったんだもの。その子は悪くないわ」

「えぇ、私もそう言ったんですが、それでも見舞いには行かない。けど、貴方か他の人が行くなら現状だけもで教えてくださいって」

「はぁ、なんか勝手なご両親ね」

「そうですけど、それほど娘の姿を見たくはないんですよ」


 瑠璃はそう言うと、「それでは行ってきます」と言って会社を出た。


 優は瑠璃の背中姿を見ながらため息をついた。


「色々と大変だわね。あの子、男性恐怖症もあるから)



 瑠璃は男性恐怖症のせいで瑠璃はあまり小野寺に逆らえずにいた。その度に、時々優が優しく割り込んでくれたりなどをしてくれた。


(もぉ、帰りたい)


 心の中でそう呟き、どう質問しようかと考えた。相手は精神を病んでいる高校生だ、変な質問をしたら元も子もない、と考えてると変な気配を感じた。


 見渡してみると、乗車ドアと客席の間の背もたれでできる隙間に、背が低い中学生ぐらいの女の子が立っていた。


 髪はミディムヘア、ぶかぶかのミリタリージャケットにショートパンツ、派手なピアスにタトゥー、カメラが入りそうなカバンを肩掛けにしている女の子がスマホを見ていた。


(うわー、凄い子だなぁ)


 しばらく眺めていると、目的地についた。


 瑠璃は慌てながら降りた。後ろを振り返ったがその子の姿は無かった。


 駅を出て徒歩だと遠いので、タクシーでその病院に行くことにした。


 タクシーで走って30分、女性運転手と他愛もない話しをしながら乗っていると山の中に入って着目的地にいたようだ。


「あっ、着きましたよお嬢さん」

「ここが……ですか?」


 建物は思ったより大きく、窓には刑務所の様な鉄格子が張ってあった。


 タクシーの人に建物の外で待ってるように頼み、建物内に入った。


 中に入ると、看護師の人達が行ったり来たりを繰り返していた。周りの空気が重かったため、ここにいるのがとてもきつかった。


 身を引き締め、受付に向かった瑠璃。受付の人は思ったより暗い人ではなかったため、安心はした。


「あの、こちらで予約した里美のいとこの中村瑠璃です」


 身分証明書を見せると受付の人は、近くにある電話機をとり誰かに電話をした。


「あそこでしばらくお待ちください」


 受付の人は椅子に座るように進めた。


 瑠璃はしばらくおどおどしながら待っていると、瑠璃の方に近づいてきた女の看護師が声を掛けてきた。


「あの~、いとこの瑠璃さんですか?」


 そう言い、瑠璃は返事をした。


「はい、そうです。私は三条里美のいとこの中村瑠璃です」

「私は佐藤里美さんの担当の看護師の佐藤です」


 自己紹介をしながら瑠璃は自分の名刺を出した。受け取ると、早速里美の病室へと案内をした。


 歩きながら、佐藤は里美の容態を説明をしてくれた。


「さっき言った里美さんは、あの事が原因でお腹に赤ちゃんを抱えて、精神が壊れてしまったんです。今は、落ち着いて、病室内では絵ばっかり描いてるんですよ。それも子供の絵をね」


 不気味な話をしながらも、病室に近づくとうめき声が響いてきた。


 訳の分からない言葉を口走ったり、叫んでる声が聞こえてくる。


 瑠璃はあまりの恐怖に耳を塞いでしまうほどだった。


「安心してください、ここの部屋は厳重に警備をしているので安心です」


 そうは言っても、その中に入るなんて最悪なことだ。


 三O五の番号が書かれている病室の前に止まった。佐藤はドアの前に立つと瑠璃の方に振り返った。


「良いですか、話せるのは十分から十五分間です。それ以上はできません、良いですね?」


 その言葉に瑠璃はわかりましたと言い、こっそり持っていた録音器のスイッチを押した。


 佐藤は病室の扉を開けると、目の前の光景は絵で埋め尽くされていた。ベットの上には目を虚ろにし、お腹を膨らませて座っている里美がいた。


 瑠璃は思わず目の前にいる里美に身震いをした。


「あまり刺激を与えないでくださいね」


 佐藤は小声で言い、扉を閉めてしまった。


 中は窓が一つしかない代わりに鉄格子が付いている。


 瑠璃はベットの隣にある椅子をベットのそばに置き、自己紹介をした。


「里美ちゃん。瑠璃お姉ちゃんだけど、覚えてない?」


 顔を見て言うが、里美の瞳は闇のように真っ暗に染まっていた。


「ちょっと質問するけどいい?」

「……」


 瑠璃の問いかけに、里美は小さく頷いた。


「じゃあ、聞くよ。里美ちゃん。体調はどう? 何も変化ない?」


 瑠璃が質問をしても、里美は前を見つめていた。


 沈黙が続いたので、声を掛けようとすると里美が重い口を開いた。


「大丈夫」


 低い声で話し始めながら前を見つめていたもので、瑠璃は恐怖を感じた。


「……そう」


 戸惑いを隠せない瑠璃は怯えながらも返事をした。


 それから三つほど途絶えながら質問をしていくと、急に里美が瑠璃を見つめてきた。


 いきなりで戸惑ったが、なんとか耐えると里美は口を開き始めた。


「ねぇ……瑠璃お姉ちゃんは依存症になったことある?」

「えっ? どういうこと」


 思わず聞き返すと、里美の目の奥には絶望の光が浮かび上がっていた。里美はこれまでのことを話し始めた。


「実はですね、あの先生のために殺しちゃったんだ。友人を」

「えっ、殺した?」

「はい、瑠璃お姉ちゃん、記者だから言ったらすぐにわかるわ。ある廃墟のビルで焼身遺体のこと」


 里見の言葉にすぐに瑠璃は察した。


「あぁ、思い出したわ。確か、近くにいた人が廃墟からの叫び声を聞いて、何事かと思って、その人が上を見た時なぜだか明かりが少しだけ見えたからなんだろうと思って上に行くと、そこに」


 瑠璃は内容を知っているため、精神的にやられている里美にあんなグロテスクな内容は話せられない。


 だが里美は、


「人の遺体が倒れていたんでしょ」


 里見の言葉に、瑠璃は小さく頷いた。


「その人は、私の友達」

「はぁ!? えっ、まさかそのこを」

「えぇ、私が勘違いで殺してしまったんですけど、実際に手を下したんじゃありません」


 不気味に口角を上げながら、瑠璃に語り続けた。


「だっ、誰に?」


 瑠璃は不気味の圧に負けないようにしながらも、これはビックチャンス。逃したらおしまいの話だ。


「闇と紗季……黒川闇さんは記者で、闇掲示板に載っている普通じゃあない記者です。そして紗季が殺し屋です、最初は闇さんという方にお願いしてから次に紗季さんに殺してもらうように頼んだよ」


 すらすらと話す里美には死にたいという気持ちが溢れ出していた。


 すると、後ろから扉の開く音がした。


「そろそろ時間です」


 佐藤の声に、瑠璃はやっとこの部屋から出られる安堵がドッと溢れ出した。


 瑠璃はすぐさま部屋を出ると、佐藤はドアをそそくさと閉め鍵を掛けた。


 その場を去りながら、瑠璃は佐藤に質問をした。


「あの、他の患者さんたちもいつもこうなんですか?」


 質問をすると、佐藤は苦笑いをしながら問いかけてくれた。


「えぇ、他の患者さんなんかいつもああですよ。毎日辛いですけど仕方ありません。もぉ毎日が患者さんたちの相手ですよ」


 そう話しながら出口に着き、佐藤にお礼を言い、タクシーに乗ってその場を去った。


 瑠璃は帰りに近くのカフェに向かい、録音器にイヤホンを入れ、里美の声を繰り返し聞きながら原稿の下書きをしていた。


 原稿につまりはじめ、イヤホンを外してボンヤリと店内を眺めていると、先ほど電車で見かけた女の子がいた。印象的なその子に目が釘付けになると、視線に気が付いたのかその子は耳に髪を掛けて近寄ってきて言葉を掛けた。


「あの、ここいいですか? 周り見てもあまり席が無くて」


「あっ、どう、えっ」


 瑠璃はその子の顔を見てみると、その子の目には右目が青で左目が紫の瞳になっていたのに驚いていたが、その子はニッコリと笑い挨拶をした。


「ありがとう」


 その子は笑みで言いながら座り、ミルクティーを頼んだ


 瑠璃は自分で頼んでいたコーヒーを一口飲み、ネタの原稿の下書きをしていた。


 しばらくすると目の前にミルクティーが運ばれ、その子は一口飲んでから本を読み始めた。


 気まずそうにしながら原稿の下書きをしていると、その子はミルクティを再び口に運び、話しかけてきた。


「お姉さんさ、記者さんなの?」

「えっ、何でわかったの?」

「だってさ、これ」


 その子は、瑠璃が書いている原稿に指を置いた。


「この下書きの仕方だと記者のやり方じゃん」


 清々しく話すその子の表情に、訳がわからないが胸の中がドキッとしてしまった。


「あのさ、あなたの名前はなんていうの? あっ、私は中村瑠璃です」


 思わず自己紹介をしてしまうと、その子も自己紹介してくれた。


「私の名前は、黒川闇です」

「えっ!」


 闇という言葉を聞いた途端、瑠璃は里美の言葉を思い出した。


『黒川闇です。と言っても普通の記者ではありません』


 思いもよらぬ絶好のチャンスに、瑠璃は思わず口を滑らせてしまった。


「まさかあなた、あの闇さん!」

「えっ? お姉さん知ってるの? 私のこと?」


 首を傾げる矢先、瑠璃は自分の失態に後悔をし、目の前の闇にバレないように少し手を握リしめた。


 瑠璃は心の中で反省をしながら、里美の顔写真をテーブルに置いて見せた。


「この人がですね、闇さんに写真を依頼してから紗季さんに殺すように依頼したと話したんですけれど……本当ですか?」


 正直なところ、瑠璃はあんまりこの話を信じてはいなかった。なにせこの女の子が人を殺したにせよ証拠が無い限り逮捕はできない、それに闇の姿を見てみたら遊び人にしか見えない。明らかにやばそうには見えるが優しそうな感情が見える。まるで何かに包まれた天使に見える。


 すると、闇は鼻で笑った。


「知りませんよ。この人がどうして私の名前を知っているのかは知りません。しかし、勝手に私と友達をそういう殺人鬼にするのやめてくれます? あまりにも不愉快です」


 怒りの混じった顔を瑠璃に見せつけ、お金を置き、最後は笑顔でありがとうと言い残して、その場を去っていった。


 瑠璃は闇の怒りの顔に恐怖が全身の伝わり、しばらくは椅子から立てられなかったが、何かのためにこっそり闇に関することをメモに書き写した。


 その頃、闇はカフェから出て、山道を歩き、木に付いている赤い実(千両)をむしり、口の中が少し酸っぱくなりながらも、山奥にある建物を目指していった。



 重苦しい空気が変わらない精神病院の中は、病人の奇声や怯える声が飛び交い、看護師と医者は、落ち着きながら治療をしていた。


 佐藤は里美に関するファイルを手に管理室から出ていき、受付を通り過ぎると声を掛けられた。


「すいません」

「はい」


 横を向くと背が小さい派手な格好をした女の子が、ヒールの靴を鳴らし、何かを食べながら近づいてきた。


「あの、どちら様ですか? 面会なら受付に行ってからお願いします」


 笑顔で会釈すると、その子を見た途端声を失った。


 それはその子の目は右目が青、左目が紫色の瞳になっていたからだ。



 気にしていたがその子はニッコリと笑い、ゆっくりと首を横に振った。


「いえいえ、すぐに帰ります」


 精神病院で不気味に笑う子を初めて見る佐藤は少しゾっとした。


 すると、いきなりその子は背伸びしながら何かを佐藤の口の中に放り込んだ。


「うっ!」


 佐藤は思わず食べてしまい、その場に尻餅を付いてしまった。


「どうしたの!」


 心配して駆けつたもう1人の看護師が、佐藤の背中をさすりながら立たせた。


「ごっ、ごめんなさい、知らない女の子に何か実を食べさせられて…」


 吐きながらそう言うと、その看護師は「えっ?」と言った。


「何を言ってるの? そんな子いないわよ」

「えっ⁉」


 驚きながら前を見ると、その子はいつの間にか消えていた。


 佐藤は一旦、更衣室に戻り赤い液体で汚された看護服を脱ぎ、新しい看護服に着替え再び里美のファイルを持ち、更衣室を出ると、


(あれ?)


 持ったファイルの様子がおかしい。


 紙の色はいつもどおりなのに、何故か少し先程の赤いので汚れている。あの時はファイルを横にしていたため


 佐藤は思わず中身を取り出した。


「えっ! なんで?」


 見てみると、それはただの白紙だった。全てのプリントを見たが、全部白紙だった。


(どうして、まさか)


 佐藤は胸騒ぎがし、急いで里美がいる病室に向かった。


 病室の部屋の中では里美は何かに反応し、怯え続けていた。


「はぁはぁはぁ」


 息遣いがどんどん荒くなっていき、額から汗が流れてくる、体を縮こませても収まらず布団を被った。


 何かが来る、悪魔いや、もっと悪いものがここに来て私と子を殺そうとしている。腹を引き裂き食い散らかし食べるんだ。苦しんでいる私を笑顔で見ながら刃物や炎で殺される。


 何か来る。何か来る。何か来る。何か来る。何か来る。何か来る。


 心の中で言いながらシーツを握り絞めていると、いきなり布団がはがされた。


 はがした相手を見ると、里美は眼を見開いた。


 そこにはシーツを持った闇が立っていた。シーツを横に放り投げゆっくりと里美に近づいた。


「お久しぶりです。里美さん」


 ニッコリ話す目の前の悪魔は里美が怯えているのを楽しんでいる。


「あんた……何処から……入って……来たの?」


 怯えながら話しかける里美の前に、闇は奪い取った書類を見せつけた。


「これです。この書類に部屋の番号が書かれていましたんで」


 笑いながらも、闇はその書類を破り捨てた。


「来ないで! お願いお願いお願い」


 涙を流しながら毛布に顔を埋め、闇が消えるように祈った。


 その状況に闇は思わず笑ってしまった。


「ハハハハハッ、里美さんは面白い。後ですね、里美さんが他人に私達のことをしゃっべったせいで予定が狂いました」


 そう言いながら、里美に向って何かを差し出した。


 顔を上げると、それはナイフだった。きらめく刃物に思わず吸い付かれてしまいそうだった。


「さぁ、これで楽になります。切る時は笑って切ると楽ですよ」


 闇の言葉に里美は絶望の顔をして、笑ってしまった。


「はは、ハハハハハハハハハハ」


 もぉ、楽になりたい、そう心に言い聞かせナイフを受け取った。




 佐藤は走って里美の病室に着いた。


「里美さん、開けますね」


 優しく問いかけると、


 佐藤は思わず目の前の光景に声を詰まらせてしまい、その場に崩れた。


「いっ、いやぁぁぁぁぁぁぁ! 誰か、誰かきてぇぇぇぇぇぇぇ」


 佐藤は何とか立ち上がり、他の看護師に助けを求めた。


 佐藤が目にしたのは、手首をナイフで切って死んでいた里美の姿。


 ベットの上には大量の血が染みついており、ゆっくりとシーツから血が床に滴り落ちていた。


 出版社に戻った瑠璃は、喫煙所にいる優に原稿の下書きを見せた。


「うーん、もう少しこうしたほうが注目集めやすいんじゃない?」


 久々に先輩に褒められた瑠璃は誤魔化したが、闇のことが頭から離れなかった。むしろまた会いたいという気分だった。


「あっ、先輩はどうなんです? 取材の方は?」


 瑠璃は取材に行った先輩のことが気になった。優は煙草の煙を出しながら顔を歪ませた。


「どうもこうも、警察にあのクズ教師が何で高校生や中学生をホテルに連れて行ったのか質問をしたらね、体や顔がよかったから金で誘ったらやれたっていうのよ、最低すぎじゃない?」


 ため息を漏らし、灰皿に煙草を揉み消し喫煙所にを出た。


「あんな男は世に出しちゃだめ、そういう男と付き合って妊娠した女の子がかわいそうだわ、もぉ」


 思ったことを口にしながら話す先輩の後を追うと、瑠璃のスマホが鳴り出した。


「ん?」

「あれ? あんたのスマホ鳴っているわよ」


 優は瑠璃のスマホを指して、先にデスクに戻ってしまった。


 瑠璃はポケットからスマホを取り出してみると、あの精神病院の電話番号が浮かび上がっていた。


(なんだろう? でもこの電話を掛けるとしたら佐藤さんかな?)


 不思議そうにしながらも、瑠璃は電話に出た。


「もしもし、どうしましたか?」


 そう問いかけるが、佐藤は過呼吸に襲われたかのように話した。


『はぁ、はぁ、瑠璃さん、』

「ちょっ! どうしたんですか? なんか息苦しい声が……」

『ごめんなさい、落ち着いて聞いてください』

「えっ、はい」


 佐藤にそう言われ、瑠璃は心を整えて聞いた。


『実は、里美さんが……ナイフで自殺を図りました』

「えぇ! どっ、どういうことですか? 意味がわかりません」

『私もです、普通危険なものを部屋に持ち込むことは禁止ですし、なのに、なのに』


 声を詰まらせながら訴えかけている矢先、瑠璃は電話越しで里美の急な死に、今の状況に頭を混乱させた。


 会ったときは普通に話してくれたが、自殺をする様には見えなかった。


 きっと誰かが自殺をする様に仕組んだに違いない。


「じゃあ、誰かがその病室に入ったんじゃあ……」

『とんでもない、鍵は厳重に鍵の保管室に置いてあります。取れるのは私達看護師と先生だけです』


 慌てふためく佐藤の電話越しから激しい足音と声が響き渡っていた。


『あっ、ごめんなさい、今忙しいからまた連絡します』


 そう言い残し、佐藤は電話を切った。


 瑠璃はしばらく、電話を握りしめてその場に立ち尽くしてしまった。


(どうして………)


 頭を抱えながらポケットにスマホをしまうと、


「ん?」


 スマホを入れた瞬間、何か固いものが指先に当たった。スマホを取り、中に入っているのを取り出してみると、それは小さい紙だった。


「何これ……」


 開いてみると、闇からだった。


 “こちらの街でこの店に行くと、会えますから機会があったら会いましょ。闇より”


 手書きで書かれており、その下には街の名前が書かれてあった。

(なんか、お誘いみたいで恥ずかしい)


 顔を赤らめてその紙をそっとポケットにしまった。


(あっ! 両親とか知ってるのかな?)


 瑠璃はすぐに里美の両親に電話を入れた。


「瑠璃ちゃんどうしたの?」

 

 電話の先から普通の声で話しかける母親に少しだけ困惑したが、瑠璃はすぐにあのことを話した。


 だが、母親は悲しむこともなく、「それなら先ほど聞きました」と答えた。


「えっ。悲しまな、いんですか?」


 里美は思わず言うと、母親は話した。


「少しは悲しいけど、高校生だって言うのに赤ん坊を授かるなんて。そもそも、赤ちゃんを授かったら色々と大変なのよ。それを考えないであそこまでしていたなんて、もぉ嫌になるし、それにご近所からは変な目で見てくるのよ。もぉ引っ越そうか考えているわ」


 母親は少し苛立ちを見せながら言った。


「まぁ、この後色々とあるから電話に出られないかもしれないわ。また電話にかけられたらするわね」


 母親はそう言うと、電話を切った。瑠璃はモヤモヤの気持ちを感じながらデスクに戻った。



 真っ暗な夜の中。3階建てのビルの2階は、夜には人が少なくなるカフェがある。

闇はミルクティーを飲みながらクロを撫でていた。


 闇はここの常連で、1週間に2回は飲みに来る。


「はぁ、美味しい。クローミルク美味しいか?」

「にゃー」


 元気に鳴くクロを見て満足した闇はもう一口飲もうとすると、


「ちょっとお話良いですか?」


 可愛らしい声を聞き、見上げるとそこには可愛らしい子と弱そうに見える男が警察手帳を見せながら睨みつけていた。


「私、警察捜査一課の木村穂香と申します」

「同じく警察捜査一課の矢崎裕也です」

「すいませんが、ご同行をお願い出来ませんか?」


 穂香は手帳を内側のポケットにしまって言った。


「警察が何の用ですか? それに急にご同行だなんて意味がわかりません。訳を言ってください」


 闇はクロの頭を撫でながら話すと、穂香と裕也は目の前に座り、穂香が一枚の顔写真をテーブルの上に置いた。、


 見ると、笑顔で写っている七海の顔写真だった。


「この方が先月学校の屋上で惨殺死体として発見されたことをご存じですか?」


 その言葉に闇は考えるふりをし、こめかみを押さえ、思い出したかのように反応のを見せた。


「あぁ思い出しました。あれはお気の毒でしたね。まだお若いのにあんな姿になるなんて両親はとても心が痛んでいましたものね。けれど、それが何の関係があるんですか?言っときますけど、私とそのお方はなんも関係ありません。」

「あんた、人の命をなんだ、いたっ!」


 裕也は怒りのあまり怒鳴ろうとすると、クロは手を鋭い爪でひっかき、威嚇をした。


「あらあら、もぉ何してるのよクロ、だめよ警察方々をひっかいては」


 闇は優しく撫でながら叱ると、穂香は負けられない気持ちでもう一枚の写真を見せた。


「ん? これは…」

「長谷川修一、君がこの人に会ったって目撃情報が出ています。これは否定できませんよね?」


 穂香は勝ったと感じたが、闇は声をあげて笑い否定をした。


「いいえ、私この人にも会ったことはありません」

「ですが、目撃情報が……」

「そう言われましてもね~。私はその時と一緒にいたんですもの」


 揉めていると誰かが声を掛けてきた。


「闇~~迎えに来たわよ~」

「ん? えっ、」

「どうしたんすか? えぇ!」


 穂香と裕也の背後には、闇と同じ服装で来た紗季とジュヌとソジュンとユソがいた。


「もぉ、皆遅いよ。さぁてと」


 闇はミルクティーを飲み干し、紗季達の方に行き、紗季は闇に抱き着いた。


「もぉ、良いでしょ。私これから皆と一緒にパーティーなの、それじゃあ」


 闇達が去ろうとすると、裕也は闇に近づき怒りに任せて肩を掴み掛かろうとしたが、


「待て! これから警察署に」


 ジュヌは裕也の手首を掴み、そのまま引き寄せて胸倉を掴んで宙に浮かせた。


「うっ、がっ」

「裕也!」

「全く、最近の警察は何でこんな暴力的何でしょうか。闇がパーティーだっていうのに帰らせないのかなぁ」


 ジュヌはため息を漏らし、胸倉を掴まれて苦しんでいる裕也を眺めながら言った。


 裕也は首をおさえこまれながらも、必死に訴えた。


「こっ、公務執行妨害で逮捕するぞ!」


 裕也は声を枯らしながら言うと、闇はため息を一息つき、ジュヌに裕也を下ろすように言った。


「下ろせジュヌ。お前が逮捕されたらたまったもんじゃない」


 そう言うと、ジュヌは裕也を乱暴に振り下ろした。


 穂香は裕也の所に行き、険しい目で闇たちを睨みつけた。


「睨みつけても意味わないわよ。それよりも、正式な任意同行はあるのですか? まぁどちらにせよ、乱暴に連れて行こうとした刑事さんが悪いのですからね」


 そう言いながら去ろうとすると、闇は何かを思い出し、振り返った。


「木村っていうから、なんかどっかで聞いたことあるなぁと思ったんですね。貴方、30年前、政治家のお父様が横領したっていうね……子供は貴方でしたね。まだ5歳の頃の穂香さんが苦しみを味わった日です」


 不気味な目を光らせ、穂香は闇がマスターに向かってごめんねと言い残しその場を去るのを見届ける事しか出来なかった。


 裕也はお腹を押さえながら穂香を見ると、穂香は拳を握り絞めてわなわなと震えていた。


 立ち上がると、銀のお盆の上に乗っている水を、若いマスターが隣のテーブルに置いた。


 裕也は思わずお礼を言った。


「ありがとうございます」


 受け取ると、男は冷たい目線を2人に向けながら話しかけた。


「あんたらが悪いですよ、刑事さん方」

「えっ? どういうことですか?」


 いきなりの反論に、穂香は若い男に目を向けた。その次には、カウンターでグラスを拭いている細身の叔父さんも苦言を呈し始めた。


「そやぁ、わしだって同じだ。そこの裕也さん? あんたがわしの大事な常連客に失敬な態度を見せた挙句、その方の肩を無断で掴もうとしたんだからそれはあんたらが悪いさ」


 冷たい目線を裕也に向けながらグラスを拭き続ける叔父さんに、裕也は怒りの顔を見せて、カウンターに近づいた。


「今の光景を見て何とも思わなかったのか。あの子の仲間は僕の胸倉を掴んで投げ飛ばしたんです! おかしいと思わないのか!」


 裕也は必死に反抗をしたが、穂香は相棒の肩を掴み、


「やめとけ」

「ですが!」

「いいから! 暴れてしまって申し訳ございませんでした。すぐに出ていきます。」


 穂香は目の前にいるマスターに深々と頭を下げると、相棒を連れて早々と出て行ってしまった。


 裕也は苛立ちながら店を出たが、穂香の30年前の話を聞こうとしたが、聞くのは今度にしようと決めた。


 穂香の目には、うっすらと涙が浮かんでいたから。



 その頃、紗季は闇の腕を組みながらさっきの話の続きを聞いた。


「そのさ、政治家はどうなったの?」


 気になる話に紗季が見つめて言うと、闇は喉を触って話した。


「自殺した。拘置所で首を吊ってね。その後はあいつの家族はそのまま夜逃げしたんだ。父の物を全て消してね」

「へぇ、まぁいいや! それより今日はどんな遊びする?」


 紗季は後ろに居る3人に問いかけると、3人は2人の好きなことで良いと答えた。


「じゃあそうしましょ、ねっ! 闇♡」


 恋人に笑顔を向けられ、闇はしょうがないとため息をつきながら店へと足を運んだ。



 雲が一つもない朝、瑠璃は久々の休暇を貰い、闇がメモに書いた名前の街へと出かけた。


 電車の中では、優のメールを眺めていた。


“久々の休暇なんだから楽しみなね!”


 先輩からの優しい一言に、瑠璃は笑顔が出た。目的地に着くと瑠璃は早々と電車を降り、駅から出ると、そのままブラブラと歩き出した。


 街は派手な格好の人がいっぱいいて、瑠璃は自分の服装を見て、自分の地味ないでたちに嫌悪感を感じた。


 もっと派手な格好が良かったかとも思い始めた。


 カフェに行って少し休憩をしようと考え、手短に見つけたカフェでくつろいだ。


 建物内から人や車が見える。ただここには不良っぽい人がいて怖い。こんな街に住むなんて瑠璃にとってはごめんだ。


 しばらくスマホをいじりながら眺めていると、


「あっ!」


 そこには、闇が2人の男を連れて、何やら話している。


 瑠璃はパッと笑みを出し、荷物を整えカフェを出た。外に出ると、そこには闇と韓国人の姿は無かった。


 辺りを見渡しながら、思わず裏道に入って行った。どんどん奥に進んで行くと人影があり思わず身を潜め、見つからないように覗き込んだ。


 そこには、真面目そうな男がナイフを眺めながら闇に話しかけた。


「なぁ、あいつをここに連れ込んでもいいのか? この街に」


 闇は花を食べながら鼻で笑った。


「まぁ、良いじゃないか、何かあったら私が何とかする。それよりも、人が話している最中に胸を掴むな、シン」


 闇の言葉に胸元辺りを見ると、いつの間にか目の前にいるチャラそうな男が闇の胸を掴んでいた。


「まぁまぁ、そんな怖いこと言わないでよ~」


 媚びながら闇に近寄り、次は服の中に手を入れ出した。


「!」


 瑠璃は思わず声を上げそうになったが、手で押さえてその場に座りこんだ。


(あれは……さすがにダメでしょ! こんな人気のない場所でこんなことしちゃ!)


 瑠璃は心の中で思い、一旦深呼吸してから覗き込むと、


「きゃ!」


 瑠璃が叫んだ先には、いつの間にか闇が花を食べながら瑠璃を見下ろしていた。


「なーんか、気配するなぁと思いましたけど、瑠璃さんでしたか」


 闇は花を食べながら言うと、後ろにさっきまでチャラついた男や真面目だった男が恐ろしい目で瑠璃を見ていた。


(なんだろう、私悪いことしちゃったかな?)


 心の中で心配をしていると、闇が瑠璃に向かって手を差し出していた。


「はい、腰を抜かしていたんでしょ、さぁ、立ってください」


 瑠璃は闇の気遣いにまたも胸の鼓動が少し高まった。手を借りて立ち上がり服を整えてから、闇に耳打ちをした。


「あの、この2人とは付き合ってはー」

「いますよ。他にもいますがね。」


 軽く話す闇に、ツッコミそうになった。


「まぁここにいるってことは暇なんですよね? でしたらこの先に私の行きつけの店があるんですよ。そこで話しません?」


 笑顔の誘いに瑠璃は断れ切れず、瑠璃は頷いた。闇は笑顔で瑠璃の手を取り、反対方向に向かって足を運び始めた。


 闇は男2人に向かって手を振りながら別れを告げたが、瑠璃は闇に引っ張られて思わず後ろを向くと、男はまだ怖い目を瑠璃に向けていた。


 しばらく狭い道を歩いていると、目の前に五階建てのビルが現れた。看板辺りに“DREAM(夢)”とピンクで書かれてあった。


 怪しい雰囲気が漂い、入るのに気が引けるほどだった。


 思わず瑠璃は闇に質問をしてしまった。


「あの、ここは?」


 闇の顔を見ると、闇はニコリとしながら話してくれた。


「夢の店という感じです。ここは警察も来ないんで、自由な場所なんですよ。なんでもね」


 闇は人差し指を立てながら言い、瑠璃を引っ張りながら店の中へと入っていった。


 入ると、そこは大音量の音楽が流れる世界だった。目の前の男女は踊り狂っていた。


 思わず瑠璃は耳を塞ぐ程の音量だった。


「うぅ、凄いですね」


 思わず瑠璃は闇に目を向けると、闇は平然と立っていた。


「あら、そう? 私は普通だと思うけど」


 闇の言葉に、瑠璃は凄い人だなと思った。


 瑠璃は男女や男同士や女同士がいくつかのソファの上で絡み合っている光景に目を背けた。


「瑠璃さん、お酒は大丈夫?」

「えっ?」


 顔を上げると、いつの間にか闇が二つのコップを持っていた。


「はい、そこそこは大丈夫です」


 瑠璃が言うと、闇は笑顔で「よかったぁ」と言い、一つのコップを渡してくれた。


「ここじゃあ、あれだから上に行こう」


 闇はそう言い、上に案内をした。瑠璃はコップの中身をこぼさないようにしながら闇の後に続いた。


 階段を上る間に手を繋いだゲイのカップルに出くわし、瑠璃は目を背けながら身体を避けた。その間に部屋があり、そこには敷布団の上に裸で絡み合っている人々がいた。


「あっあれは」

「あぁ、あれ。だから言ったでしょ。ここは夢の場所。なんでもしていい場所なのです」


 笑みを見せ、コップの中に入っている飲み物を口にした。


「あと、ここ暑いから水分取ってね。冬でもこうだから」


 確かに言われてみれば、店に入ってから夏みたいに暑い。薄着を着てきて良かったと思いながらコップの中に入っている酒を口にしながら闇の後を追った。


 4階に着くと、特別室と書かれた部屋の中に入って行った。入ると涼しさが全身を包み込む感じがし、豪華なソファにシャンデリアが飾られていた。


 あまりの豪華さに戸惑ったが、闇は綺麗な薄いカーテンの中に入り込み、瑠璃に入るように手招きをした。


「さぁさぁ、入って」


 笑顔でそう言われ、瑠璃は申し訳なさそうに入り目の前のソファに座りこんだ。


「さて、さっき何で男のカップルを避けたんだ? なんか変な感じ」


 闇にそう言われ、思わず持っいているコップを強く握ってしまった。


(話したくはないけど……だけど)


 瑠璃は闇のことを見ると、この人には話していい気がしてきた。この人なら私の話を理解して聞いてくれるに違いない。


 瑠璃は勇気を出して、口を重く話し始めた。


「実は私……男性が苦手なんです。わからないんですが、中学になった途端こうなったんです。だから彼氏もいなくて……」


 昔のことを話すと、闇は自分のカップに入れた赤いバラの花びらをむしりながら食べ始めた。


「ちょっ! 闇さんあなた、さっきから花ばかり食べていますけど大丈夫なんですか?」


 瑠璃は思わず花を食べるのをやめさせようとしたが、闇は微笑んでバラを差し出した。


「食べます、バラ。とてもおいしんですよ、この花の花言葉は愛やあなたを愛しますなんです。可愛らしいでしょ?」


 花を瑠璃にかざしながら話す矢先、闇は”それと”と、いきなり冷めた言葉を発した後に、次はオレンジ色のつぼみの形をした花を出した。


「これは……鬼灯?」


 瑠璃は考えながら答えると、闇はゆっくりと頷いた。


「はい、これは夏に咲く花なんです。私の友人が育ててくれたのがこれなんです。これにの種を取り出しては、子供の間では種を口に含んで飛ばすんです」


「へぇ、」


 瑠璃は感心しながら鬼灯を眺めていると、


「私を誘ってください」

「えっ」


 闇は鬼灯を眺めながら誘惑の言葉を口にした。瑠璃はいきなり何だろうと思ったが、闇はソファに背もたれをし、鬼灯をかざした。


「偽り、ごまかし、そうう花言葉なんです。この花」


 そう言いながら、闇の顔は一瞬悪魔の笑みがこびりついたように見えた。


 瑠璃は寒気を感じたが、闇は瑠璃の様子を伺うとニコリと笑い出し、顔を近づけた。


「例えば、瑠璃さんがそういう誘惑をしたなんて誰かが言ったらね」


 最後に再び笑うと、闇はコップの中に入っているお酒を飲み干した。


 すると、体が熱くなるのを感じた。酒のせいか何故か体が熱く、胸の鼓動が鳴り止まない。


 ドアの方から激しい足音がした後にドアが開いた。


 瑠璃は思わず振り向くと、そこには闇と目の色が同じだが、逆の色をした女の子が入ってきた。


「闇―――! ただいまぁ!」


 闇の名前を叫びながら、その子は闇に抱き着いてきた。


「あぁ、お帰り」


 闇がそういう言うと、瑠璃に見せつけるかの様にその子とキスをした。


「へっ!」


 瑠璃は思わず声を出してしまい、目の前の光景に頭が真っ白になりそうだった。


 震える手で、瑠璃は闇に抱き着いているその子を指した。


「あっ、あの、その子は?」


 闇はニヤリと口元を上げると、その子は闇の腕を首に回し、瑠璃の方を向き挨拶をした。


「こんにちわー、闇の恋人の紗季でーす」


ドクンッ


 恋人という言葉に、瑠璃の心臓の鼓動は激しくなり始めた。


 闇は飲み物を口にしながら説明を始めた。


「実は恋人がもう七人いて、紗季を入れて八人のカノジョがいるんです」


 紗季を抱きしめながら、闇は笑みを崩さなかった。


 あまりの異様な光景に、体の熱は全く下がらない。むしろ息遣いが荒くなり、目の前がふらついてきた。


「おやおや、顔が随分赤いですね。少し電話を貸してください、ここの近くのホテルに迎えに来るように瑠璃さんのお知り合いに言いますよ」


 手を出して言う闇に、瑠璃はふらつきながら。立ち上がった。


「あっ、瑠璃さん」

「いいです、自分で行きます」


 瑠璃は息を荒くしながら立ち上がり、ドアの方に近づいて、力があまり出ない手をドアノブに掛け、力を込めながら開けて階段を駆け下りた。


 一階に着くのが遠く感じながら駆け下りる途中に体の力が抜け、その場に座りこんでしまった。


 下からは音楽が大音量に流れてきて、頭が痛い。


 すると、刺青を入れている男性に声を掛けられた。


「あれあれ、君見ない子だね。君も周りにいる子?」


 不気味に笑いながら顔を覗き込むその男から瑠璃は離れるために、力まかせに立ち上がり、立ち去ろうとすると。


「まぁ、待ちなよ。そう焦らないでさ、今仲間とこういうのやるから上に行かない? 君も楽になるよー」


 逃げる瑠璃の手首を掴み、にやつきながら何かを見せてきた。見ると、白い粉だ。


 麻薬だと確信をすると、瑠璃は一声上げると、その男の手を振り払って、走ってその店を出た。


 裏道を走り、瑠璃は店に警察は来ないと言ったのがようやく分かった。


 あそこは単なる秘密の店で、裏道なら警察には見つからないと感じたのだろう。しかし誰があんな店を作ったのかを知るのはよしたほうがいいだろう。後で何をされるかわからない恐怖に怯えながら裏道の外にようやく出た。瑠璃は街中の空気を吸い込んだ。


 それでもまだ体の熱は収まらない、瑠璃は歩きながら漫画喫茶を探すと。


(あっ、あった!)


 瑠璃はやっとの思いで見つけた漫画喫茶に行き、会計を済ませた後、指定された個室に入り込み、椅子に横たわった。


「ふぅ」


 一息ついた後に、カバンの中に入っているスマホを取り出した。


 早く優先輩に連絡しなきゃ、そして早くこのとても良い情報を教えよう、早く悪魔を捕まえよう。


 あの悪魔の店を野放しにすると世の中がおかしくなってしまう。


 そう思いながら電話を入れ、耳にスマホを当て相手が出るのを待った。


 電話の音が響く中、瑠璃は心臓をドクドクと鳴らせてばかりだった。

しばらくすると、誰かが電話に出た。


『はい、』

「あっ、瑠璃です。今、OOの漫画喫茶にいます。良いネタを教えますので来てください!」

『えっ? 自分から来られないの?』

「今、体調が崩れて、行けないんですよ。だから迎えに来てくれませんか?お願いします」


 瑠璃は息を整えて話すと、相手は”分かった”と一言いい、そのまま電話を切った。


 ため息を付くと、そのまま眠気が襲ってきた。


(あれ……なんか眠気が…)


 襲われる眠気に、編集の疲れのせいかと思いながら瑠璃はそのまま椅子の上で眠ってしまった。



「んー」


 どのくらい寝たのだろうか、瑠璃は目を擦りながら起きると布の感触がした。

いや、むしろ触れている感触がおかしい、瑠璃は布団の中を見てみると、


「えっ、何よ……これ」


 布団の中で、瑠璃自身が裸になっていた。驚きのあまり声を出せない。瑠璃は時計を見た。


 時間は七時半、外は夜に染まっていた。


 驚きを隠せない瑠璃は辺りを見回した。


 ベットの下には瑠璃の服にカバン、妊娠器具が使い捨てされていた。


 おかしい、さっきまで自分はネットカフェにいてそのまま眠ってしまった。おかげでその後の記憶は途切れてしまった。頭が混乱して今の状況に理解が出来ない瑠璃は、自分は誰かに襲われたとしか思えなかった。眠っている無力な私を、反抗できない私を……


 瑠璃は震えながらシーツを握り絞めていると、誰かがお風呂場から出てきた。


 瑠璃は視線を風呂場の出入り口に向けると、目を疑った。


 バスローブを着ている、瑠璃の会社の部長、小野寺が薄い髪をタオルで拭きながらベットに近いてきた。瑠璃は呼んだのは優のはずじゃあと思っていると、小野寺は起きた瑠璃を見ると、満足そうに微笑んで、水が入っているペットボトルを瑠璃に向かって投げた。


「起きたかね、瑠璃君。いやぁしかし、君がこんな子だなんて知らなかったよ。また今度機会があったらお願いね♡」


 笑顔を崩さないまま、小野寺は水を飲んだ。


 瑠璃はあの時、優に連絡をしたはずで、どうして小野寺がいるのかよく分からなかった。むしろ呼んだ覚えがない、瑠璃は怯えた声で小野寺に話しかけた。


「あっ……あの、私は一体……何をしたんですか?」


 震えながら話す瑠璃に、小野寺は不思議そうに話し始めた。


「何を言っているんだね。君が私に連絡をして、迎えに来たら君が可愛らしい顔をして腕を掴んできてな、甘えた声でわしに抱き着いて誘惑したんじゃ。覚えとらんのかね?」


 部長の言葉に瑠璃は頭が痛くなった。


 自分が部長を誘った? あり得ない、私は男性恐怖症のはずだ、しかも部長みたいな威勢のいい男が大嫌いなはずだ、なのに目の前には私が誘惑したのだと話す部長がいる。


 頭を混乱させながら息を荒らしている瑠璃に、小野寺は“あっ”、声を出すと、ベットの脇から高級そうな紙袋を取り出した。


「はい、約束通りの着物」

「は? 着物? どういうことですか?」


 再び分からないと話す瑠璃に、小野寺は“えぇ、それも忘れたの?”、と驚きの声を出した。


「この着物は、さっきホテルに向かうのに買ったものだよ、君がわしにすがりながら『買って』、その代わりどんなことをしてもいいよというから買ったんだ。結構高かったぞ」


 小野寺はその紙袋を瑠璃の隣に置くと、トイレに入ってくると言い、そのまま洗面所に入ってしまった。


 瑠璃はすぐさま着替え、カバンと紙袋を持ってそのまま走ってホテルを出た。


 息が苦しくても、瑠璃は小野寺に捕まらない距離を出来るだけ取ろうと思い、走り続けた。とにかく遠くに行けば大丈夫、捕まりはしない。


 しばらく走り続けると、ついに走るのに限界が来た瑠璃はうつむきながら歩き出した。息を整えて、顔を上げると、目の前に薄暗い公園があった。


 瑠璃は息をはき、細長い電柱に照らされたベンチに座り込み、顔を手で覆った。


(あんなの……最悪だ)


 あの悪魔な行為に、瑠璃は想像しただけで涙が溢れてきた。地面に涙の雫が落ちる中、ハイヒールの音が近づいてきた。


 涙で濡らした顔を上げると、目の前には闇がいた。


「闇さん……」


 目の前にいる闇に思わず涙を再び流してしまった。


 闇はため息を漏らして瑠璃の顔を眺めていた。


「その顔は、あの部長になんかされたんですね。まぁ仕方がないことですけど」


 他人事のように話すが、今は何も言い返せない。瑠璃は涙を流しながらも、闇に涙声で問いかけた。


「あのお酒に……何を入れたんですか? 私……初めてを部長に……」


 涙を拭って話すと、闇は首を横に振りながら写真を瑠璃に差し出した。


「いいえ、貴方は初めてじゃあありませんよ」


 冷たく言い放った闇は何かを隠しているように見えた。半ば虚ろに顔を上げると写真に目が留まってしまった。


 写真には瑠璃が知らない男と違う日にホテルに向かっている。


「えっ? どういうこと、」

「これは、瑠璃さんの本当の姿です。瑠璃さんの男嫌いが中学から始まったのではなく、男好きが中学に始まったんです。それも体の関係だけや一夜限りの人達と。でも、いつの間にか働くようになってあなたのその本性は眠りましたが、お酒のせいでまたその本性が現れてしまったんです」


 闇の一言一言に瑠璃はわからなくなっていった。


 闇は跪いてうなだれている瑠璃の写真を撮り、闇の去り際に瑠璃は闇を引き寄せキスをした。


「……何しているのですか? 瑠璃さん」


 突然のことで闇は冷静を装いつつも驚いた。瑠璃は闇の肩を掴み、息を荒くしていた。


 目の前のには、好意を抱いていた闇がじっと瑠璃のことを見つめている。


「ねぇ……闇さんを抱きたいの、良いでしょ?」


 闇は呆れながら本当のことを言った。


「瑠璃さん聞きませんでしたか?私、カノジョがいるんで、」

「そんなの関係ない!」


 瑠璃は闇が話すカノジョの言葉を聞きたくない、と思いながら首を振った。


「そんなのはわかっています…けれど、それでもいいんです! 私は、たんに闇さんが欲しいんです。お願いします、お願いします!」


 瑠璃はすがって闇に頼み込んだ。


 座ってうつむいている瑠璃の姿に、闇はため息を漏らしながら誰かにメールを送り、ポケットから花を一輪取り出し、ちぎって食べ始めた。


「分かりました、良いですよ。その代わり、変えさせてください。髪の形とかも整えたいので、いいですか?」


 呆れながら問いかけると、瑠璃は顔を明るくさせて立ち上がった。


「本当ですか! ありがとうございます! 勿論いいです。ここの近くのホテルに行きましょう。さぁ」


 声を明るくさせながら、闇の手を引っ張っていった。闇は瑠璃の顔や目の奥を見た時は、


 もぉ彼女は本性を現したんだな、と感じた。


 近くの服屋で闇は瑠璃に頼んで、眺めのコートと帽子を買わせ、豪華なホテル内に入って行った。


 十六階の部屋の鍵を受付の人から貰い、部屋の中に入っていった。


 瑠璃は先にシャワーを浴び終ると、闇がテレビを見ながら待ち構えていた。次に闇がシャワーを浴びている間に、瑠璃はバスローブ着て、ベットの端に座ってそわそわしていた。テレビを見てもなにも感じない、感じるのは闇だけ、欲しい闇が今風呂場にいる時点で良い、抱けるなら死んでもいい、何でも良いから闇が欲しい、瑠璃は胸を高鳴らせて待ち構えていた。


 その頃闇はシャワーを浴び終ると、ドライヤーで髪を乾かし、あるものに着替えていた。


 それは瑠璃から貰った紫の着物だった。足下で着物の裾がもたついている。おまけに肩も出てしまうほどだった。


(少し大きいな)


 髪をクシでとかし、唇をリップで整えると闇は口元を上げた。


 数分間待っていると、ドアの開く音がした。


 見ると、闇がドアの隙間から生足を出しながらこちらを見ている。


 胸元から見えるタトゥーが妙に美しく思えてしまう。


「どうぞ、好きにしていいわよ」


 闇はベットに寝転んでいった。


 瑠璃は寝転んでいる闇に見とれてしまった。着物姿がまるで、蝶のようで美しかった。


 いや、もう蝶にしか見えなかった。


 瑠璃は目を輝かせ、闇の着物を優しく撫でた。




 どれぐらいだろうか、いつの間にか朝になっていた。


 瑠璃はいつの間に眠ってしまったのだろう。闇を散々抱いた後いつの間にか眠ってしまったようだ。闇の荒い息を思い出すだけでも顔が赤くなってしまう。闇を抱けた満足感と達成感が感じられてとても心が清々しい、けれど瑠璃はベットの隣にいる闇がいないことに気が付いた。

すぐさま探すと、闇はいつの間にか着物を脱ぎ、椅子に掛け、いつもの服装に戻りガーベラを食べていた。

起きてい瑠璃に気が付くと、闇は振り返ってニコリと挨拶を交わした。


「おはようございます。瑠璃さん」


 闇は何もなかったのかのように花を食べ続けた。


 瑠璃は裸の姿のまま、闇に好きになってもらえたか確かめた。


「あの闇さん、私は、私は、闇さんのカノジョになったのでしょうか? それともまだなら私は勉強をします。闇さんの物になれるならいくらだってします!」


 瑠璃は思いを闇に必死にぶつけたが、闇は花を咥えながら瑠璃に近づいた。

二つの色違いの目に瑠璃は見とれていると、闇は口元を上げて、話した。


「今日でおしまいです」

「……はぁ?」


 闇のおしまいという言葉に、頭が真っ白になった。


「なぜです! 私は闇さんのために色んなテクニックをやりました! それの何が足りなかったんですか?」


 思わぬ発言に瑠璃は理解出来なかった。いや、むしろ理解をしたくなかった。


 私の恋人になる為に闇を色んなことで落とそうとしたが、それが何もかも無駄なんておかしすぎる。


「なぜ終わりなのかはね、依頼されたんですよ。あなたが大学時代に彼を寝取っいた人からあなたを探して欲しいと依頼されましてね。それであなたの写真を撮って渡したらすぐに紗季の居場所を教えてほしいと言ったもんですから、相当恨みをかっていたのでしょうね」


 闇の一言に、瑠璃は唖然としていると、顔を近づけてきた。


「ところで、瑠璃さんは気付いていませんか?」

「えっ?」


 闇からの訳のわからない言葉に、他の何かがあるんじゃないかと思った。


「瑠璃さん、この音聞こえないの? 私はさっきから聞いているのに」


 目を光らせながら話す闇に、瑠璃は我に返って聞いた。


 ガリっ、ガリっ


 何かを噛み砕いている音が耳に入ってきた。


 音がなる場所にゆっくりと首を向けると、


「ヒっ! さっ、紗季さん、」


 そこには、椅子に座り足を組み、アメを恐ろしい目で食べながら瑠璃を見つめていた紗季がいた。椅子の横には小さいテーブルの上にアメの包み紙が数枚置いてあった。


「いっ、いつからここに……」


 怯える瑠璃に、闇は笑いながら説明をした。


「朝からですよ。この子、私が仕掛けた監視カメラで覗いていたんです」


 闇は天井の角ら辺を見ながらそう言った。瑠璃は恐る恐る闇が見てる方向を見てみると、白い、小さいカメラが角に置いてあった。


「それからこの子はアメを舐めないで、噛み砕いてばかりなんですよ。言っときますけど、彼女、怒ると怖いですよ」


 闇は口元を上げて言ったが、紗季はアメを食べるのをやめなかった。


「さて、これで貴方とはお別れです」


 別れの言葉を言う闇に、紗季は食べ途中だったアメを放り投げ、口の中に入っている飴を吐き飛ばすと、待ってましたといわんばかりに大きいナイフを取り出した。


「はぁ、やっとか、さぁ瑠璃、あんた……よくも私の闇に傷を付けましたね」


 会った時とは違い、どす黒い声を出していた。


 闇は紗季と入れ替わると、闇は振り返り、悪魔の笑顔を見せながら瑠璃に最後の挨拶を告げた。


「さようなら、一夜限りでしたが、まぁ天罰です」


 冷たく言い放つと、闇はその場を後にした。


 瑠璃は裏切られた気分だったが、目の前の死神は怒りの塊のナイフを持ち、瑠璃に近づいた。


 闇は瑠璃を撮った写真を見た。涙を流している瑠璃の周りには紫に混じった蛇が絡みついていた。


(今度は動物、まぁ蛇は大きければ大きいほど動物や人を食らう、つまり男は小動物、瑠璃は蛇、ということか。動物は巨大な蛇に飲み込まれそのまま溶かされ死んでゆく、とても良い物だ)


 すると、後ろから瑠璃の叫び声が聞こえてきた。とても苦しんでいる叫び声だった。


 紗季の怒りに触れるとまさに恐ろしい、今頃紗季は瑠璃の腹や首、顔、腕を滅多刺しにしているだろう。


 そう思い、歩いていると


「んっ!」


 闇は誰かに口を塞がれ、斜め横の部屋に入れられた。


 闇は口を塞いでいる人の腹を肘で殴った。


「ゴフッ、何してるんだよ~、闇!」

「はぁ?」


 闇はその男の顔を見てみると、シンが腹を押さえて闇を見ていた。


「なんだよ、シンか~、驚かせるなよ。てっきり不審者かと思ったよ」

「それがね、違うんだよね~」


 後ろから聞こえた声に後ろを向くと、ソジュンとミンスとジフだった。


「何でお前らが」


 驚く闇に、ジフは笑みを漏らして闇の顔に近づいた。


「そやぁ、わからないの?」

「は?」


 訳のわからない闇に、ミンスは闇のチョーカーの真ん中のハートを取ると、チャリッという音が聞こえた。闇はミンスの手元を見ると、それは銀色に輝いている鎖だった。


「……何、首輪なんかして」


 闇は見上げると、4人の人食い達は目を光らせて笑顔を消していた。


 ミンスは笑顔を消し、怒りの混じった声を漏らした。


「まだ分からないのかな闇、君は僕達を怒らせたんだよ」


 ミンスは怒りを滲ませて話すと、シンは少し微笑みながら後ろから抱きしめて耳元で囁いた。


「そりゃぁ、怒らしたよ。写真を見たときから警戒していたけど、まさかここまで来るとは思わなかったでしょ?」


 後ろから囁いてくるシンに思わず寒気が走りそうになったが、闇はため息を漏らして、首に鎖を巻かれた理由を悟った。


「つまりあんたらは、俺達は怒ってるから監禁をするってこと?」


 そう言うと、4人はニヤリと笑い何かを出し、ミンスは闇の耳に囁いた。


「よく分かったね、しばらくは外に出られないよ」


 ベットに強引に放り込むと、4人は目つきを鋭くしながら闇を見つめた。


「「しばらくは閉じ込めて、調教するからね、闇」」


 4人は話し終えると、闇の手や足を掴み服を破った。


(やばいな、今回は)


 闇は今回のことを反省をしながら、4人に従った。


 姿というのは、自分が認めている姿と認めたくない姿をしている。


 認めたくない姿も、いつかは表出してしまう。鏡を見ると、その認めたくない本当の姿が現れ、その姿をひた隠しにしても、いつかは本性として現れた認めたくない姿は闇に落ちてしまう。何もかもおかしくなっていく。笑えないほどに落ちていく姿は、人それぞれだろう。



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