第2話 イジメの恐怖

 近所のお母さま方が挨拶を交わす朝、鈴木七海は学校に行くのを拒んでいた。心臓をバクバクさせがらカバンを抱え、家を出た。


 学校まではそう遠くはなく、15分ぐらいで着く。着くまでも足が震えていた。


 七海はあの3人に合わないように願った。


 学校につき、校門に着くと誰かに肩を叩かれた。七海は恐怖に発した。


「おっはよー七海ーー久しぶりー」と凛

「おはっ! 七海! 久しぶり」と愛海


 二人は元気よく言った。

「あっ、おっおはよう」


 会いたくない二人に会い、七海の体から恐怖が走った。


「どうした――、久々来たのに元気ないよ?」



 凛は腕を七海の肩に置きながら話しかけた。


「えっと……どうしましたか?」


 震えながら話す七海に愛海はにこにこしながら中に入るように誘った。


「まぁまぁ、教室に入ろ!」


 愛海は七海の肩を押しながら中に入ってった。


(あぁ……今日もいじめられる)


 七海は高校に入ってからこの人達にいじめられていた。


 夏休みに入ってからは一時期的に無くなったが、終わってからは地獄だった。10月はそれに耐え切れず、1か月間休みを取った。


 だから、今日は久しぶりの登校だ。


(あの子が来ていなければいいけど)


 この3人の中のリーダー・野口美輝が一番苦手だった。


 教室が一緒なだけあって地獄だった。


(あの子……まだ来ていないかな?)


 教室につき、ビクビクしながら自分の席に座った。隣の席を見るとあの子はまだ来ていなかった。


 数分後、8時の鐘が鳴っても美輝は来ていなかった。


 良かったと、思いながら胸をなでおろした。


(良かった、来ていない)


 そして、朝礼が始まる瞬間にいつもと違う女の先生が入ってきた。私が休みの日に何かの事情で止めたらしいと思った。


 目鏡をかけて髪をお団子にしていてとても真面目に見える。


 七海は隣のクラスメイトに先生の名前を聞いた。


「ねぇねぇ、あの先生誰?」

「えっ?」


 クラスメイトは不思議そうに言った。


「滝沢裕子先生だけど」

「そう、ありがと」


 名前を聞き、七海はクラスメイトにお礼を言うと目線を裕子に向けた。


 七海は視線を裕子に戻した。


「おはよう皆」


 裕子が生徒に挨拶をすると、生徒は声を張り上げないで挨拶を返した。


「「おはようございます」」

「えー、出席を取る前に皆に転校生を紹介します」


 裕子が転校生と言った瞬間、皆はざわついた。


「はいはい、私語は謹んで。じゃあ入ってもらうわよ。入っていいわよ」


 裕子がそういうと、ガラガラと教室の扉が開いた。


 入ってきたのは2人の男女だった。


 女の子の方はミディアムアに制服の上にパーカー、首にチョーカーをつけ、長めの黒い靴下を履いている。


 おまけに口には棒付きのアメを銜えていた。


 ただものではないと、七海は思った。隣の男子は背が少し低めで髪はウェイビーなミディアヘアにミステリアスな目をしていた。韓国人のような顔立ちをしていた。


 そのおかげで女の子達はコソコソ男の子の話をしている。


「はい、彼女は雪村幸恵さんで彼はミン・ジョンさんです。」


 裕子が二人の名前をいうと幸恵が元気よく話した。


「こんにちは、幸恵でーーーす。この学校あんまり知らないからわからんことは教えてねぇーー」


 喋り方はまるで、ギャルだ。次はジョンが静かな口調で話した。


「こんにちは、日本語話せるので日本語で接して大丈夫です。好きなことは本を読むことです。わからないことは教えてください」


 ジョンがそういうと女子が次々と「私が教えてあげる」「私が」とか色々な言葉が飛び交じった。


 裕子は再び手を叩いて落ち着かせた。


「はいはい、教えるのはあと‼ えーと、ジョンさんは目の前の机に座ってね! あとは幸恵さんは……七海さんの隣に座ってね!」

(えっ?)


 七海は自分がいない間に美輝が引っ越したのかと思った。美輝がいない事にうれしさを感じているといつの間にか幸恵は座っていた。


 幸恵は七海をチラッと七海を見た。七海はぎこちなく

「よろしく、です。」というと、幸恵はニコッと笑った。


 そのあと小声で、「よろしく」と返した。


 そして、朝礼がおわり休み時間になると女子達や男子達はジョンさんの方に行ったり幸恵さんの方に行って話しかけた。


 幸恵はにこにこ話していたが、ジョンさんは笑ったりとかはせず甘い声を出した女子達の質問に答えていた。


 他のクラスたちが転校生たちを見に集まっていた。


 七海は廊下に出ると愛海と凛が話しかけてきた。


「七海! あのイケメン何⁉ ちょーーーーかっこいいんだけど!!!!」

「いいなぁ、あんなイケメンと同じクラスだなんて」


 2人は目をランランとさせながら話しかけた。


 七海は2人から離れたくて、すぐにジョンを紹介をした。


「えっ、あっあの人は転校生の、ミン・ジョンさんていうの」

「へぇ―――、話しかけに行こ!」

「私もー」


 愛海と凛はジョンの方まで行ってしまった。


 七海が今のうちにトイレに逃げ込もうとすると誰かの肩があたってしまった。


「あっ、ごめんなさい」


 すぐに謝り、顔を上げるとそこには茶髪に図体が大きい小川修一と目が合った。修一は七海の顔を見るなり、顔を輝かせた。


「あぁ、あれ? 七海久しぶり! 大丈夫だったか。心配したぞ。一か月間休んだから」

「あっ、ありがと、心配してくれて」


 七海は心配してくれた修一に胸がキュンとした。


「もぅそろそろ授業始まるしな。遅れんなよ」

「うっ、うん!」


 修一は笑顔で自分の教室に戻った。


(やっぱり優しいな、修一君は)


 いつも修一は七海が何かあったときは助けてくれた。七海にとっては憧れの人だった。


 そして、授業が始まり皆は授業に集中をしていた。だけど、七海はあることに疑問を持っていた。


 なぜなら、最近頭痛に悩んでいたのだからだ。家にいる時は時々だが、昼の時には突然とてつもなく頭が痛くなり脳の中に映像が流れてくるのだ。


 七海が頭を指で押さえていると、幸恵が頬に手を置きながら見ていた。


「あっ、ごめんなさい」


 七海は頭の痛みに耐えながら授業に集中した。


 4時間の授業が終わり、昼食のパンを買いに行った。行く途中に凛と愛海に会い一緒に買いに行くことにした。


 ジョンと幸恵がサンドイッチや弁当を食べていた。


「あぁー食べてる姿もかっこいいー」

「うん。一緒にたべられないかなぁ」


 2人は目の前の光景に見とれていると、5人の女子達が2人を囲んで、1人が大きい声で言った。


「2人って付き合っているんですか⁉」


 七海は驚いてしまった。


 2人は黙っていると、ジョンがサンドイッチを食べるのをやめて立ち上がり、その女の子の前に立ちふさがった。


「誰がそんなことを言ったんだ……」


 さっきまで話していた声のトーンが違い女の子は思わず後ずさりしてしまった。


「えっと、誰かがそんなこと言っていたから」


 そう聞いた途端、ジョンは鼻で笑うと声のトーンを下げて言い張った。


「それは、秘密」


 そう言ったとたん、女子達が歓声を上げた。


「全く、どこに歓声上げる要素があるのやら」


 幸恵は苦笑いをしながら弁当を食べ続けた。


(あの2人って付き合っているのかな?)


 七海はポカンとしていた。


 買い終わると椅子に座りながらさっきのことで凛と愛海が愚痴っていた。


「絶対あり得ないよ、あの2人が付き合っているなんて」

「えぇ、あんなギャル女と付き合うなんてないない」


 2人が話している間、七海は寂しそうにパンを頬張っていた。


「ねぇねぇ」


 凛に話しかけられ、七海は怯えながら返事をした。


「はっ、はい」

「どうしたの? なんか怖がってるの?」


 怖がっている七海に愛海と凛は首を傾げた。


「えっ」


 前までは、散々悪口や酷い、いたずらをしてきたのに今日は違う。七海はなんかおかしいと思ったが虐めをされるよりましだと思い言わなかった。


「そりぁ久しぶりに来たんだもん。あったんだから」


 あの事と言うと、愛海は急に怒鳴り出した。


「凛‼ そのことは言わない約束でしょ‼」

「あっ……ごっ、ごめん」


 愛海に怒鳴られ、その場でへこんでしまった。七海はあの事というのは何だろうと感じていたが今はそういうことを言わないようにした。


 昼食が終わり、休み時間が始まった。その時間、七海はあの2人に合わないようにしていた。


 窓の外を見ると、修一が男友達とサッカーをしてしゃいでいた。


 見ていると、女の子に話しかけられた。


「ねぇねぇ七海ちゃん」

「ん? 何?」

「ジョン君知らない? 会って話したいんだけど」


 話を聞いて七海はジョンが気になっている人なんだなと、思った。初登校なのにこれだけの人気なんて凄いなと感じていた。


「ごめんなさい、知らないわ」

「そう、ありがと」


 女の子は少し残念そうな顔をしながら去っていった。


 七海は屋上にでも行こうと思い屋上に行くと、誰かの声がする。


 誰かがいるなと思い、耳を壁に当てて聞いてみた。


『なぁ、いいだろ』

『別にいいけどさ、大丈夫か?』

『大丈夫だよ、ここなら問題ないし』


 声の主はジョンと幸恵の声だった。


 七海はドアの小さい窓を覗いてみた。


 見た瞬間、七海は襲撃が走った。


 見てみると幸恵は制服を肩まで脱ぎ、胸まではだけていた。


 ジョンは幸恵の首に噛みき、逃がさないようにしている

のか抱きしめていた。


 七海はその場に思わずしゃがんでしまった。


(やっぱりあの2人付き合ってるんだ)


 驚きながらも2人に気付かれないように階段を下りた。


 それからも、2時間の授業を放心状態のまま受けた。


 七海は1人っきりでいた。、オレンジ色の日差しが教室内を光らせている。帰りの準備をしていた七海はまたあの頭痛に悩まされていた。

 

 ため息をつくと扉が開いた。見ると幸恵だった。


 顔のあたりがほんわり赤くなっている、きっとジョンが何かしたのだろ。


「ジョン君とは帰らないんですか?」


 というと、幸恵は舐めていたアメを取り、日差しにかざしながら話した。


「見たでしょ? 休み時間の時、私とジョンが絡みあってるの?」


 そう聞いた途端、七海は動揺した。隠しきれないと思い白状をした。


「うん、」


 そう聞くと幸恵は椅子に座り足を組んだ。


「あいつとはちゃんと付き合ってるよ。ただこのことは言わないでね。変に恨み買われるなんてごめんだから」

「もっ、もちろんです! ただなんであんな格好を……」


 続きを言おうとした瞬間、幸恵が七海を机の上に押し倒した。突然のことで七海は驚いた。


「どっ、どうしたの?」


 驚きながらも幸恵は口元を上げながら顔を近づけた。


「言い忘れたんだけど……私バイなんだよねぇ~~」


 呑気な声でいう幸恵に七海は驚いた。


「へっ? だけどジョン君とは付き合っているって」

「それも本当だけど、どっちもいけるんだよねぇ。はは」

「っ⁉」


 七海は思わず幸恵を突き飛ばしてしまった。幸恵は思わず尻餅をついた。


「いったーーー」

「貴方おかしすぎるよ、何なのよ!」


 七海はカバンを持ち、教室を飛び出そうとした。


「じゃあさー」


 幸恵はパーカーのポケットに手を突っ込んでにんまりと笑いながら話しかけた。


 苛立ちっていたが少し気分を落ち着かせて話しかけた。


「何? 聞いてはあげるけど……」


 そういうと幸恵は近づいてきてこう言った。


「一回あってるんだけど……覚えてない?」

「えっ、何言ってる? 一回も会ったことはないよ」


 七海は再び苛立ちを見せ、早々と帰っていった。



 夕陽が沈む頃、地下で闇は猫を撫でながら読書を更けていた。


「はぁ。今日は暇だねぇ、クロ」

「にゃー」


 ため息をつきながらクロが鳴くと、階段の方から足音が響いてきた。


 ノックもなしに開けたのはきっとあの子だ。


「ただいまぁ」


 相手の顔を見るなり、闇は冷たい視線をそいつに向けた。


「お帰り……

「ちょっとー、酷いよ闇ーー」


 紗季は制服のままソファに転がり込んだ。


「おい、制服がシワになるわよ」

「大丈夫よ! 平気だもん」

「はぁ、全く」


 クロは寝転んでいる紗季の方に行き、体の上に乗った。紗季はクロを持ち上げながら起き上がり、じゃれあった。


「クローー、なんかデカくなったわね」

「まぁね、成長をしてる証拠だよ」


 ため息混じりに言いながら、本をしおりにはさみ、立ち上がって紗季の方に座り込んだ。


「ユソはどう? あいつモテてた?」

「えぇ、初日からもぅモテまくりよ」


 クロを撫でながらそういう紗季に、闇は本題に入った。


「そう……それより状況はどうあの子?」


 闇が声を低くしながら言うと、紗季は起き上がり本棚をあさり、ターゲットの写真が入っているファイルを手に取り、テーブルの上に置くと話した。


「あぁ、頭痛を起こしてる。きっと記憶がよみがえるんだよ」


 そう言い、闇の隣に座りこみ肩に寄り添った。


「へぇ、じゃあ早く消さないとね」


 ドス黒い声を出しながらファイルを手に取り、眺めた。


「うん、あとさ、依頼したいことがあるんだけど」


 可愛らしい声を出しながら、愛しいカノジョの首に腕を回した。闇は棒付きのアメを転がしながら話し始めた。


「何? あんたから依頼なんて珍しいわね。」


 紗季を見ながらそういうと


「私じゃないんだ」

「はぁ? じゃあ誰?」


 機嫌が悪そうにそういうと、紗季はキスをするかのような距離まで顔を近づけ、口を開いた。


「実は……」


 紗季が話し終わると、闇はニヤリと笑った。


「分かった、じゃあ明日から撮るよ」

「ありがとう、闇」


 悪魔と死神の笑い声が重なり合い、階段からは2人の笑い声だけが聞こえてた。


 翌朝、七海は6時半の目覚ましで起きた。起きてから制服に着替え、髪を整えてから下に降りた。


 降りると母が朝食の準備を整えていた。テーブルにはご飯が並べられている。


「おはよう、お母さん」

「おはよう七海、できているから早く食べなさい」

「はぁい」


 七海は椅子につき、箸を手に付けようとするとテレビのニュースが流れてきた。


『速報です。今日、午前5時に取り壊し計画の工場内から女性の遺体が発見されました。被害者の名前は池田愛海さん』

「えっ」


 七海は愛海と聞いた途端、箸を落としてしまった。


 テレビを見ていると、愛海の顔写真が載っていた。母親はそのテレビを見て「これ愛海ちゃんじゃない!」と驚きの声を出していたが、七海はしばらく、テレビを愕然としながら見ていた。


『警察では、指紋や靴跡がないことから捜査が難航をしています。遺体は十字架に縛られ、腹部には何回か刃物で刺した痕がありました』


 ニュースキャスターの話を聞いて七海はその話を聞いて頭がおかしくなりそうだった。


 しばらくして、七海は放心状態のまま学校に向かった。母親は送ろうかと気遣ってくれたが七海は良いと一言言っ

教室に着くと皆はあの話で持ちきりになっていた。


(凄いな、あのニュースが流れただけでこんなに)

「怖いよー、ジョン君今日一緒に帰ろー」

「えぇー、ズルいー、私と帰るのー」


 女子達はジョンに甘い言葉をかけ続けていた。七海はため息を吐きながらカバンの中身を机の中に入れようとすると、


「おはよう」


 幸恵の声を聞いた七海は昨日のことを思い出し、警戒心を強めた。


「はははは、どうしたの? そんなに顔色悪くして」


 高笑いをしながら去っていく幸恵に、なんでこんな平気そうな顔をしてるんだろうと、七海は思った。


 七海はトイレに行くため、廊下に行くと凛が泣きながら抱き着いてきた。


「七海‼ 愛海が、愛海が」


 凛は泣きながら言葉を繰り返していた。


「しっかりして、愛海ちゃん‼ 泣いてもどうにもならないよ……」


 七海は凛の背中をさすりながら語りかけた。


「やっぱり、原因よ‼ だから、だから……」

?)


 凛がそう言うと、目の前にいる女の子が血を浴びていながら泣き叫んでいる映像が頭に流れてきた。


(何、この記憶?)


 しばらく愕然としていたら、裕子がきて凛を支えながら保健室に連れて行った。


 七海は頭を支えながらよろよろとトイレに行くと、修一が隠れながらか携帯で誰かと話していた。


「なぁ、そろそろ限界なんだよ。あいつと会うの……あともぅしばらくって……なんで……分かった。ちゃんとしてくれよ」


 修一は髪をかきむしりながら携帯を乱暴に切った。


 七海はすぐに隠れ、修一が消えるのを待った。


(あいつって、誰の事だろう)


 疑問を感じながらトイレを済ませ、教室に戻った。


 しばらくして、昼食の時間が始まった。七海は1人で昼食を食べながら修一のことが気になっていた。


 後ろを向くといつも通りジョンと幸恵が仲良くご飯を食べている。昨日のことに七海は幸恵に危機感を感じていた。


(まさか……幸恵さんがあの事件を起こしたのかな)


 そう思うと、背筋が凍りそうになった。昼食が終わり、七海は早々教室を出ていき凛を探した。


 凛のクラスに行ったが凛の姿がない。


 同じクラスの子に聞いてみたら、“屋上に行く”といい、何かに怯えながら教室を出たらしい。昨日のことを思い出すと嫌な感じがし、お礼を言ってから小走りで屋上に向かった。


 屋上に着くと泣き声が聞こえてきた。


 扉を開けると凛が横でうずくまりながら、号泣していた。


「あっ、七海……ヒック……」

「ごめんね、一人になりたいのに……」

「いいよ、座って」


 凛は涙を拭きながら、座るようにすすめた後、黙ってしまった。


 七海はおどおどしながら座った。


 しばらく沈黙していたが、七海は気になっていたことを申し訳なさそうに問いかけた。


「昨日さ、なんで愛海が急に怒鳴ったの? あの事って何? 私が休んでいる間一体何があったの?」


 そう言うと、凛は涙を流しながら七海を見た。顔には怒りが混じっていた。


「はぁ? あんた何言ってんの? あの時のこと覚えてないの⁉ あんなまじかで見ていたのに? 大体愛海があんなことになったの、全部全部七海のせいじゃない!!!! あんたがあの時あんな提案さえしなければ、しなければ」


 涙を流しながら七海を怒鳴りつけ、立ち上がりドアを強く閉めた。


 凛が言ったことに理解が出来なかった。


 しばらくして、学校が終わり帰ろうとすると門のあたりに驚き人物がいた。


(凛ちゃんと……幸恵さん?)


 門のところではにこやかに話す幸恵と微笑みながら話す凛がいた。


(どうして、なんで幸恵さんと一緒なの?)


 見ていたら嫌な予感がし、後をつけてみることにした。


 ついていくと、幸恵は凛の腕を引っ張りながら裏道に行ってしまった。


 裏道は薄暗くなっていて気味が悪い。足音に気づかれないようについていくと二人は五階建てのビルに入っていた。


 入り口にはDREAM(夢)とピンクで書かれていた。


 怪しすぎて入るのを躊躇ったが、勇気を振り絞り入った。


 入ると大音量の音楽が鳴り響き、夏の暑さが顔を覆った。


(何よ……これ……)


 あまりの音に耳をふさぎ、二人を探していると、


(あっ、居た!)


 幸恵が凛に知らない男を紹介している。その男はにこやかに凛と話し終わると腰に手をまわし、階段にのぼった。


 七海はあまりの音楽の迫力に後ずさがったが、幸恵の方に目をやると幸恵は更衣室に行き、数分後に出てきた。


 ボーダー、ストライプのセーターにミニスカート、黒のタイツに黒のハイヒールを履いていた。


 学校とは大違いの格好だ。


 幸恵は知り合いのような韓国人の男に会い、男の足に絡みながら踊っていた。


 七海はその光景に耐え切れず、顔を赤らめながら外に出た。


 後は2人が出るのを待った。

 


 数分後、2人が裏道から出てきた。


 やけに凛の顔が赤い。きっと男の人になんかされたのだろうと七海は思った。


 後を再び追うと、次は人気のない所に辿り着いた。


(次は何なの?)


 イライラしながらついていくと、七海の靴紐が解けてしまった。


 「あぁ」と苛立ちながらしゃがみ込み、結び直すと、二人の姿がなくなっている。慌てて追いかけると誰か苦しそうにしている声が聞こえてきた。


 聞こえてきた声のあたりを見た。


(ひっ‼)


 幸恵が凛の首を縄で絞め殺している光景だった。


 七海は腰を抜かしそうになった。


 凛は涙を流しながら白目を向いている状態だった。


 絞めている幸恵の顔は真顔のまま恐ろしい顔をしている。


 七海は口を手で抑えながらその場にしゃがみ込んでしまった。


『あがっ、やっ、や……め……』


バタッ。


 息を絶えた凛が倒れる音がした。


 恐怖に震えながらも、足に力をこめ立ち上がり音を立てずにその場を早々下がった。


 家に帰ってから七海はすぐにベットの上に飛び込み毛布で全身をくるまった。


(やっぱり……愛海のこと殺したのは……幸恵さんなん……だ)


 さっき見た光景を思い出し再び身震いをし夜を過ごした。



 目覚まし時計が鳴り響く。目を開けるといつの間にか朝になっていた。


 七海は布団にもぐりながらいつの間にか眠ってしまったのだと思った。


 シャワーを浴びてから学校に行くことにした。


 目をこすりながら下に行くと母が電話をしながら青白い顔をしていた。


 母は私がいることに気が付くと、すぐさま電話を切ってしまった。


「どうしたの?」

「……七海、落ち着いて聞いて」


 母親の様子だと、凛のことだろうと思った。


 そして七海の予想通り、凛が遺体で発見されたと伝えられた。


(早くしないと……また犠牲者が出てしまう。修一君もいつかは……)


 そう考えると居てもたっても居られなくなり、意を決心をし、シャワーを浴び、カバンを抱え家を出た。


 学校に着くと、予想通りクラスのみんなは凛のことで持ち切りだった。


 七海は真剣な顔をしながら自分の席に座った。


 席に座ると幸恵が笑顔でこちらに向かってきた。


 七海は険しい顔で幸恵を睨んだ。


「どうしたの? そんな怖い顔をして??」


 昨日のことを思い出すと恐怖を感じたが直ぐに振り払い幸恵に向かって話しかけた。


「今日の昼休みに屋上に来てくれない? 話したいことがあるの。」


 真剣にそういうと、幸恵は呑気な声で返した。


「へっ? いいよー」


 呑気に返事を返した幸恵にイラッときたが我慢をした。


 チャイムが鳴り、皆はそれぞれ自分の席に座った。


 裕子が来て、皆の顔が険しくなった。裕子先生も顔を険しくしながら凛のことを口を重くしながら話してくれた。


 七海は話を聞きながら幸恵を見ると、幸恵は知らん顔のようにアメを転がしながら聞いていた。


 こんな人が学校に来ているなんて最悪だ。


 そして、授業が始まりながら幸恵はどういう風に何をするか悩んでいた。


 四時間が終わり、食堂室に行くといつもの二人がいない。


(きっと、幸恵がなんか話しているんだ)


 幸恵の警戒心を解かないように周りを見ながら食事をした。


 その頃、紗季はとユソと屋上で話をしていた。。


「なぁ、お前一人で大丈夫か? 手伝うぞ」


 心配そうにしているユソに紗季は笑いながら話した。

「いいよ、なんかあの子おもしろそうだし♡ あの瞳嫌いじゃないんだから」


 指をユソの胸元に突きながら話した。


 心配しながら、ユソはある事を言った。


「そんならいいけど……俺、明日あいつに呼ばれてんだけど……」

「大丈夫‼ ここ2日で証拠がめっちゃたまったんだって」

「そうか、そっちも考えないとな」

「フフ、休み時間が楽しみ~」


 紗季は微笑みながら手に持っていたものを眺めていた。


 そして、休み時間が始まり七海は深呼吸をしながら屋上へ足を踏み入れた。


 ゆっくりと扉を開くと先に紗季が棒付きのアメを舐めながら待っていた。足元には布で包んだのがった。


「やっほー、珍しいね。七海ちゃんがここに呼び出すなんて。で、何? 話って」


 幸恵はポケットに手を突っ込みながら七海の所まできた。


 七海はこっそり持ってきたボイスレコーダーをポケットの中で再生した。


 震えながらも、昨日のことをお話した。


「ねぇ、昨日の事件の話したじゃない」

「ん? まぁしたねぇ、それがどうしたの?」


 最後に七海は幸恵の顔を見つめて言い出した。


「愛海と凛を殺したの……幸恵なんでしょ」


 打ち明けると幸恵はアメを舐めているのを止めた。


 幸恵は戸惑っていたが直ぐ笑い飛ばしにした。


「なんでそうなんの?」

「見たんだよ」

「えっ?」


 七海は怒号を混じりながら叫んだ。


「つけたんですよ‼ あの時私を突き飛ばして以来あんたを警戒するようになってからね‼ 昨日の放課後あんたが凛と帰ってるから後をつけたら、あんたが…あんたが凛を……この、人殺し‼」


 途端、幸恵がアメをかじり出した。ボリボリ音を立てながら激しく食べ、棒を床に投げ捨てた。


 幸恵は顔を上げた。七海は真顔になった幸恵に怯えた。


「あんたさ、自分が言ってることわかってんの?」

「えっ?」


 幸恵は頭に人差し指を置き、ニヤリと笑い出した。


「まだ記憶、戻ってなかったんだー」

「えっ、何言ってんの?」

「もう一度自己紹介をしてあげる。本当の名前は雪村紗季です」


 紗季は薄く笑みを出しながら言うと、「はぁ、だるかった。これ」と言いながら手を洗い、両目から茶色いコンタクトを取り外し、顔を上げた。


 青と紫の目の色になっていた。


「えっ、うっ」


 紗季という名前と左右で、色が違う目を見た瞬間、頭痛が来たと思ったが頭から違う映像が流れてきた。


 それは七海が紗季に殴られる映像だった。


「あっ、」

「やっと思い出した? じゃあ、これは?」


 紗季は紙袋を七海の前に投げ出した。七海は拾い上げ中身をお開けると写真だった。


 一枚見てみると、七海は目を見開かせた。


「な……に……よ……これ」


 写っていたのは七海が美輝を虐めている写真だった。水を掛けたり、お金を取ったりしていた。あまりのことに七海は頭を押さえながらその場に座りこみ、写真を握りしめた。


 そして、記憶が次々とよみがえってきた。自分がしたこともあの2人が七海の友達なのも分かってきた。


(わ……た……しが……いじ……められ……てたんじゃ……ないの?)

「まぁ、しかないわよね。記憶が曖昧ならね」


 七海は意気消沈しながら紗季に話しかけた。


「あんた……いつから目をつけていたの?」


 震えながら答える七海に紗季はため息を付いた。


「えーとね、9月辺りね。その辺りで写真を撮ったんだよねぇ。私の恋人が♡」

「えっ、恋人?」

「まぁね、記憶は私が消したの。軽い一撃苦手なんだよねぇ、殺すのは簡単だけど。あと、あんたつけてきたってことはあのお店にも行ったんでしょ」

「……えぇ」

「言っとくけど、あんた何回か来てるからね」

「へ?」


 紗季はもう一つの袋を投げた。七海は震えながらその袋

を取り、中身を開けた。


 そこには、派手な服を着た七海が写っていた。ソファで知らない男と絡んでいるのと、男とホテルで一夜を共にしている所まであった。


「相川変わらず派手にしていましたよ。日替わりで知らない相手とホテルに向かってましたしね、あとあのお店でも色々していましたよ、凛さんには最後の夜を楽しませただけです。ははっ、まぁ立ち上がってください」


 紗季は力が抜けている七海に手を差し出した。七海は手を取りスクッと立ち上がった。


 すると、記憶からもう一つの映像がよみがえった。


 それは美輝が傷だらけのまま屋上に七海を呼び出した記憶だ。


――何? あんたから呼び出すなんて珍しい


 傷だらけの美輝を、ゴミを見るような目で見ながら屋上に上がった。


 美輝は怯えながらも、七海に話しかけた。


――あんたと最期の話があるの。


 最期の話を聞くと、七海は鼻で笑い返した。


――最期の話ぃ? ハハッ、何それ? 意味わかんない

 美輝は震えながらカッターを取り出した。

――何? カッターなんか出して?? それで私を殺そうってこと??

――違うわ

――えっ?

――こうするのよっ!


 美輝はカッターを首に当て勢いよくに切り出した。首からは血が大量に飛び出した。


 七海の顔に大量に血が付き、七海は絶叫した。


「あっ、美輝……死んだんだ」


 そうゆいうことを聞くと、紗季はフッと笑い飛ばした。


「死んだじゃなくて、あんたが殺したんだよ。手で下してはいないけど」


 その言葉を、胸が締め付けられた。


「確かに……そうですね」


 自分が犯した罪を認めながら、生気がない返事をした。


「あとさ、どうだった? 苦しかったでしょ? それがあんたらが美輝さんに与えた苦痛だよ。そんな罪は」


 紗季は足元に置いてあるものを取り出した。


「地獄に送ってあげないとね」


 紗季は何かを振り下ろした。


  バシュ


 振り下ろした同時に鈍い音が聞こえた。


 お腹から赤いものが滴り落ちる。七海はお腹を見ると切れた線があった、ジワジワ赤黒いものが地面に落ちる、痛みがひどくなってきた。


「あっ……あっ……な……に……を」


 苦しくなり、お腹を押さえながら地面に膝付いた。


 見てみると紗季はニッコリしながらオノを眺めていた。血がキラキラ光りながら滴り落ちている。


「やっ……と使えたよ~。いじめのリーダーの罪滅ぼしとしてはちょうどいいしね」


 七海は苦しくて、何も考えられなかった。


 紗季は何かを思い出したかのような口ぶりをした。


「あぁ、そうそう。死ぬ前に一言言います。私と恋人に依頼してきたのはね、」


 紗季は七海の耳元で話しかけた。


「修一さんです。貴方の好きな人です」

「 ⁉ 」


 七海は苦しいながら、驚いた。


 どういうこと、なんで? あの優しい修一君が? なんで、なんで、


 頭の中が混乱するばかりだった。


「やっ……やめっ」

「被害者がそう言っても、やめなかったのは貴方達ですよ」


 涙を流す七海にオノを大きく振りかざした。


 嫌な音が屋上で響いた。血は飛び散り足に大量にかかった。


 髪にかかっても、紗季は何度もオノを振り下ろした。バラバラになってもさらに刻み込んだ。


 紗季は髪をかき上げ、顔のない七海を見下ろし写真に収めた。


「はぁ、もぅこんなに血がついて美しい」


 紗季はオノをハンカチで拭き、オノを布に包んで、もう一つのパーカーと制服に着替えてオノを袋につめ、


 七海のポケットに手を突っ込んだ。


「ボイスレコーダーしまったって意味はないんですよ。あと持ってるのバレバレだから。バーカ」


 ボイスレコーダーをポケットにしまい、ゴミを疲労と早々その場を去った。


 やっと、依頼が終わりユソと帰宅をしていた。


「やっとおわったー」

「だけど、あれ終ってねぇぞ」

「そうだね、明日で終わりだから頑張ってねぇ」

「あぁ」


 すると、学校の上からパトカーのサイレンが鳴り響いた。


「おっ? ついに屋上のがバレたか」

「それはバレるだろ、あとそのボイスレコーダーどうすんだよ」

「あぁ、これ? もぅ必要ないし壊すよ」


 ポケットから取り出すと、地面に叩きつけ足で踏みつぶし、粉々にした。


「えーと、中身もちゃんと壊れているかなぁ」

「壊れているんじゃないか? でも、持って帰った方が良い。これで拾われたらたまったもんじゃない」

「そうだねぇ」


  紗季は破片を拾うと、2人は喋りながら夜道を歩いた。


 その頃、屋上ではライトが照らされながら辺りをブルーシートで覆い、鑑識が指紋や写真を撮っていた。


 穂香は屋上に着くと、酷すぎる血の匂いに手を押さえながら遺体を見た。


 同じく相棒の矢崎裕也は入り口のあたりでうずくまっていた。


「おい! 吐くなよ!」

「はっ、はい……うぷっ」


 そう言われたが、裕也は我慢ができず下に駆け下りてしまった。


「あぁーもぅ! 誰か被害者の名前を言って頂戴」


 穂香がそういうと、仲間の中島明一が遺体を避けながら報告した。


「名前は鈴木七海、17歳でこの学校の生徒です」

「そう。目撃者は?」

「それが、被害者は誰かをここに呼び出していたそうです」

「誰? その呼び出した人?」

「それが、分からないそうです」

「えっ? わからないの?」


 不機嫌そうに言うと、鑑識が穂香に声を掛けた。


「穂香刑事!」

「ん? 何?」


 穂香は鑑識の所に歩み寄った。


「どうしたの? なんか分かったことあったの?」


 そいうと、は死体の辺りを見回しながら、深いため息を吐いた。


「いや、それがどこをを探してもないんだよ」

「何が?」

「犯人の足跡、前の事件と同じだ」

「えっ?」

「どうなってんだか、今まで駆け付けた現場とは偉い違いだ。遺体はきっとオノみたいなもので切り裂いたんだろう。ぐちゃぐちゃになるまでな。まるで怪物が人を食らったように見えるよ」


 そいうと鑑識は帽子を取り、顔を歪ませながら白髪混じりの髪を掻きむしった。


 翌日、学校では七海や愛海と凛の話で盛り上げていた。


「だけどさ、あいつ前の担任にセクハラされたとか嘘ついて辞めさせたらしいぜ」

「あぁ、あの3人組は結構自由人だったもんね」

「逆に死んで良かったよ。今までの罰だ。ざまぁみろ」


 悪口が飛び交う中、紗季は机でスマホを片手に事件の記事を見ていた。


「ねぇねぇ、幸恵ちゃん」

「ん?」


 横を見ると、女子生徒達が紗季に声を掛けてきた。


「七海のことどう思ってた?」

「えっ? どうって、おどおどしている子だと思ってたよ」

「へぇー、私達は最悪な奴らだなって思っているんだ」

「特に男遊びが激しかったらしいわよ。他の子もね、あの七海に彼氏を何人も寝取られたらしいしね」


 クラスメイトは3人が居なくなったから悪口を言い放題だ。


 紗季は話を聞きながら呆れていた。


(休み時間もぉそろそろだな、頑張れよ、ユソ)


 数時間後、昼食が終わり、ユソはある人に呼び出された人気のない多目的室に向かった。


(本当に最悪)


 心の中で毒を吐きながら多目的室に着き、ゆっくりとノックをした。


『いいわよ、入ってきて』

「はい」


 ユソはゆっくり扉を開けた。目の前の相手はユソが来てニコリとした。


「約束通り来ましたよ……裕子先生」


 裕子はユソの前に歩み寄りユソを取り引き寄せた。


「ふふ。はぁ、やっぱり一目見た時から違う目だわ。まさに理想の男、ジョン君以外を今まで抱いた男とは違う雰囲気」


 裕子は髪ゴムと服のボタンを取り、寄り添ってきた。


「さぁ、今日からジョン君は私の奴隷よ。私を気持ちよくさせるための玩具よ。いいわね?」


 そう言い、ユソにキスをしようとすると勢いよく扉が開いた。


 裕子が振り向くと、そこには校長と教頭や生徒指導の先生がいた。


「えっ! こっ、校長!」


 裕子はすぐさま服を整え誤魔化した。


「ちっ、ちがいますよ! これは」

「どういうことですか、裕子先生! 生徒を襲うなんて許されない行為ですよ!!」


 校長に怒鳴られても、裕子は誤魔化し続けた。


「これは、悩みがあるから来てほしいと頼まれ」

「じゃあこれはどう、説明をするんですか‼」


 教頭は叫びながら、何かを床に叩きつけた。


 裕子は視線を床に落とすと、写真が散らばっていた。写っていたのは裕子が生徒をホテルに連れ込んだり、多目的室に連れ込んで行為を行っているいう写真だった。


 裕子は顔が青ざめてしまった。


「なっ、何でこの写真が」

「そんなことはこっちが聞きたい‼ 本当に愛している人ならまだしも、愛してもいなく、ただ好みなだけで生徒に手を出すなんて教師として失格ですよ!!!」


 校長はジョンを教室から出るように指示をした。


「ジョン君、ここから出なさい」

「はい」


 ユソは裕子から離れ、教室からから出た。


「生徒達に聞いたら、“強引にされて、玩具にされている”と聞きました。もぅ言い訳は言えませんよ。それから、これは先ほど保護者に数人だけですが説明いたしました。とてもお怒りでしたからね」


 裕子は絶望をし、その場に崩れ落ちた。


 ユソは学校から出る為に小走りをしていると、


「ジョン君!」


 後ろを見るとさっきの生徒指導の先生が走ってこっちに来た。


「いや、間に合ってよかったよ。昼食辺りにな、校長室に封筒があったから見たらあの写真だ。それで探したら、お前が呼び出されたって聞いたからあわてたんだ。いやー良かった」


 息を切らしながら生徒指導の先生はジョンの肩を叩いた。


「あと先生」

「ん?」


 ユソは冷めた目線を指導先生に向けた。


「今日で転校します」


 先生は驚いた顔をした。


「えっ? 数日しか立っていないぞ」

「親の仕事です。あと幸恵も転校します」


 ユソの話を再び聞いた途端、指導先生は驚いた。


「えっ! そうなのか‼ いやぁ早いもんだね」


 腰に手を当てながら指導先生は頭を掻きむしった。


「今日中なんで、早退します。短い間お世話になりました。あと、このことは他の先生に言ってくれると嬉しいです」


 ユソはそう言って、廊下を歩いた。


「あぁ、さよう……なら」


 先生はジョンの異様な態度に言葉を詰まらせた。


 その頃、修一は別の屋上で待ち合わせていた。待っていると扉からハイヒールの靴の音が響いてきた。


 扉の開く音が聞こえ振り向くと、闇は猫を撫でながらやってきた。


「どうも修一さん。どうでしたか?」


 屋上に目を向けながら話しかける闇に、修一は黙ったままだった。


「気は十分晴れましたか?」


 もう一度声を掛けると、修一はゆっくり深呼吸をし、口を開いた。


「あぁ。あのクズ共に痛い目を見せたんだから今頃地獄で反省をしているだろう」


 微笑みながら地面に向かって言い張った。


「まっ、あんたの恋人を殺した人達なのですから、死んでも仕方ありませんね」


 闇がそう言うと、修一は拳を握り始めた。


「あぁ、俺の……俺の美輝を殺したんだからな」


 一か月前、修一は教室に戻ろうとすると、階段で凛と愛海と七海が話してるのを聞いてしまった。


――ねぇ、次はどうする?


 髪をいじりながら、愛海は意地悪っぽく七海に話しかけた。


――何が―?

――美輝を虐めることよ!

――あぁ、あいつ? 存在薄くて誰だか忘れてた。


 七海がふざけたことを言うと二人は笑っていた。


 修一は憎しみが増え、闇掲示板を見て闇に頼み証拠の写真を撮っている間に美輝は自殺をはかってしまった。


 修一が悲しみに暮れる中、凛と愛海が青ざめた顔をしながら屋上で話していた。


――ねぇ、やっぱ美輝が自殺したのって私達のせいなんじゃない?


 怯えながらいう凛に、愛海は苛立ちを見せた。


――何がよ。

――だから、美輝が自殺をはかったのって私達が虐めていたから……だから……


 涙目にそういう凛に愛海は怒号を浴びせた。


――ふざけたこと言うんじゃないわよ! 体自殺をしたのってあの子の勝手でしょ!私達は関係ない! 何も悪いことはしていないわよ!


 愛海の言葉を聞いた瞬間、修一の何かが溢れだした。


「『何も悪いことはしていない』? はぁ? 散々美輝を苦しめて、挙句死んだら他人事のような口振りをしやがって。罪を逃れようとしたあの3人さえいなくなれば俺はいいんです。地獄に落ちたとしても構いません」


 復讐が終わり、修一から涙が一滴、頬に流れた。


カシャ。


 シャッターを切る音がする法を見ると、闇が片目をつぶりながらカメラを構えていた。


「何をやってるんですか?」

「ただの記念です」


 闇の言葉には嘘だと修一は見抜いた。


 呆れながら、涙をぬぐい真剣な眼差しを闇に向けた。


「……貴方は嘘を吐くのが下手ですね。もっと他の理由があるんですよね? 隠さないで言ってください」


 闇はやれやれと思い、仕方なく理由を説明をした。


「私は単に皆様の表情を撮るのが趣味なだけです。悔しい顔、絶望の顔、泣いている顔、恨みの顔、無表情で涙を流している顔を撮るのが趣味なんです。その時にその感情の霊が写ります、このカメラにね」


 カメラを持ちながら微笑みながらいう闇の顔は悪魔その

物だった。


「私はそろそろ帰ります。またのご利用をお待ちしています。さようなら」


 修一に背中を向けて去る闇に、小声で話した。


「……えぇ。さようなら。もぉ2度と行きませんから」


 声を押し殺しながら言う修一を残し、闇は出口の扉を開け、階段を下りた。


 すると、後ろから鈍い音が響いてきた。


 闇は振り返り、ドアを見つめると鼻で笑ってしまった。


「最後は愛しき彼女のもとに行く……。フフッ、あの世でお幸せに」


 闇は階段を静かに下りていった。


 修一は無のまま死んでいった。それも幸せな気持ちのまま、安らかに死んだ。



 暗闇の中、街の灯りが点々と光ひかろりが灯りながらニュースは事件のことでもちきりだった。


 テレビを見ながら闇はユソに抱きかかえられながらテレビを、見ていた。


「あの教師、死刑にならないかな」


 テレビを見ながら言った闇の方を、3人は睨みつけている。


「そういうことより、何でさっきからユソは闇に抱きついてんの? 邪魔」

「うん、甘え過ぎてムカつく」


 文句を言う3人に向かってユソは目をつぶりながら言い放った。


「良いだろ、今日は」


 闇はユソの頭に手を置いた。


「そうよ、だってあんなことされたんだから、今日は特別。あとさ、ミンスは?」


 上目遣いでいう闇にジュヌが答えた。


「あいつは店で紗季とやってる」


 文句混じりに言うジュヌに闇はやれやれと、思った。


「そうか、ならいい」


 闇は、放課後の屋上で撮った写真を眺めていた。


 修一の隣には、涙を流しながら後ろから抱き着いている美輝が写っていた。


 ため息混じりにアメを舐めようとすると、ソジュンがそのアメを取り上げた。


「ちょっ! なんで奪うのよ」

「アメを舐める前に……ユソ」


 ソジュンはユソに何かを伝えた。


「あぁ、」

「ん? うわっ!」


 ユソは闇を持ち上げ、寝室に連れて行った。


 到着すると、ベッドに投げ捨てた。


「いって、何だよいきなり」


 文句を言うと、ジフとシンがにやけながら訳を話した。


「今日血なんて吸ってないからさ、あと」

「食べてもいいよね? この前みたいに」


 そう答える2人に闇はフッと笑い見上げると、人を食う4人の目は不気味に光り、舌なめずりをした。


「分かったよ、ただし手加減よろしく」

「あぁ、それじゃあ」

「「いただきます」」


 人食い4人の手が闇に触れる。


(これは、朝まで続きそうだ)



 虐めというのは時には人を殺してしまい、やってしまった人は罪から逃れようとする。


 隠しと通せたとしても、いずれ発覚し、その家族や恋人

から恨みを買う。


 そして、殺されてしまうか、裁判を起こされて大ごとになるかもしれない。


 死んだらその人は帰ってはこない。後悔をしても遅い。死ぬまで虐めの罪を持ち続けなばならないのだから


 やはり私達にとっては虐めをしないで、平和に暮らしたほうが都合がいい。むしろその方が幸せだ。

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