第11話 妹?

 優奈の妨害から1週間が経った。未だに唯とはまともに話もできていない。


 唯は優奈と大和でガッチリと守られていた。これでは流石に進も何もできないだろう。


 何もできないのは俺も同じだった。唯は俺に気があるのは間違いなかった。顔を見ればおどおどと顔を染めるし、声をかければ絶対返事を返して優奈に怒られていた。


「あー、やりてえ」


 本音がつい声に出て周りを見回した。良かった誰も聞いてない。男が女の子に嫌われるベスト台詞だろう。それにしてもこの状態はいつまで続くのだろうか。


 進のイライラも最高潮に達しているようだった。こいつの場合は、自業自得だが。


 俺はいつものように帰ろうとした。帰り道を歩き出したら、校門前に見知った女の子がいた。ずっと会いたかった唯だった。


「あれ? 大和と優奈は?」

「いないよ、今日は……わたしだけ」

 明らかに緊張した面持ちで俺を期待の色をのせた視線で見た。


「ねえ、優衣がいいのならば、送って欲しいかな」

「いいの? 俺が送っても」


 この1週間待ち望んだ言葉だった。唯から言ってくれるとは思ってもいなかった。


 スマホの呼び出し音が鳴る。優奈からのLINEだった。


(これで少しは懲りたかな。唯を守る仕事譲ってあげる。頑張って守れよ。ちなみにあんな三文芝居やらかしたから、分かっていると思うけど、唯と大和は何もないよ。まあ言わなくても分かってるだろうけどね)


「行こうか」

 俺は手を差し出して、唯の手を握った。温かい手に少し汗を感じる。


「ごめん、緊張で汗かいたかも」

 唯は恥ずかしそうに言った。


「いや、唯の手なら興奮するからいい」


「えー、それはまた別の意味で不安だよ」


 俺が笑いながら歩いていると、進の姿が見えた。


「へえ、これは王子様のお守りですか」

 明らかに不満そうな視線を隠すこともせずに俺を見た。


「唯、いくぞ……」

「う、うん!」


 俺たちは進を無視して歩き続ける。進は通り過ぎる瞬間、驚くことを口走った。


「そう言えば唯ちゃん、妹いたっけ」 

 

 慌てて振り返る唯、俺は慌てて静止した。


「気にするな、行くぞ」

「あぁ、う、うん」

 明らかに動揺をしていた。視線が定まっていなかった。


「じゃあね」


 進は反対側に歩いて行った。これは脅しだ。実行に移すわけがない。だが、……。


 唯が不安そうな顔をしてこちらを見てくる。


「大丈夫、……だよね」


「うん、きっと大丈夫」

 

 理由はなかったが、そう言うしかなかった。


 家族まで手を出そうとしている進。こうなってくると、完全に犯罪だ。今までだって犯罪ギリギリだったと思うけども。


 目の前の夕陽が物悲しく見える。俺が唯と妹を守ってやらなければならない。それは可能なのだろうか。


「唯の妹って……、同じ学校?」

「違うの、妹は別の高校に行ってるの」


 これでは守ることはかなり難しい。進は見た目はイケメン。しかしその本当の姿は残忍だ。俺は唯の妹と話すことにした。進のことを危険だと教えなくてはならない。


「ただいま」


「おかえりー、はぁ?」


 母親の俺への視線が痛い。母親は慌てて唯を連れてキッチンに行ってしまう。


「ちょっと待っててえ」

 唯の言葉だけが後から聞こえた。


「あの子、彼氏?」

「うん、たぶん……、そうじゃないかなぁ」

「あなた、可愛いくせに男なんか全くいなかったのにねえ。それがいきなり連れてくるか」


「いや、これは色々事情が……」


「まあ、いいや、母さんは応援してるよ」


「お母さん、声おっきい」

 唯が恥ずかしそうにしてる光景が目に浮かんだ。


 暫くすると唯は解放された。

 俺は唯に連れられて二階に上がる。


「ごゆっくりー」

 下から母親の声がした。何を期待してるんだ、この親は……。他人の親であるにも関わらず心配になってくる。


 部屋の中はいかにも女の子の部屋だった。可愛いぬいぐるみがたくさん。UFOキャッチャーで取ったのがかなり多い。ベッドもピンクだ。


「クレーンゲームは妹の趣味なんだ。うまいでしょ。わたしは鈍臭いからこんなの取れないよ」

「そうなんだ、こんなにあるから驚いた」

 俺は部屋の真ん中で立ったまま話していた。


「あっ、ごめんね、ここに座って」

 ベッドを叩いて勧めた。いや、確かに裸は見たけど、そういうのは……。


「あっ、姉さん帰ったの」

 部屋に入ってきたのは姉と全く違うスポーツ少女だった。ポニーテールにしてるが、明らかに勝ち気に見えた。


「えっ?」

「えっ」


 俺の妹のイメージが崩れると共に相手の俺を敵視する視線が確定した。


「あんた、だれ?」

「えと、ごめん。言ってなく、優衣くんはわたしの……」

「姉さんは黙ってて!」

 この妹はわかってて、ここで声を上げたのが容易にわかった。唯は明らかに動揺してハラハラしていた。


「なあ、お前俺嫌いか」

「当たり前だ、母さんに何を言って取り入ったのか知らないが、お前に姉さんはやらないぞ」


 まるで娘を守る父親の台詞だった。

 このくらい活発な体育会系なら、進の誘いに乗らないかもしれない。俺は少し可能性を感じた。


―――


 話が横道にそれますねえ。どうなるんでしょうね。

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