第10話
部屋のカーテンから陽光が差し込み朝の訪れを知らせた。鳥の鳴き声が耳に届く。昨日から唯のことが心配で仕方がなかったので、何度かLINEで唯に連絡を取ったが既読にはならなかった。
なぜ、告白してくれた唯が進とホテルにいるのだ。わけがわからなかった。脅されたのだろうか。噂レベルの話ではあるが、エ○チをするため、脅されたと言う女の子の話はかなりの数にのぼっていた。
朝、かなり眠かった。心配と昨日のことが気になって一睡もできなかった。唯は昨日逃げてしまった。ホテルに入るのを見られて恥ずかしかったのか、進が怖くて逃げたのか分からなかった。
登校前に幼馴染の優奈に確認しようと隣のインターフォンを押したがもう出かけたと言うことだった。
教室に入ると明らかにイライラした進と目が合う。唯の側には優奈の姿があった。女同士で話し込んでいるようだった。
「唯、元気だった」
俺が唯に近づくと優奈がそっと唯の耳元で話すのが見える。節目がちに優奈にうんと返事をしていた。
「ごめんね、裕二」
「ううん、いいよ。俺のほうこそ昨日はごめん」
唯は俺を見て自分を見た。なんかおどおどしているように見える。
「昨日、何があったの」
「えと……」
「ごめん、唯をちょっと借りるね」
優奈が唯を連れて行ってしまった。何が起きてるんだ、休み時間残り五分くらいだけども。
「はい、ホームルームするぞ」
ギリギリに二人は戻ってきた。進の方を見ると苛立ちを募らせていた。
優奈は昨日のことを何か知ってるのだろうか。十分にある話だった。
昼休みがやってきた。唯と優奈が机を並べてご飯を食べる。そこに大和の姿もいた。
「俺も一緒に食べていいよな」
「だめ」
優奈が俺にハッキリとそう言う。
「なんでだよ、唯はいいよな、俺の彼女だしな」
「残念でした。唯は大和くんの彼女です」
優奈は驚くべきことを言う。俺は目の前の大和を見た。大和は動揺しながら、肯定した。
「どうなってんの?」
「だってあなた唯のこと信じられなかったじゃん。それに嫌気がさして大和くんに乗り換えたの」
「本当か? 唯」
「えと、その、あのさ……」
「もう、焦ったいわね。そこは肯定しないとダメでしょ」
「だってぇ」
縋るような目つきで優奈を見る。どうなってるのか意味がわからなかった。大和に取られたにしては唯の言葉がハッキリしない。
「なあ、本当に大和と付き合ったんだよな」
「えっ、う、うん」
「俺好きだって言ってくれたじゃん。なんで」
唯の瞳を見ると明らかに揺れている。
「ねえ、わたし我慢できない。こんなの……」
「だーめ、あんたは優しすぎる」
「でもぉ」
目の前の唯は、優奈と俺に視線の間を移動させた。
「あなた、唯のこと信じなかったでしょ。だからこうなってるの。わかるかな」
「だってホテルの前で会ったら」
「へえ、無理矢理襲われてても、ホテルに入ろうとしたら同意したと言うんだ」
優奈は俺をはっきり睨みつけた。
「裕二は全くわかってない。無理矢理連れていかれたら、女の子はひとりで何ができると思ってんのよ。そこはあなたが守ってやらないと駄目でしょう。だから愛想を尽かした。わかったかな」
本当にそれだけで、別れるのか。それにしては大和はあまりにもぎこちない。
「ちょっといいか」
進が俺に声をかけてきた。明らかに苛立ちがはっきりとわかる。昨日のあれを聞きたいこともあり、俺は屋上で待ち合わせをした。
購買で菓子パンとコーヒー牛乳を買って、屋上に向かう。購買のおばちゃんにまた喧嘩したのかい、と言われた。余計なお世話だ。
屋上の扉を開けると冷気と共に青空が広がっていた。今の俺には似つかわしくない光景だった。先客はもうそこにいた。
「なあ、これは一体どうなってんだよ」
進は怒りを我慢しようとせずに俺を睨んでくる。
「俺だって知らねえよ。それよりあの時、本当に唯はホテルに入るのを同意したのかよ」
進は口角を引き上げて笑みを浮かべる。残忍な色を感じた。
「当たり前だろ。じゃなきゃ、着いてくるかよ」
本当にそうなのだろうか。じゃあ、なぜこうなってるんだ。
「じゃあ、昨日なぜ唯は逃げたんだよ」
「知るかよ、どうせお前と二股かけてたのがバレて居た堪れなくなって逃げたんだろ」
進は俺を睨みつけた。
「なあ、あの幼馴染のつまんねえお遊びやめさせろよ、どうせお前が裏で手を引いてんだろ」
進は壁の方に向いて、壁を思い切り殴った。
「ふざけんなよ、唯は俺の告白受けたんだ。俺の彼女なんだよ」
進は怒りにまかせて大声を出した。
唯は俺の声が届いて別れたと言っていた。まともに別れていなかったことはこの言葉からも容易にわかる。
「あのさ、俺だって今の状況、何が起こってるのか分かってないんだけど」
「んなわけ、あるかよ。唯は昨日、確かにお前の……いや、なんでもない」
何を言おうとしたのだろうか。どちらにせよ、目の前の男が飽きてもいない女を捨てることなんてあり得ないのだ。厄介な相手の告白を受けてくれたものだ。
「本当に何も知らないんだぜ、お前と同じだ」
「どちらにせよ、あいつお前の幼馴染だろ。辞めてくれ。早川さんは進くんの彼女なんだから、と言ったらどうだ」
馬鹿なそんなことするわけないだろ。
「お前、俺が唯を狙っていいよな、と言った時、肯定的な発言したよな。そのお前がなんで俺の邪魔をするんだよ」
「うるせえな。気が変わったんだよ」
今回のことは恐らく優奈が絡んでるのは間違いなかった。状況は読めないが、唯を手放すことは俺もできない。そこははっきりさせておこうと思った。
「俺はどんなことがあっても唯をお前には渡さない」
進はベンチに座り、俺を下から睨みつけた。その表情に残忍な笑みを浮かべた。
「上等だ。なら、俺はお前から唯を奪って、再起不能になるまでぼろぼろにしてやるよ」
進は笑っていた。やばい笑い声が響く。本性がでたか、ふざけるなよ、と思った。
――――――
なんか男性二人で言い争ってますが
どうなんでしょう
読んでいただきありがとうございます。
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