第5話
「進から、唯を奪ってくれないかな」
目の前の大和が驚くべきセリフを言った。
「そんなことできるわけないだろ」
「俺がこれだけ頼んでもか。俺達は友達じゃないのか」
俺たちは屋上のベンチに座り直した。大和は親友だ。しかし、進は誰にも言えない大切な唯への想いを語ってくれた。
「ごめん、確かに大和は親友だけど、進もまたかけがえの無い友達なんだ」
「はあ? お前何言ってるの。おかしくなったのか」
目の前の大和が、俺に視線を合わせてじっと見た。当惑した表情をしていた。
「進は屋上で唯への気持ちを話してくれた。こんな俺に告白していいか、とまで聞いてきたんだ」
ここで俺は一息つく。目の前の大和は驚きで、喋ることもできないようだった。
「俺はその行動力に感動した。そして、あいつは唯の心を掴んだんだ」
告白がどれだけ大変かはわかる。俺だって子供の頃からずっと好きだった優奈に未だ告白できてないんだから。
そう言えば、俺は優奈が好きだけど、唯へのこの胸の痛みも恋心なのだろうか。
「あのさ、やっぱお前最高に馬鹿だわ」
目の前の大和は、俺の話を無視して、こっちを向いて明らかに不満そうな表情をした。
「お前、今までの話聞いてたか?」
俺は頭を抱えて非常に落胆した。親友であればわかるはずと思っていた。
「お前な、あいつが今までどれだけの女を……。あぁ、うぜえな」
大和はベンチから立ち、髪の毛を掻きむしった。正直、なににそんなにイライラしてるのか分からない。
「だから、俺は進の決断力に感心したんだよ」
「女を抱く決断力のことか?」
こいつ、なにを言ってるんだ。俺は大和の移動した方向に目を向けた。
「違うだろう。唯に告白する決断力のことだ。可愛い唯に告白するのに、どれだけ勇気がいると思ってるんだ」
「そこに愛がなければどうだ?」
すでに理解の範囲を超えている。俺は手をきつく握った。これほど人を馬鹿にした言葉はないだろう。
「愛さないと告白できない」
愛があるから人は告白する。好きでもないやつに告白なんてするかよ。
「できるさ。こう言えばいいかな。唯を抱きたいから告白した」
欲望で唯に告白した。そんなことあるわけがない。本当にそうか、喉に渇きを覚えた。ホテルで脱がせたのは欲望ではなかったのか。本心を知られた気がした。
「お前、友人でも言ってはならないことがあるぞ」
思い当たるところはあった。俺は目の前の大和から、痛いところを突かれた。
「何度でも言ってやるさ。あいつは女を気持ち良くしてくれる道具としてしか見ていない」
進は確かに悪い噂も多い。それでも唯への愛は本物だと思っていた。本当にそうなのか。
「そんなわけあるか。現に俺に先に告白することを話してくれた。俺が嫌がったら……」
「無理やり奪っただろうな」
大和の言葉に俺は強く睨んだ。
「あのさ、普通は別の男の前で脱いだと聞いて、狙おうとは思わない、抱こうとは思わないんだ。言っている意味わかるか」
目の前の大和は、俺に諭すようにゆっくりと話した。その事実を容易に理解できてしまい目の前の大和に腹を立てた。
「お前。それは進に対する暴言だぞ。本当でなければ、お前を許さないからな」
「じゃあ、俺の言ったことが本当だと分かったら、協力してくれるか?」
大和は俺の前に立ち、すがるような目で俺を見た。
「身体目当てで近づいたことが分かれば、お前は俺を助けてくれるか」
「本当であればなんでもする。そんな奴には、唯は渡せない」
「ありがとう。じゃあ、それが本当だと分かったら、俺に早川さんを譲ってくれないか。俺は早川さんと真剣につきあいたい」
唯を大和に譲る。そんな権利が俺にあるのか。頭に唯ではなく優奈の姿が浮かんだ。胸は少し小ぶりだが、背が低くてあどけなさが残る顔立ち、勝ち気だが臆病そうな顔。同時にふたりとは結婚できない、それならば。
「話が本当なら、お前が助けたことを言うよ。そして惚れさせてやる」
「放課後、お前が行ったホテルの前で集合な」
「お前、なにを……なぜホテルなんだ」
「あいつは、絶対に来るから」
結局、この日朝礼と1時間目を完全にサボった。目立たないように休憩時間中に教室に入る。席に着くと始業5分前なのに、未だに進が唯の側にいた。昼休み一緒にご飯を食べる約束をしているようだった。やはり未だに浮かない表情の唯がこちらを見て来る。視線があって、それでもその視線から目を外せなかった。
「ちょっと、なにジロジロ見つめてんのよ」
優奈の不満そうな声が上から響いた。慌てて視線を優奈に向ける。
「なんで、お前がここに……」
そうだ。休み中無視を続けた優奈が俺に話しかけて来るなんてあり得ないことだった。
「ちょっと昼休み、屋上来なさいよね」
「なんで?」
「来たら教えてあげるわ。あんたに関係する話よ」
優奈はため息をつきながら自分の席に帰っていった。昨日からなんなんだ。屋上、屋上ってさ。
◇
「授業、はじめるぞ」
3時間目の数学の教師がやってきて、黒板に板書を始めた。こいつは書いてる間は、なにも喋らない。ただ、ひたすらに書くのだ。俺は必死に書き写しながらふと考えた。
唯は俺のことが好きなのだろうか。違うのであれば、これから行うことは場違いなことになってしまう。
マジ、わかんねえわ、俺は机に頭を埋めた。
――――
これからどうなって行くのでしょうか。
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