第4話

 次の日、教室に入るとやけに騒がしかった。近くにいた奴に話しかけると、進と唯がつきあったと言うことだった。


 どうやら、夕方にLINEで唯が進に告白の返事をしたのらしいのだ。夕方と言えばファミレスを出た時間くらいかもしれない。


 そうかー、俺は思い切りため息をついた。気がつけば胸が痛かった。じんじんとした不思議な痛みだった。


 唯の席に目をやると進が楽しそうに一方的に話しかけていた。良かったな、と思った。しかし、心臓を掴むような胸の痛みはなんなんだろう。


 幼馴染の優奈と小学校の頃からずっと一緒だったせいか他の女の子を見たこともなかった。王様ゲームの一件がなければ、唯に恋をすることも……。


「恋、はあ?」


 思わず大声を出してしまう。進と付き合えたのにずっと浮かない顔をしていた唯がこっちを見てくる。ずっと唯の方を見ていた俺と目があった。何か言いたそうな感情を視線の先に感じた。まさか、俺は思わず視線を逸らした。


 昨日まで平気だったのに。進と仲良くしてるのを見ると胸が締め付けられるくらい痛かった。唯の肩までの髪が、愛らしく笑う笑顔が、大きな胸が、あどけなさが残る顔立ちが、全て愛おしい。


「うわっ」


 俺は思わず教室を飛び出した。廊下を歩いていると後ろから走ってきた大和に呼び止めた。


「ちょっと待てよ」


 今まで話しかけてこなかったので、正直嬉しかった。

 

「なんだよ」


「ちょっと、来てくれ」


 大和が俺の手を取って歩き出す。いやいや、俺にそんな趣味はないからな。心の中で呟いた。


「さぶっ」


「ここくらいしかゆっくり話せないからな」


「ゆっくり話してたらHRに遅刻するぞ」


「構うもんか」


 大和が真剣な目をして俺をみてくる。


「LINEで、付き合ってると書いたのは俺だ」


 LINE、なんの話だっけ。色々なことがありすぎて、一瞬なんのことか分からなかった。そうか、事の発端となったあのLINEか。


「なんで、お前があんなこと書くんだよ」


 今になってしまえばLINEの内容なんてどうでもいい。みんなの興味も完全に俺から離れてしまった。ただ、大和が書いたと言う事実については気になった。


「ごめんなあの日、俺はお前に嫉妬してた」


 王様ゲームで唯にして欲しいことを伝え、彼女はルール上仕方なく脱いだだけなのに。


「わからないか?」

 

 正直、昨日の流れでいまいち飲み込めないところがない訳ではなかった。


「ルールで脱いでくれたんだよ」


 大和が両腕で俺の身体を掴む。サッカー部所属の大和が本気を出せば俺の身体なんて、ポッキリと折れてしまいそうだ。


「お前は馬鹿か!」


 俺は馬鹿だ、確かにそう思う。クラスでも特別出来がいい訳でもない。それでも平均点以上は維持していてるつもりだ。


「テストの点数、そんなに悪くはないぜ」


 目の前の大和は大きくため息をついた。俺から手を離して、ベンチに腰を下ろす。


「そう言う意味じゃねえんだ、とりあえず座れよ」

 

 テストの点数のことじゃないのか。俺もベンチに腰を下ろした。空を見上げるとゆっくりと青空を雲が流れていく。驚くほど寒いけど、目の前の光景は見ていて気持ちがいい。


「おまえ、本気でわかってないのな」


「だから、唯もお前も言ってることがわかんねえんだよ」


 唯の言葉も分からない。ちょっと口をついて出た本音だった。なんで言ってしまうんだよ。こんなカッコ悪い言葉。


「昨日、唯となんかあったのか」


「なんもねえよ」


「何もねえなら、言わねえだろ」


「恋愛相談されたくらいだ」


 俺は馬鹿だった。つい本音が出た。あんな唯を見てしまったからだろうか。進良かったな、で終わるはずだった。


「おまえ、恋愛相談なんかされていたのか」


「ああ、進に告白された帰りに唯も暇だったんだろ。ファミレスで、付き合った方がいいか聞かれた?」


「で、お前はどう答えたんだ?」


「俺の客観的な意見を聞かれてると思ってさ。あいつは嫌な噂もあるけど、告白するって言ってくれたから。実はいいやつだと思って、応援したくなって。付き合った方がいいと答えた」


 大和が思い切り頭を抱えていた。


「お前、早川さんのこと本当にどうでもいいのな。裸みたいとか言っといて。脱がせたのに」


「だから、あれは王様ゲームの命令で……」


「まぢかー、お前がここまで馬鹿だとは思っていたけど、……ありえねえ」


「うるさいなあ、お前、今日俺のことディスりすぎだろ」


 確かに俺は客観的に物事を考えられないところはある。よく優奈にも空気読めないね、と言われるしな。


「唯は俺のことなんかなんとも思ってないだろ。実際、連絡先すら知らないし」


「まぢかー、本当にお前分かってねえんだな」


 一言発した後、大和がこっちを真剣な表情で見てきた。


「お前に頼みがある」


 その言葉を言ってしばらく時間が流れた。目の前の大和は、次の言葉を言うのに相当な勇気がいったように見えた。


「進から唯を奪ってくれないか。こんなこと頼める義理があるか。わかんねえ。それでも、お前しかいないんだ」


 目の前の大和は土下座でもしそうな勢いで思いっきり頭を下げた。


 俺が唯を進から奪う? なんのことだよ。意味がわかんねえ。俺は心の中で思い切り叫んだ。


――――


裕二、ぶれませんね。

どうなるんでしょうか。、


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