10話 義史の相談事<6>

「なるほどな……。まるで牡丹燈籠やな。男女は逆転しとるけど」

「牡丹灯籠って、あの怪談のやつか」

「そうそう、足繁く通う恋人の正体は……ってな。まぁ、どうやら清水しみずっちゅうんは幽霊ではなさそうやけどな。あと気になるんは歌や。数え唄っぽいけど聞いたことあれへん。まぁ、どっかの郷土歌や言われたらわからんのやけど。しかし、あのじじいが忙しいって?」

「あぁ、お前も聞くぐらいはしてるやろ? 例の事件。あれのせいでな」

「あの変死体か。テレビは持ち切りやったなぁ。なんだかいろんなおえらいさんが出てきて推理しとったわ。せやかて、じじいの出番があるとしたらもっと後のほうやろ?」

「それがなぁ、それだけじゃないねん。行方不明事件も知っとるやろ?」

「あぁ、それもあったな」

「あれでな、警察に任意で呼ばれても犯人扱いされた! 言うてうちの事務所に飛び込んでくるんが居るんや。まぁ、大方が家族やったりするんやけどな。で、警察が容疑者を絞りきれてないもんやから、そういうんがわんさかで」

「そら、ご苦労さんなこっちゃな。まぁ、じじいも頭を動かしたほうがエエからな、ちょうどエエんちゃうか」

 そう言って唐十郎とうじゅうろうは大きく伸びをし立ち上がった。

「ほいじゃ、ちょっくら行こうか」

一之瀬いちのせさんのところにか? 今は多分無理や」

「ん? なんで?」

「しばらくは俺らが通って面倒見てたんやけどな。今朝、彼女、入院したんや」

 義史よしふみのうなだれるような様子に、じっとりとした視線のまま考え込んだ唐十郎とうじゅうろう

「……どこにや?」

「それが、良くはわからなくって。今朝、皐月さつきを見送ってから訪ねたんですけど出てきてくれなくって。そしたらお隣の女性が朝早くに連れて行かれたって」

「その人がな、入院するて聞いたって言うんや」

「お隣の人に何処にですかって聞いたんですけど、それは知らないって仰って。それで、心配になって携帯にもかけてみたんですけど、出ないんです」

「下手打ったなぁ。本人が居らんのやったら事情がわからんな。義史よしふみらが早い目に病院に入れといたら良かったんや」

「だから今日行く予定やったんや。この辺はアカンから隣町まで行って、先生の知り合いの診療所に行こう思うて。二ヶ月ほど前のはじめの頃は抵抗がすごかったし、異常なくらいに嫌がってたんやけどな、最近は落ち着いてきとったし、清水しみずに診てもらいながら、他んとこでもセカンド・オピニオンしたらエエんちゃうか? いうて説得して、本人も行く気になってたっぽかったから。まさか、居なくなるとは思ってなかったしな」

「そうか。まぁ、起こってしもうたもんはしゃーない。さてこれからどうするか」

 ふぅと大きく息を吐き出した唐十郎とうじゅうろうは、とにかくアパートに行ってみようと提案し、義史よしふみが案内することになった。 

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