9話 義史の相談事<5>

「毎日来てましたけど、本人が大丈夫っていうんだから大丈夫でしょ」

 そう真一しんいちは淡々と言い放ったという。

「もう俺は、何やこいつっていうのもあったけど、何より頭にきてしもうて、『何言うてんねん、大丈夫いうてもあの様子を見たら大丈夫やないのは分かるやろ』って怒鳴ってしもうてて。そやのにあいつ、『あぁ、面倒くさい』って言いよったんや」

 真一しんいちのその言葉に義史よしふみは思わずヒートアップしてしまう。

「なんやと! お前今、自分の彼女があんな状態やのに面倒くさい言うたんか!」

「はぁ、もう何なんですか。アンタは関係ないでしょ」

「はぁ!?」

「だから、これは僕と美佳みかの問題で、アンタは関係ないでしょって言ってるんですよ。第一、さっきも言いましたけど、本人が大丈夫だ平気だというのに、僕にどうしろっていうんです」

「それでも心配して、世話してやるんが恋人やろうが!」

「心配してますよ。だから今日だって来てやったし。心配の仕方は人それぞれだと思うんですよ。アンタのやり方に沿ってないからって押し付けないでくれませんか? っていうか、もういいですか? アンタ達が居るんなら僕は居なくていいですよね。それじゃ」

 そう言って真一しんいちは心底面倒くさそうに去って行ったという。

「ホンマに、今思い出しても腹が立つ。あんなんが将来医者になるかと思うとゾッとしたわ」

「それで、その一之瀬美佳いちのせみかさんはどうなったん?」

 唐十郎とうじゅうろうの問いかけに二人は一瞬言葉に詰まりながら、椿つばきが首を横に振る。

「それが、またもとに戻ってしまって」

 椿つばき義史よしふみのどちらかの手が空いた時に様子を見に行って看病していたのだが、多田ただ達にも生活があるため四六時中一緒というわけにもいかなかった。

「一番初めのような状態ではないんやけど、ボーとしているときが多くなって何を考えとるんかわからんし、食事の量も増えてたはずが、減り始めてな」

「病院に行くことも薦めたんですけど、『大丈夫、真一しんいちさんに診てもらってるから』の一点張りで」

「俺はどうしてもその真一しんいち言うんがエエ奴やとは思えんかったからな、会わんほうがエエいうたんや」

「私もよしくんの意見に賛成で、もう会わないほうが良いって言ったんですけど。はじめの頃は本当に酷くて、ねぇ?」

「ホンマ凄かったんや。なんかのスイッチが入ったみたいにヒステリックになって、暴れてな」

「それでも根気よく様子を見ながら話してたら、暴れることはなくなったし話を聞いてくれるようになって。でも、口ではわかったって言うんですが、会っていたみたいで。私達が居る間は来ないようにしているのか、私達がかち会うことはなかったんですけど」

「会えば文句も言えるのに出来へんし、俺らでは何をどうしたらエエんかわからんようになって。先生も最近は仕事で忙しいから相談もできへん。第一こんなん誰彼構わずともいかへんやろ? それでお前を呼んだんや」

 大きく肩を落として言う義史よしふみに、唐十郎とうじゅうろうは顎に左手を添えて少しニヤつきながら頷いた。

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