7話 義史の相談事<3>

「その次のときは町中でデート中の美佳みかを見かけたんです。写真で見た通り身長も高くて爽やかそうな青年でした。一見すると普通のデートのようだったんですけど、美佳みかの様子が違いすぎてて驚きました。美佳みかは、ぽっちゃりしててハムスターみたいに可愛らしい感じだったのに、見る影もなくって。デートを目撃する前に電話で話した時に、たしかにダイエットをしているとは言ってましたけど、私にはダイエットで痩せたようには見えなかったんです」

 それですぐに椿つばき一之瀬いちのせに連絡を取り、アパートにたずねていったという。

「とにかく頬はこけて明らかに痩せたんじゃなくて、やつれているんです。私が作った食事も殆ど食べなくて。それもダイエットだからだって言うんですけど、とてもそうは見えませんでした」

 一之瀬いちのせはとにかく寝てばかりだったという。

 喋っていてもうつらうつらしてきて、すぐにベッドに横になった。

 そうして夕方になった頃、椿つばきがそろそろ帰らなくてはと思って一之瀬いちのせを起こそうとした。

「その時です。歌が聞こえてきたんです」

「歌って、一之瀬いちのせさんが早く帰ってきたら聞く言うてた?」

「同じかはわかりませんけど、でも何処から聞こえてくるのかわからず、しかも、なんというかとても綺麗な声なんですけど、感情がないというかすごく恐ろしくて。それに妙に頭に残るんです」

 そう言って、椿つばきはうろおぼえながらも歌を歌った。


 ひととせ、ひとりあらわれて。

 ふたとせ、ふたりみちをゆき。

 みとせ、みをなげしはえんじょうに。

 よとせ、よいしてししはいずりを。

 いつとせ、いつえのかかくじょうじゆし。

 むとせ、むしはどこをかつぼうせん。

 ななとせ、なしはからだをむしばみて。

 やとせ、やくやそうこつささやきよ。

 ここのとせ、こははたいしうらもなし。

 ととせ、とうとううらがれこうしはて。


「聞くところだと数え歌のようやけど、知らんな」

「私も聞いたことがなくって。不思議な歌ですし、声も聞くほどに背筋が寒くなるような美しい声だったんですが、その時は誰かがどこかで歌ってるんだろうと思いました。歌よりも美佳みかがやせ細ってやつれて行く姿のほうが心配で怖くて」

 暫くの間、椿つばきは一人悩んでいたのだが、椿つばきの様子がおかしいと思った義史よしふみがどうしたのかと聞き、椿つばきは迷った末、全てを話すことにしたのだった。

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