5話 義史の相談事<1>

「まぁ、わざわざすみません。さぁ、どうぞ」

 学生時代に出会って、卒業してすぐに結婚した二人。

 妻の椿つばきは美人で細身、小柄な、一見すれば非常にか弱そうに見える女性だったが、弁護士を目指す義史を経済面からも精神面からも支えている、いわゆる肝っ玉母さんだった。

「あれ、今日は皐月さつきちゃんは?」

「まだ学校なんです」

「学校……。あ、そうか、あれからもう四年になるんか。そりゃ、学校にも行くわな」

 皐月さつきとは二人の子供で、唐十郎とうじゅうろうは以前、自分の家に多田ただ一家が遊びに来た時に出会っている。

 一人気ままに過ごしているせいか、唐十郎とうじゅうろうは学校と言われてそんなに月日が経っていたかと改めて思った。

 客間の一室を借りることになり、荷物をほどいて一張羅からつなぎの部屋着に着替え、お土産を渡して一呼吸、唐十郎とうじゅうろうの方から切り出す。

「それで、今回呼び出したんはなんでや?」

「今回は俺も少しは関わっとるけど、どっちかっていうとつーちゃんの相談なんや」

 義史よしふみが目線を送れば、椿つばきがこくりと頷いた。

「私自身の事でというより、私の友人のことなんです」

「つーちゃんの学生時代のゼミ仲間や。まぁ、俺も少しは面識があったんやけどな」

「最近彼女の様子が本当におかしくて」

 椿つばきが言うには、その友人は「一之瀬いちのせ美佳みか」といい、誰とでも仲良くなれる、コミュ力の高い人物で、非常に社交性があり、人が嫌がることは絶対にしない為、誰にでも好かれる女性だという。

 明るく朗らかで、少しぽっちゃりとした見た目もあり、愛されるマスコットのような存在でもあったらしい。

 皐月さつきが学校に通うようになって色々落ち着いてきた時、たまたま町中で再会したという。

「卒業してから、美佳みかがこの辺りで就職しなかったというのもあって、中々会う機会もないまま疎遠になってしまっていて。本当に偶然出会ったんです。数年前に転職し、つい最近このあたりに住むようになったと言ってました。昔から美佳みかはいつでも笑顔で、疲れていてもそれをおもてに出さない子だったんですが、その日は少し疲れているように見えて、何かあったのかと聞いたんです」

 一之瀬いちのせ美佳みかという人物は非常に体が丈夫だそうで、皆がインフルエンザで倒れたときでさえ、罹患すること無く、看病をしに回るほどだったという。本人も長所といわれると「健康」と答えていたらしい。

 いつも元気でパワフルでありたいという事もあってか、自らが疲れていることを表に出し、疲れていると悟れることを嫌っていたようだ。

 だが、椿つばきが久々の再会をした時は、目の下にうっすらクマを作り、いつもの笑顔がひきつっているように見えるほど、疲労しているように見えたという。

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