4話 多田義史<2>

 顎に手をあて、どんな相談をされるんだと考え込んでいる唐十郎とうじゅうろうを上から眺めていた義史よしふみが大きなため息を吐き出す。

「しかし、唐十郎とうじゅうろう。もう少しエエ服はなかったんか?」

 義史よしふみ唐十郎とうじゅうろうの姿を上から眺めながら言えば、唐十郎とうじゅうろうは何を言っているんだという風な表情を浮かべる。

「コレが一番エエ服やけど? 久しぶりの都会やからな、結構気合い入れてきたで」

 得意げな唐十郎とうじゅうろうに、義史よしふみ片手で目を覆って肩をガックリと落とした。

「まさかのそれが一張羅とは」

 よれよれの着古した感満載のTシャツに、それは絶対ダメージ加工ではない! と言い切れるGジャン、確実に何処かのバイトの際に貰ってきただろうというポケットがたくさんついた作業着的なパンツ。

 合せ方もちぐはぐな上に、一体何処が気合い入れたのか全くわからない。 

 挙げ句に、尻まで伸びた長髪を一つに結いて、ぐちゃぐちゃと丸め無理やり野球帽の中に押し込められている。

「一体それの何処に気合い入れたんや……」

「全部、俺が持っとる中で一番新しい外出着や! 流石に出かけるんにいつも来てる普段着のつなぎを着るわけにはいかんやろ」

「……いや、絶対そっちのほうが良かったんちゃうやろか。ちぐはぐ感がハンパないで、それは」

「そうか? 結構エエと思ったんやけどなぁ」

「お前は昔からそういうの興味無さすぎやったからなぁ。そろそろちゃんとせんと嫁さんも捕まらへんで?」

「嫁ねぇ。今は必要あらへんからいらんな」

「まぁ、唐十郎とうじゅうろうの変人さについていける人やないと無理やろうけどな。しかし、そろそろ落ち着いて……」

 義史よしふみがいつものごとく小言を言い始めようとすると、唐十郎とうじゅろう義史よしふみの顔に向かって勢いよく右手を差し出した。

「ストップや。お前の小言は長いねん。それに呼び出した理由を教えてもらわんと」

「おぉ、そうやったな。とりあえず、うちに来てくれるか? あんまり外では出来へん相談やし、つーちゃんも関係しとるから」

 つーちゃんとは、義史よしふみ最愛の妻、多田椿ただつばきのこと。

椿つばきちゃんに会うんも久しぶりやなぁ。皐月さつきちゃんは元気か?」

「おう、すこぶる元気や」

 そう言って義史よしふみは、唐十郎とうじゅうろうの荷物を軽々と抱えて足早に歩き始める。

 唐十郎とうじゅうろうは近くの喫茶店に入り、話を聞きがてら休もうと思っていたが、それができないとはどんな内容なんだとますます不安になりながら、小走りで義史よしふみを追いかけた。

 駅前からしばらく、商店街を抜けた路地裏にある小さめの借家が多田ただ一家の住まい。

 本当は庭付きでもう少し大きめのところを借りたかったらしいが、二人の勤め先から遠くなってしまうのと、家賃の関係上、ここに決めたのだという。

「ただいま! 唐十郎とうじゅうろうが来たぞ」

 何を食べればそんな大きな声が出るのかというくらいに、よく通る大声で義史よしふみがいえば、家の奥からパタパタと小柄な女性が現れた。

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