3話 多田義史<1>

 私鉄二つに、新幹線、更に私鉄に乗ってようやく、友人と待ち合わせの駅に着く。

「はぁ、久々の都会やなぁ~。何年ぶりやろか?」

 大きく伸びをしながら改札を出た唐十郎とうじゅうろうは、覚えている風景との違いに少々驚いて、周りをぐるりと見渡した。

「あれ? 全然違うな」

 自分の思っていた風景と違うことに戸惑い、待ち合わせで上手く出会えずすれ違ったらどうしようかと、取り敢えず一番目立ちそうな場所に腰掛けて待ってみる。

 すると、野太く響くような声が聞こえてきた。

「おぉい! 良う来たなぁ」

 その声に顔を上げれば、ゴリラのような上背で恰幅のいい男が、大きく手を降りながら走って近づいてきていた。

 男は唐十郎とうじゅうろうが座り込んでいる場所にやってきて、唐十郎とうじゅうろうの肩を手加減なしにたたき言う。

「いや~、来てくれるとは思うとったけど、来たな」

 容赦なく頭上から浴びせられる荒い息遣いと体に訪れる振動に、出会えた安心感よりも、いい加減にしろという思いのほうが湧き出て、少々にらみつけるように見上げた唐十郎とうじゅうろう

「チケットまで手配してんねんから来い言うとるようなもんやろ」

「それでも嫌やったら、来ない選択肢をするのがお前やからな」

 にやりと笑って言い返してくる男は唐十郎とうじゅうろうの古くからの友人で、多田ただ義史よしふみといった。

 ガタイが大きく、緩慢そうに見えながらも俊敏で、脳筋に見えるが秀才型の頭脳を持つ。

 学生時分から、見た目も性格も全てが正反対の二人は、凸凹コンビと言われ、どうして何もかもが違うのに、あんなに仲が良いんだろうかと周りに噂されていた。

「まぁ、前ならなそういう事もあったかもしれんが、義史よしふみの今の勤め先やら交友関係を知ってるだけに、俺に連絡するなんてあったんかと思うやろ」

「心配してきてくれたんか」

「暇でもあったし、相談相手に事欠かん状況で俺に相談するんや、何かおもろいことでもあるんちゃうかとも思った」

「そうかぁ、そりゃ間が良かったなぁ」

 長い付き合いの義史よしふみは、唐十郎とうじゅうろうが少し視線を外して、一見飄々とした風に言うのは、ただの照れ隠しと知っている。

 自分を心配してくれたことが嬉しくなったが、それを突っ込まれるのを嫌がるということも知っているため、素知らぬふりしてを返事した。

 広場の時計が十三時を知らせて、ふと、唐十郎とうじゅうろう義史よしふみを見上げて聞く。

「ところで、義史よしふみ、今日は仕事はエエんか?」

「まかせろ、ちゃんと明日の分まで終わらせてきたで!」

 義史よしふみは、将来弁護士となるべく勉強しながら、法律事務所で使いっぱしり的ではありながら、戦力の一部として働いている。

「そうか、明日の分まで……、え? 明日の分まで?」

 義史よしふみの言葉に、一体どんな相談をされるんだと、唐十郎とうじゅうろうに一抹の不安がよぎった。 

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