2話 春日唐十郎<2>

 身支度と言っても、大きめのリュックサックに、適当に洋服等を詰め込むような身支度で、あっという間に終わらせた唐十郎とうじゅうろうは芋を全部平らげてから、家を施錠し徒歩で最寄り駅に向かう。

 以前は自転車があったものの、側溝に落ちて壊れてからは自らの足が唯一の移動手段となっていた。

 バスでもあればそれに乗るだろうが、以前まで走っていたバスは数年前に廃路になっている。

 このあたりにある「人のいる民家」には必ず一人一台と言った感じで車があり、移動手段はもっぱら自家用車。

 たまに道を自家用車が通ればヒッチハイク的に乗せてもらうこともあるが、人口の極端に少ない村であり、唐十郎が歩いている時に車が通りかかるなど非常に珍しいことであった。

 いつもは留守をお願いしているご近所さんが車を出してくれたりもするのだが、今回はあいにく運転免許を持っているご主人が腰を痛めているということで、運転ができないと申し訳無さそうに言われてしまった。

 とはいえ、唐十郎とうじゅうろうはもともと自分の足で行く気満々で、要は電車の時間に間に合えば良いのだし、何より留守の家を見てもらえるだけでありがたいと、気にしないように言って出掛けてきた。

 手紙の主は唐十郎とうじゅうろうの古くからの友人で、唐十郎とうじゅうろうの事情をよくわかっているからなのか、電車のチケットは一日後の日付の電車となっている。

「まぁ一日もあれば大丈夫やろ」

 日々の買い物もどこへ行くにも自らの足が移動手段で、自然と鍛えられたその足と体力はスタスタと目的地に向かって歩いていた。

 最寄り駅から自ら代金を払って行けば、チケットを使える駅に行くのにそんなに時間はかからない。

 唐十郎とうじゅうろうは少々考えた後、最寄り駅を通り過ぎる道を選択した。

「節約って大事やと思うねんな、うん」

 途中、道端で休みながら約半日。

 チケットを使える駅前の公園のベンチに腰をおろした。

「ええ感じについたな。想定より少し早いが、早い分には困らへんからな」

 唐十郎は最寄り駅からチケットを使う駅までの電車賃を浮かせるため、長距離移動を選んだのだ。

 自らが好き好んでやった行動とは言え、それなりに疲労はしており、やれやれと、ベンチで少しストレッチをし、コンビニでおにぎりになどを購入、それらをぺろりと平らげてから、リュックサックを枕にベンチで横になった。

「しかし、俺を呼び出すとはなぁ。かなり困っとるんやろうなぁ」

 友人は唐十郎とうじゅうろうとは違い、便利のいい中心部に住んでいて、周りにはそれなりに助けてくれる人物も多い。

 そんな中、唐十郎とうじゅうろうに助けを求めるということは、厄介な出来事に巻き込まれている証拠とも言える。

「久々やなぁ、楽しみや」

 唐十郎とうじゅうろうは大きく伸びをして、電車の時間までベンチで眠ることにした。

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