1話 春日唐十郎<1>
枯れ葉の香りがまうような秋風に冬の寒さが交じる頃。
縁側に面した庭で枯れ葉を集めて、火をつけていた男の元に一通の手紙が届く。
パチパチと枯れ葉の山の中で火の粉が踊り始めれば、煙とともにあたりはほんわと暖かくなった。
差出人のない手紙を訝しげに眺めつつ、男は棒っ切れで枯れ葉の山に少し空間を開けて空気を通す。
「うむ、いい感じやな」
男は全体的に火がまわり、一部が灰になってきて落ち着いてきた焚き火を横目にいそいそと縁側から家の中に入って、台所に無造作に置かれた野菜箱から芋を取り出した。
縁側に戻る途中で、机の上に置きっぱなしだったハサミを広げてその片刃をペーパーナイフの代わりに手紙の封を切る。
芋を抱えて庭に戻った男は、焚き火を突いて様子を見、持ってきた芋を放り込んでから、縁側に腰掛けて手紙を見始めた。
「よぅ、
手紙のはじめ、普通なら挨拶が書かれるところに、唐突に現れる生存確認。
そんな手紙に対して、歯の間から小さく息を小刻みに吐き出しながら笑っている男の名前は
「十郎」などと名前に入っているが、上には兄が二人居る、三人兄弟の末っ子である。
「なんつぅ、挨拶や。相変わらずやな」
手紙を読みつつ、焚き火の様子もチラチラと確認。まだ大丈夫そうだと、手紙を持ったまま立ち上がり、台所の冷蔵庫へと向かった。
数本入っている牛乳瓶の一本を手にとって、親指をキャップの部分に差し込み、乱暴に開封したかと思えば、そのまま口に運んで喉を上下させる。
「まぁ、お前のことや、生きてはおるやろうから心配はしとらん。実はちょっと俺の呼び出しに応えて欲しいんやけど、エエやろうか?」
「『エエやろうか? 』だと? ククク、だったら何で電車のチケットが入ってんねん。来ること前提で話とるがな」
封筒の中には、その場所に赴くために必要な電車のチケットが数枚入れられている。
「まぁ、暇しとったところや、行ってやるか」
唐十郎は封筒のチケットを手に取ると、封筒と手紙は焚き火に放り込む。
僅かな残り火が手紙を焼き尽くした後、灰を漁って芋を取り出し、あらかた消えかかっている焚き火に少し砂をかけて勢いを消した。
さらに、その辺の紙切れに焼けた芋の数個を包んで、玄関から出てバタバタと少々離れた隣家へと向かった。
隣家に住むのは、都会から移住してきた夫婦で、唐十郎が留守にする時はいつも家の管理してくれる。
このあたりは県内でも人口が非常に少ない片田舎。いわゆる限界集落だ。
この夫婦が来るまで唐十郎の近所は、家は有るが人はおらずで、留守にすれば家は荒れ放題になってしまう状況であった。
ゆえに、田舎暮らしに憧れて、この集落にやってきてくれたこの夫婦は、唐十郎にとって非常にありがたい存在。
唐十郎は芋を土産に、いつものように暫く出かける旨と、ポストの確認、庭の水やりを頼んで帰宅する。
残りの芋を縁側に置いて焚き火を完全に消したら、芋を食べつつ部屋に入り身支度をはじめた。
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