第7話 アイのまえにはエッチがある件

 まあそうしたわけで大学も一気呵成に入って自然消滅のように退学したわけだが。

 あのー……とんと色恋には縁がなかったな、うん。なんつうか、大学、しかも私立四大ではみんなお遊び遊ばれていらっしゃるようにね、お見受けしたんだけどね、意外にも学業なり部活なりバイトなりに精を出してて、ソッチ方面の精は出ているさまを見たことがなかったな、あ、でもまあ見てたら……もう! 子どもは寝てな!


 ――ハイ! 

 そういうことで無観客・無収益・無修正のわたくしの公開オナニー、本日のテーマが決まりましたわよ!


『熱傷受傷者の恋と性』!


 要するにえっちぃことについて、です。


 さてしかるに広範囲熱傷、もしくは局所でも深い熱傷を若くして負った方の恋のお悩みについてですが、残念なことにご相談を受けられるほどにはね、経験豊富でもなんでもないのです、ワタクシ。なので今宵、ひたすらワタクシの感じたこと思うことを書き連ねるだけの稿です。親切にもアナウンスすると、すでに公開オナニーは始まっているんだぜ……。


 火傷が恋の手枷足枷となっているのは紛れもなく事実であろうので、まずそちらを中心に。


 平たくいって、


「だれもあんたの火傷なんか見ちゃいない」。

「好きなひとがたまたま火傷、嫌いなひとがたまたま火傷」。


 この二項に尽きます。無論、火傷は大きなコンプレックス。覆せない。でも、コンプレックスを山ほど、背負いきれないほどいっぱい抱えて、そのコンプレックスがあなたを萎縮させていたらこの際火傷は関係ありません。

 つまり恋愛成就には、あなたが「明朗な自信家で、ウィットに富み、笑顔がステキ」みたいな? とりあえずそんなひとかどうか。簡単にいうと。


 恋愛対象の条件で「火傷の傷跡があるかどうか」を設けている人がいます。いるんです。タトゥーとか顔とか身長体重学歴年収家事育児思想の違いや性癖嗜癖。そんな人、掃いて捨てるほどいます。そんなんこっちから願い下げですよ。負け犬の遠吠えじゃなくて、酸っぱいブドウじゃなくて、あなたのことをスペックでしか見られない人は切り捨てる方が絶対幸せになります。


 つまりは火傷で傷を負ったのがあなたの外面なのか、あなたの人格なのか、です。


 火傷はあなたの中身に干渉しない。火傷はあなたの皮膚そして皮下にある組織を元通りにならないくらい傷つけたけど、あなたの人格への侵襲は、可塑性。


 賢明なる読者諸氏はお気づきのはずですね。

 この陳腐な自己啓発セミナー、全部わたしが自分に言い聞かせて生きてきた内容なんです。


 亡き妻を含む四人の方とお付き合いしました。

 うち、だれも事に至って「う、うわ……」とはなりませんでした。自慢でもなんでもなく、だれも火傷は重要視していなかった。そういった、事に及ぶからには好きあっている。ホテルなり自室なり、あなたの火傷を見て一気に萎えるとか、そんなのはなかった。


 そう気づくのが遅かったのか、あるいは時宜とか潮時というものがあったのか、わたしが初めて女性をお誘いしたのが二十歳の頃。遅い方だとは思いますが、それまでなんら自信もなくうじうじとしていた。火傷で身体ではなくメンタルに傷があったといえます。


 伝聞ですが、顔にやけどを負った女性が夜の街で「ホテル代出すからわたしを抱いて」と、自分の価値を確認された方もいたそうです。分かってほしい。お願い。どうか分かって。っていうか分かれタコ。分かるまで殴り続けるぞ。――まだ若くあって、でも自分が女として通用しなくなるという不安がどれほど怖いか。


 さらにいえば、火傷で自分の魅力が台無しにされた、と実はみんなが思ってることなんです。さっきまでわたしが主張してた内容はほんとはみんな知らない。


 しかしながらも出会いというものはなかなか訪れないもの。出会いがなきゃ試せるものも試せない。


 まあ、入院中に喫煙所とかロビーとかで知り合ってもいい。同じ悩みもあるかもしれません。あるいは同窓会とか、受傷以前の自分をしっかりと覚えてくれているひとは、意外と引かないのでこれもいいと思います。あと、なにもリアルの線だけでもない。昔からのネットの仲間、とか、意外なところにあるんです、縁って。

 だから集団の数が大きい「可能性的にイケそうな」ところに拘泥しなくてもいいのかな、と思います。それこそ大学とか。


 ただ、危険を伴う出会い方はやめてね。STDや妊娠、拉致監禁etc。「こんな姿の自分の命なんかどうせ」と思うのは自由。ああ自由だとも。そこでメチャクチャ傷つけられて人格侵襲的な思いして、つまり自分を傷つけて自分を愛さない、そんな不幸におちいらないで。あまりにももったいないじゃないですか。より幸多きひととなり善意の出会いも増え、せっかくの未来のパートナーに今からサヨナラするの、わたしはいやです。


 ――で、まあ、わたしが脱いだ時は「腕とか見てるから想像ついた」と何ともあっさりとした反応でした。


 ただ。

「向精神薬、とくに新しい世代の抗うつ薬はあまりにも下半身に響く」。

 なんということでしょう、精神科で出してもらっている薬が、その、あー、ねえ?

 

 そうこうしているうちにこの稿も終わりです。

 続きを書くべきかどうか。それから、書きたいこと、書かねばならないことの峻別作業もあります。ついでにこのエッセイの本義本来も見直しましょうか。


 では、みなさまの恋が実りますように。――この第7話、なぜこのタイトルにしたかというと、わたしが書いてる『胸糞(仮)』という小説の胸糞部分を抽出したりして用いているからです。もし本になったら読んで! 落選したらそこらへんに載せるとおもうから同じく読んで! 

 以上、宣伝でした。よい夜を。

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