ヨクボウのオモサ

超新星 小石

第1話 ヨクボウとイノチ

 魔法学院の初等生の頃、魔法倫理学の時間に少し不思議な授業をやった。


 一枚の真っ白な紙をわたされてそこに自分のやりたいことや欲しいものを思いつく限り書くというものだ。


 俺は羽ペンを走らせ、とにかく書いた。


 食べたいものや欲しいもの。


 行ってみたい場所や乗ってみたい乗り物。


 飼ってみたい魔物や会ってみたい人。


 それに、使ってみたい魔法も。


 先生が終わりを告げる頃には、白紙だった紙は細かい文字でびっしりと埋まっていた。


「いまみんなが書いたことはみんなが生きる理由です。人はご飯が食べたいとか眠りたいとか、そういった気持ちだけで生きているわけではありません。その人だけの夢や希望を叶えようとすることで前向きに生きていくことができるんです。みんなも、そこに書いたたくさんの願いを叶えるためにがんばりましょうね!」


 先生は授業の終わりにそう締めくくった。


 休み時間に仲のいい友達同士で見せあいっこをすることになったが、みんな数行程度しか書いておらず、びっしりと書き込んでいたのは俺だけだった。


「わー、リオンくんすごーい!」

「ぎゃははは! リオンは欲深だなー!」


 なんて、クラスの女子やお調子者にからかわれたりもした。


「そうかな……」


 俺は納得できなかった。からかわれたことがじゃない。自分が欲深であるということに対してだ。


 だって俺の生きる意味は、たった紙ぺら一枚に収まってしまう程度だと思ったから。


 先生はこの紙に書かれたことは自分の生きる意味だといった。


 てことは、ここに書かれていることは俺の命そのものなんじゃないだろうか。


 あまりにも薄くて軽くて頼りないこの紙が俺の命……。


 俺はその日、自分の欲望(いのち)の重さを知った――――。


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