戻る筈の無かった現実
光が消え目を開けたそこには見慣れた街並みが広がっていた。
ここは、津雲市か!?
戻って来れた嬉しさとここで何かが起こるという不安。
それにしたって動かなければどうしようもない。
辺りは住宅街で、目の前のT字路に花束が添えられてるのが目に入った。
そうか、ここは私が死んだ場所か。
花束を見て思い出した、私はあの日それまで働いてたブラック企業を辞めて、自宅の近所にある昔からのゲーム仲間の今泉さんがやってる本屋で働く為の面接に行ったんだ。
その帰り道自分へのご褒美にゲームを買って浮かれてた私は、ここでその今泉さんの娘の桜ちゃんとぶつかり、両手にゲームを抱えてた私はそのままバランスを崩して頭から……まったくなんて下らない死に方なんだ。
「とりあえず、今泉さんの店に行くか」
歩き出した私の目に枯れた花束が映る。
ここでは私は死んだ存在……。
私は何となく置いてあった花束を抱えた、すると花束からコロンと何かが落ちてきた。
私を待っていたかのように落ちてきたのはコンビニ等で売ってる普通のライターだった。
線香をあげるときに誰かが忘れて行ったのだろうか。
私はライターをポケットに入れると、今泉さんの書店へ続く道へ歩き出した。
「こんにちはー」
自動ドアを開くと涼しげな風が私を迎えた。
「いらっしゃいませ……え!?」
今泉さんは私を見て信じられないものを見たかのように驚いていた、いや実際信じられないものだけども。
「君は佐藤君? いや佐藤君は死んだはず、じゃあ君は何者?」
「正真正銘佐藤です、今泉さん」
「どうして……生きてたのかい? いやそんなわけ」
「色々有りまして……」
私はfastに話したようにことのあらましを今泉さんに話した。
「生き返ってしかもこの世界が滅亡って、そんな小説やゲームみたいなことが? 信じられないが、信じるしかないようだね」
今泉さんは書店の店主というのもあってか、ファンタジー小説やライトノベルにもよく精通しており、ゲームではカステラさんというプレイヤーとして私と共に戦ってきた。
「今泉さん、桜ちゃんは? 俺が言うのもなんですが大丈夫そうですか?」
「それがあれ以降部屋に籠ったままで、佐藤君が生きてると知ればきっと出てくるよ! 良ければ会ってくれるかな?」
「勿論です」
「ありがとう! じゃあ桜の部屋に案内するね」
今泉さんの家は1階が書店で、2階に住居スペースになっている。店の奥から2階へと続く階段を登ろうとすると、以前面接で来たときには置いて無かった青色の花が飾られていた。
「今泉さん、この花は?」
「あーそれね、昨日お客さんが桜が元気になるようにって、だけど、が部屋から出てこないからここに置きっぱなし何だよね」
「そうなんですか、そのお客さんって?」
「そういえば、誰だったかな? 桜の高校の同級生かと思ったけど、にしては少し幼かった様な」
この花瓶明らかに怪しいよな。
「すみません、今から少し変なことするのですが見逃して下さい」
私はそう言うと、花瓶を持ち上げ勢いよく床に投げつけた。
「何してるの佐藤君!?」
花瓶はガシャンと音を立てて割れ、青い花はすがるように床へと根を伸ばしていった。
「やっぱりか、俺の勘もようやく冴えてきたな」
「え、え? どうなってるの佐藤君!?」
「今泉さんは桜ちゃんを連れて外へ出て下さい! 俺はこいつをどうにかします!」
「わ、わかったよ、だがくれぐれも無茶はしないでくれよ」
階段を駆け上る今泉さんを背に私はこの植物の化物と対面した。
とは言ったものの、どうするか……
花は今も蔓を伸ばし続けており、その蔓は私の腕くらいの太さがある。発生源には私の背丈程の青い花が1輪咲いていた。
額に湧いた汗を拭うと、腰からカチャという音が鳴った。
これは、あの時の……。
腰に巻かれていたのは、初めの異世界で渡されたナイフだった。
蔓は私の前でピタッと止まると、その首を上げ蔦の先端を私に向けた。蔦の先端は私を見ながら、4つに裂け大きく口を開いた。
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