救いたい人の為に

 向かって鋭く飛ぶ裂けた蔦をナイフで切り裂く。


 ナイフや格闘術など習ったことのない私だったが、このナイフは不思議と振りやすく、威力も出た。


「これなら、俺でも戦える」


 だが決定打が無い、ライターは有るが相手は植物とはいえ部屋を覆うような大きさだ大きさだ。


 何か燃料が有れば……


 私は階段を背に蔓をいなしていく、こちらへ向く攻撃自体は切って防いでいるが、部屋中を太い蔦が囲んでおり、ここから抜け出して本や紙を持ってくるのは不可能に近いだろう。


 奥の棚にも段ボールや紙の束があるが、蔓がそこへ行くのを防ぐように地面にうねっておりそれ火を着けることはおろか近付く事すら叶わない。


 いや、もしかしたらどうにか出来るかもしれない、ただここでそんな大博打に出るのは……。


「佐藤さん!? どうして……」


 声の方に振り返ると、桜色の綺麗な髪と眼をしたパジャマ姿の桜が立っていた。


「桜ちゃん! 話は後でするから早く逃げて!」


「佐藤君、僕たちは既に行き止まりに追い詰められていたんだよ、出口は全て塞がれてたよ」


「そんな……!」


 攻撃を防ぎながら、どうやったら2人を逃がせる。


「俺が攻撃を防ぐので、扉まで何とか走って下さい」


「だが、それだと佐藤君が……」


「俺には武器があるので大丈夫です、では行きますよ!」


 私は2人の先陣を切って走り、それに伴い2人も私の後ろを走りだす。


「さぁ、早く!」


 私は表に通ずる扉を開き2人を外へと促し追いかけて来た蔓を切り裂く。


 まず、外の安全確認のため今泉さんが外へと出ていく。


 続けて桜ちゃんが出ようとした時、蔓が一斉に扉へと押し寄せ、扉を完全に塞いでしまった。


「2人とも! 扉が閉まって開かないんだけど、大丈夫!?」


「はい、俺達は大丈夫ですが、扉が完全に塞がれて」


 扉を塞ぐ蔓を切りつけるも、全く刃が通らなく、むしろ反動で手が痺れてきた。


 桜ちゃんを守りながらこれを倒さないといけないのか。


「今泉さんは近所から応援を! 桜ちゃんは私の後ろに隠れてて」


「分かったよ! くれぐれも気を付けてね」


 これで賭けに出るしか無くなったって訳か。


 私はすぐさまポケットからライターを取り出し、先程思い付いた考えを実行に移す。


 ライターに火を着けると、植物としての本能か蔓は心なしか近付くのを躊躇うもすぐに攻撃を再開した。


 私はその攻撃をいなしつつライターを棚へ投げ飛ばした。


 投げたライターは紙の束の上へ乗り瞬く間に燃え上がった。


「やった!」


 蔓は何らかの方法で炎に気が付いたのだろう、ジタバタと蔓を動かし、炎を消そうとしている。


 すると、タイミング良く扉の向こうから声が聞こえた。


「開けるから少し離れてて!」


 私達が離れると、扉はブイイイインと音を立て粉が舞う、どうやらチェーンソーを借りてきたらしい。


 程なく扉と蔓が切断され、外へと出ることが可能になった。


「桜ちゃん早く出て、蔓がまた出口を塞がない内に」


 化物は炎に混乱してたが、扉の粉砕に気付き燃え盛りながらも此方へと蔓を伸ばす。


 あの化物……桜ちゃんが出ようとしたら扉を閉じたり、何か桜ちゃんを狙ってる気がするんだよな。


 私はその蔓を切り裂き、桜ちゃんを外へと押す。


「桜、早く外へ!」


「嫌! 私も残って戦う!」


 今泉さんによって桜ちゃんが外へと連れ出された事を確認すると私はかの化物へと意識を戻した。


「これで終わりだな」


 その植物の化物は燃え上がりながらその四肢を暴れ狂わせている中へ私は走って近付き、その中心、花の部分にあった青いコアらしき物に体が焼けるのも気にせずナイフを突き立てた。


 ギャアアアという断末魔と共に力尽きた化物は私へ覆い被さるように倒れた。


 これで、世界を救えたのか?


「佐藤さん!」


「桜ちゃん、これでもう大丈夫だよ」


 私は火傷でもう動きそうにない体を無理矢理動かし桜ちゃんの頭を撫でた。


「そんな事より、佐藤さんが!」


「俺は大丈夫だよ、ちょっと疲れただけだから」


「もう居なくならないでよ! 私あれからもうどうやって生きてればいのか分かんないの!」


「はは、まるで告白みたいだな」


 私は力なく笑った。


「みたい、じゃなくて告白してるの! だから絶対生きて……返事を聞かせて?」


 その顔は涙に濡れていたが、決して諦めてはいない笑顔だった。


 分かったよ、そんなに泣いてちゃ美人がもったいないよ。


 声にならない約束をして私の意識は遠くへと流れていった。

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