大停電

「急いで連絡と予備電源を起動するのじゃ!」


 fastは主電源へと向かって何かの操作をしながら叫ぶ声が遠くから聞こえた。


 私が捕まえた子供は、子供なりに事の重大さに気付いたのだろう、私の袖をギュッと掴んで離さない。


「すまない、俺が遅れたせいだ、本当にすまない」


 自分の話す声すら何処か別の場所で話しているかのようだ。


「まだ諦めるには早いのじゃ、うちが絶対何とかする」


 彼女はまだ、諦めて居ないんだ。


 私は結局。


「予備電源起動しません!」


 結局私は出会ったばかりの少女も。


「街中でパニック発生!」


 昔からの友人も。


「街には警察さっさと手配して、フェイク載せとけ、予備電源はなぜ起動出来ん?」


 ただの1人も救えない事を。


「予備電源へ繋がるコードが切られています!」


 私はチートも無い、武術も無い、無敵でも天才でも異能力者でも超能力者でも何でもない。


 ただの一般人何だよ。


「お前、何を突っ立ってるんだ?」


 背中をバンッと叩かれ、意識が戻った。顔を上げると、先ほどパソコンを見ていた男性だった。


「何をって……」


「この状況が見て分からんか?」


 周りを見てみると、誰もが世話しなく動いており、その中立ち止まって居るのは私だけだった。


「だけど、俺に出来ることなんて」


「そうやって、考えることすら放棄するのか?」


「そんなこと……!」


「じゃあ何故突っ立ってる?」


「……」


 何も言い返せない、事実私はもう諦めてしまってたんだ。


「お前になら分かるんじゃないのか? この状況でどうするべきか」


 この世界の為に今私が出来る事。


「期待してるぞ、哀れな人の子よ」


 フッと笑い、私の肩をポンッと叩く、赤く光る警報灯の中光る白髪のその後ろ姿はフッと消えた。


「fast、1つだけ試してなかったことを思い出したんだ」


「何じゃ?」


「もしかしたら、ゲームみたいにステータスとか見れるかも知れないと思って」


 私がさっきまで居たのはファンタジー世界だし、もしかしたらと思ってたんだ。


「なるほどの、どうせもう詰みじゃ、冥土の土産に見せるのじゃ」


『ステータス』

 そう唱えると私の目の前に、透けた電子版の様な物が現れた。


「出た!」


 安堵と驚きの入り交じった声が漏れた。


「何て書いてあるのじゃ?」


 目を見開き、作業を止めて私へ首をグイッと曲げるfast。


『ステータス』

 名前:佐藤 雄一

 年齢:22

 種族:人間

 スキル:転移

 称号:神の試練


「年齢や種族とかだな、後スキルと称号?」


 私が画面のスキルをタップすると、詳細が映る。


『転移』

 24:00に別の空間へと転移します。転移先は時空、時間、距離共に不確定です。また転移先の指定も不可能です。


 称号も同様にタップする。


『神の試練』

 神から試練を与えられた者に贈られる称号、この者の行く先には必ず厄災が訪れるだろう。その厄災を解決した暁には神からの褒美として1つだけ願いが叶えられるだろう。


 私はステータスとスキル、称号についてfastに話した。


「なるほどの、それなら1つだけ方法があるのじゃ」


「何だ? 教えてくれ!」


「この世界は一旦諦めて次の世界を救うのじゃ」


「なっ」


「落ち着くのじゃ、一旦と言ったじゃろ、うちの予想じゃと、お主が来なければ世界は助かるはずじゃ、なら願いをお主が死ぬ前に戻ることにして、こっちへ来ない様にすればいいのじゃ」


「けど、俺は死んだ時の事を覚えてないぞ?」


「それなら大丈夫じゃ、他の2人から聞いとる、お主は、何とも馬鹿馬鹿しいが女子高生とぶつかった衝撃で地面に頭を打って死んだらしい」


「そんな馬鹿な」


「全くもってお前らしくて馬鹿馬鹿しいが、お主が救う世界は恐らくお主の見知った所じゃろう、うちの勘を信じるのじゃ」


「分かった、信じるよ」


 fastの勘は確かにとても優れていて、ゲームではとても頼りになったな。


「それで良いのじゃ」


「それじゃあ、行ってくるよ」


 私の周りを光が包み込み何処かへと飛ばされた。


「お主ならきっと地球も救えるじゃろう、しっかりとあやつの心の傷を無かったことにするんじゃぞ」


 いつ地球に転移すんのかは分からん、じゃがこの星に来たあやつの運命力ならきっといつか地球にたどり着くじゃろう。


「もしかしたら、もう地球かもしれんな」


 fastはクスクスと笑って、また主電源へと向き直った。

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