世界と出会い02

「あれ、さっきまであんなの有ったっけ?」


「不可視の魔法が掛かってるの、あれで魔物から街を守ってるのよ」


「魔物って言うとあれか? スライムとか、ゴブリンとか」


「そうね、ダンジョンから出てきた奴だったり、野生のモンスターだったり、色々ね」


 魔物か、やっぱり地球では無いか。


「ほら、街に入りましょ」


 城壁には出入り用の門があり、そこで検問を行うらしい。


「身分証を提示して下さい」


「彼身分証持ってないの、身分証作成お願い出来る?」


「分かりました、少々お待ち下さい」


「んじゃ、よろしくね」


 門番はエンをチラリと見やると、門の横にある小屋へと入っていく。


 結構簡単に作らせてくれるんだな。


「あなたがサトウさんですね、こちらへ」


 他の門番とは違って装飾の付いたきらびやかな鎧を着た門番が小屋の扉を開け中へ入っていく。


「まずは、エンを救ってくれた事を感謝します、エンの幼馴染みでここの指揮官のカランです」


 付いていくと先程の鎧の男カランは兜を外すと茶髪で少し癖っ毛の気さくな青年だった。


 差し出された手を握ると、そのままガッと引き寄せられた。


「この街での犯罪は必ず検挙するので、くれぐれもご安心を」


柔らかな物腰とは裏腹にドスの聞いた声で話され、息を詰まらす。


「それでは身分証発行しますね、これに手を乗せて下さい」


 置かれた水晶に手をかざすと、淡い水色に光を放った。


「……! どういう仕組みだ?」


「仕組み? さぁ、何か魔力か何かで動いてるんじゃ無いですかね? はい、こちら身分証です」


 んな雑な……。


 透明な身分証を渡され、そのまま外へと促された。


 検問所を抜け街へと入るとエンが待っててくれた。


「ルインの街へようこそ! サトウ!」


 くるりと振り返ったエンの後ろには白いレンガの街並みが広がっており、夕焼けを一身に受けて幻想的に光っていた。


「じゃあ、うちまで案内するね」


 エンに付いていくと、ギルドや武器屋の様なファンタジーらしい建物が並んでいた。


「ここら辺は冒険者の建物が多いの」


冒険者街を抜けると公園が有った。


「ここが街の中心、噴水が有って涼しいでしょ、夕方には屋台も出てるの」


 公園を真っ直ぐ抜けると、先程までの冒険者街とは違って、豪奢で閑静な住宅街があり、そこを更に進んだ先にエンの家はあった。

 その家は装飾が隅々まで施されており、周りの家と比べても明らかに大きい。


「エンって何者?」


「何者でも良いでしょ、ほら早く入りましょ」


 愕然としながら聞くもはぐらかされてしまい、エンは2人の門番の横を抜け家に入っていく。


エンに付いて行くと、広いエントランスに出た所で大勢の使用人がレッドカーペットを挟んで並んでいた。


「いや、本当に何者――」


「ほら、さっさと上がって」


「失礼します」


「じゃあ、街にいる間はいつまででも居て良いから、丁度部屋も余ってるしね」


「え、何でそこまで?」


「この街でこのまま路頭に迷われても困るの、代わりに色々手伝ってもらうけどね」


 そういう事ならありがたい、家事でも何でも喜んで引き受けよう。


「精一杯頑張らせて頂きます」


「ふふ、よろしくね、でも今日は疲れたでしょ、手伝いについては明日からトロンに教えて貰うとして、今日はゆっくり夜ご飯食べてくつろごっか」


 微笑むエンの後ろでトロンさんが食堂の扉を開けた。

 食堂へと入ると、既におしゃれなフランス料理みたいな料理が机一面に並んでいた。


「おぉ凄いな、こんなに食べられるか?」


「皆で食べるし大丈夫でしょ」


 エンが上座……俗に言う誕生日席に座ると、使用人だけでなく料理人までもが席に座り始めた。


「へぇ、使用人も同じ席で食べるのか……てっきり主人だけだと」


「基本的にはその認識で合ってますよ、ただルイン家は先代頭首、エン様のお父様の時からこのような方針というだけです」


「へぇ、そうなんですね」


「その光と剣に感謝します」


 席へ着くと、エンが指を組んだ祈りのポーズで何かを唱えた。


「何です? それ」


「食事の前のおまじない程度に考えて頂ければ大丈夫です」


「成る程、その光と剣に感謝します」


 俺を椅子に座らせたトロンはエンの後ろへ立つ。


「あれ、トロンさんは座らないんですか?」


「いくら言っても聞かないから気にせず食べちゃって」


「これが私の仕事ですので」


 律儀というか実直というか、融通が効かない人なんだな。


 口に料理を運ぶと、その味に思わず眼を見開く。


 何だこの料理は、ステーキは口に含むと肉汁溢れ、バケットは柑橘類で爽やかに味付けされ、まるで雲を食べてるみたいだ。


「……こんな美味い料理が食べれるとは」


 反対に座っていたコック服を着ている少年へ感謝の念を送る。


「あ、ありがとうございます」


 照れくさそうにはにかむ少年とクスクスと笑うエン。


「ごちそうさまでした」


 この世界初の食事に舌鼓を打って瞼も重くなってきた時。


「私はこの後出掛けるけど、サトウは休んでる?」


 突然の問いに何とか意識を戻す。


「……じゃあ、軽く街を探索しようかな」


 折角の異世界だしな、試練とやらの解き方も分からないんだ、少しは観光してもバチは当たらんだろう。


「じゃあ、少しだけどお金渡しとくわね」


「大丈夫だよ、申し訳無いし」


「その程度も出せない人間だと思われてるって事?」


「違う違う!」


「じゃあ貰ってくれるよね?」


「分かった分かった、ありがたく頂くよ」


 諦めて手を挙げると、エンは席を立ち何処かへ行く。


「これぐらいあれば大丈夫よね?」


 戻ってきたエンの手の中に有ったのは、袋から顔を覗く金色の硬貨だった。


「ここでは金貨がメジャーな硬貨なの?」


 日本でも昔は使ってたけど、普通高価な物だよね……?


「エン様、それではほとんどの店でお釣りが出せません、銀貨にしてください」


「そういえばそうだったわね」


 トロンの手から銀貨が数枚渡された。


「ありがとうございます……ただ、何で見ず知らずの私にここまで、助けたと言ってもほとんど何もしてないようなものなのに 」


「私はね、この街に来た人には何不自由無く幸せに生きてて欲しいのよ」


 少し寂しげに微笑むエン。


「じゃあ、私は出掛けて来るから、遅くならないで帰ってくるのよ」


 エンは扉をパタリと閉めさっさと出掛けて行ってしまった。


「……俺も行きますかね」


 エンが出て数分後、俺も街へと出掛けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る