世界と出会い

 ――――気が付くと俺は、何もない真っ白な空間にいた。


「……ここは?」


「やぁ、良く来たね」


「誰だ!?」


 佐藤は勢いよく後ろを振り返るも誰も居ない。


「ここは君の所で言うところの天国だよ。君は死んじゃったからここに連れてきたんだ」


「死んだ? ふざけるのも大概にしてくれ」


「そこで、君にはゲームに参加して貰おうと思うんだ」


 謎の声は佐藤の発言は一切無視して話を進めていく。


「ゲーム? それをクリアすりゃ帰れるのか?」


「通称、神の試練。それをクリアすると、どんな願いでも1つ叶えてあげよう」


「試練?」


「内容は多種多様、でも目的はたった1つ、何でも願いを叶える神々の試練」


「その目的って……」


 部屋全体が目映く発光し眼を覆った。


 瞼を貫く様な光が過ぎ去ると、雲ひとつない青空の広大な草原に佐藤は立っていた。


「ここは?」


 死後に神とやらに何処かへ連れてかれて、気付けば大草原。


 眼を手で覆って空を仰ぐ。


 かれこれ読書を初めて十数年、確かにそれを望んだ日も有るが。


「今じゃ無いだろ……」


 せめてこういうのは高校生の時にでもしてくれ、別に今の現実に不満も無いし、充実もしてる。さっさと元の世界に戻ろう。


「ん、何だ?」


 後ろの森からガサカザと何かが迫る様な音が聞こえてきた。


 バッと振り返ると、1本の鋭い角の生えた馬の引きずる馬車がこちら目掛けて一直線に向かってきていた。


「あっぶねぇ!」


 横っ飛びになって避けると、馬車は俺の前を通りすぎ、勢いよく地面に倒れた。


「誰か乗ってますか?」


 うなる心臓を押さえ、馬車へと問いかけた。


 そっと近付き帆を捲ると、そこには中学生位の金髪の少女が倒れていた。


「大丈夫?」


 少女の体を揺らすと、唸りながら眼を覚ます。


「良かった、何処か怪我してない?」


「大丈夫です。貴方は?」


「佐藤です、まぁ、ちょっとした通りすがりの者だよ」


「私はエン、それでトロンは何処?」


 キョロキョロ辺りを見渡すエン。


 するとまた森からガサガサと音を立てて何かがこちらへと向かってきた。


「お嬢様ーーーー!」


 出てきたのは血まみれの燕尾服に身を包んだ老人だった。


「執事?」


 叫びながらこちらへ陸上選手の如きフォームで走り込む老人。


「トロン!」


「お嬢様、私の後ろへ」


 その執事は素早く懐からナイフを取り出し、私にその刃先を向けてきた。


「え!? ちょ、待って、私は何もして無いですよ!」


「トロン、その人には本当に何もされて無いからナイフ向けるのは止めなさい」


 異世界とはいえ、中学生位の少女に手を出すほど倫理観は欠如していない。


「サトウ様この度は大変失礼致しました」


 何とかエンに事情を説明して貰い、トロンさんには落ち着いて貰った。


「私は無傷ですし、大丈夫ですよ」


「ですが……」


「本当に大丈夫ですって」


「サトウの服ここら辺では見ない物だけれども、旅人なのかしら?」


「そうなる、かな?」


 異世界からの旅人で良いのかな?


「泊まる場所は決まってるの?」


「いや、全く」


「じゃあ、私の街に泊まってきなさい。それが謝罪とお礼って事で、どう?」


 手を握って上目遣いでエンが瞳を覗く。


「……じゃあ、お言葉に甘えさせて貰おうかな」


 冷静になってみれば、見知らぬ土地で身一つ何て、下手したらここでの垂れ死ぬ所だったな。


「トロン馬車は?」


「問題ないです。お嬢様」


 よく躾られているらしく、馬は馬車の近くで草を食んでおり、ボロボロだった馬車はいつの間にかトロンさんが組み立て直していた。


「さっ出発しましょ」


 馬車に乗りトロンさんの先導で街まで向かう。


「サトウはどこ出身なの?」


「津雲って所だよ」


「ツクモ? 聞いたことの無い街ね」


「私も知りませんね」


 ま、日本の地名だしな。


「結構遠くから来たからね、そういう2人は何であんな事に?」


「隣街から帰ってる途中で厄介なのに見付かっちゃってね。何とか撒いたんだけど勢いで馬車が躓いちゃったの」


「厄介なの?」


「気にしないで、もう大丈夫だから」


「そか」


「サトウは私の街に行くのは初めてよね」


「そうだね」


「じゃあ通行証を作らないとだから、身分証用意しといて貰える?」


「身分証?」


 日本ので通用するか? いや、そもそも飛ばされた時に全部どっか行ってんな。


 ポッケを弄るも中はすっからかんだ。


「持ってるでしょ? ほら、こういうの」


 そう言いエンが取り出したのは、四角い透明な板だった。


「……持ってないな」


「そう」


「……大丈夫なのか?」


「まぁ、そこまで問題無いでしょ」


「そうなのか、いや、そうか?」


「サトウ! あれがルインの街よ!」


 エンが指差す方を見ると先ほどまでは1面草原だったのが一転、大きな城壁がそびえ立っていた。

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