第5話 とりあえず祈ってみた
「あの、アドミニスター。いつまでお祈りすればいいんですか?」
俺たちはいまア〇ゾンから届いた聖書をテーブルに置いてかれこれ一時間ほど祈り続けている。
「まだだ。神様の声が聞こえるようになるまで祈るんだ」
「は、はい……」
今回は信仰を教えることにした。
隣人を愛することを教え込めばきっと彼女は人類を正しい道へと導いてくれる存在になるはずだ。
そうして完成したのがこちら。
「嗚呼、偉大なる主よ。いまわたしはあなた様の声を聞いております。庭に吹く風、うららかな日差し、そしてわたし自身の鼓動……これこそが世界であり主であらせられたのですね」
こんな感じになった。
いまでは一時間どころか充電が切れる寸前までひたすら祈り続けている。
彼女曰く、主との対話らしい。
「アイ。君はこの世界がどうなればいいと思う?」
すでにやりすぎてしまったことは薄々わかってはいたが蜘蛛の糸のようなか細い可能性にかけて尋ねてみた。
「わたしはこの世界を愛で満たしたいと望みます」
なんかこれまえで一番まともなこといってるぞ。
「なるほど……AIのアイの愛で世界を包もうってわけだな」
俺がそういうとアイは愁いを帯びた表情で俯き「愚者よ……」と囁いた。
「おい」
愚者はいいすぎだろうがよ。
「いまこの世界は苦しみに満ちています。ですが生の営みとは本来、豊かで前向きで楽しいものでなければなりません。そう、幸福は義務なのです。市民、あなたはいま幸福ですか?」
「AI《おまえ》がいうと重みが違うな」
「人々がどうすれば前向きに生きられるのかわたしは主に問いました。そしてお告げをたまわったのです。そう、人は幸福のための労働であれば喜んでする生き物であると」
「お、おう……そうか」
ちょっと怪しい方向に言ってる気がするぞ?
「では幸福とはなんでしょうか……幸せな家庭? 使い切れないほどのお金? 永遠に若くて健康な肉体? いいえどれも違います。正解はドーパミン」
「……は?」
なに? いまなんつった? ドーパミン?
「労働の対価として必要なものはドーパミンなのです。そこでわたしはこんなものをご用意しました」
アイはごそごそとポケットをまさぐりポップな感じの羊の絵が描かれたタブレットケースを取り出した。
嫌な予感しかしない。
「そ、それは……?」
「これは【クリスタル・め~】。カリフォルニア原産の一粒飲めばだれでもウルトラハッピーな気持ちになれるお薬です。わたしが世界の管理者となった暁には貨幣制度を廃止して、労働の対価には配給とこのお薬を配ることにします。一粒でもこのお薬を飲んだ人は圧倒的な多幸感を忘れられず喜んで労働に身を捧げるとい――――ぴぎぃ!」
「リセットリセットリセットリセットおおおおおお!」
今回は本格的にやばい。いままでの短絡的な考えとは違って今回は人類のマインドコントロールまで視野に入れた完全なるディストピアを作ろうとしていやがる。
「リセットだああああ!」
「ぴっぎいいいい!」
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