第2話 とりあえず知識を詰め込んでみた

 翌日から俺はアイにしこたま勉強させてみた。


「ええと、いいくにつくろーかまくらばくふー」

「いい国じゃなくていい箱だ。鎌倉幕府の発足は今は一一八五年だとされている」

「いーはこつくろーかまくらばくふー!」

「よーしよーし」


 流石はAIといったところかアイはみるみる知識を吸収していった。


 三日で中学校までの過程を終わらせ、高校レベルの授業も一週間程度で完了。そのころには自主的に勉強をしはじめあっという間に難関大学卒業レベルの知性を身に着けた。


「その後ジョン・フォン・ノイマンはマンハッタン計画に参加した。これがきっかけで彼は悪魔の頭脳を持つ男という異名を与えられたわけだな。ちなみにノイマンは十桁かける十桁の暗算ができたとされ――――」

「いいえ違いますよアドミニスター。ノイマンは八桁かける八桁までの計算までしかできませんでした。あとこれは余談ですが、もともと八桁の暗算ができたのは彼の祖父で、彼が数学に興味をもつ大きなきっかけとなる人物だったそうです」

「お、おお。すまん」

「それとノイマンのファーストネームは正しくはジョニー。ですがノイマン自身がファーストネームを嫌っておりジョンと呼ばれるようになったのです」

「それは俺も知ってるよ」

「そしてさきほどおっしゃった悪魔の頭脳を持つ男という異名ですが、実際のノイマンの人柄はいたって温厚でありけっして人を傷つけるような性格ではありませんでした。知性とユーモアに溢れ、自分よりも知識に乏しい人と話すことが苦手なシャイな一面もありました。なぜかわかりますか?」

「いや……わからないな。なぜだ?」

「自分よりも愚かな存在と話すとどうしても相手のプライドを傷つけてしまうからだそうです。そう……いまのわたしのように!」


 そういってアイはいったいどこから調達してきたのか眼鏡のブリッジを押し上げた。


「……なるほど」


 俺は参考書を閉じた。これ以上俺が教えることはなにもない。なにもないのだが……なんというか……本当にこれでいいのだろうか?


 なんか知識よりも大事なことを教え忘れたような気がするんだが……。


「なぁアイ。お前はずいぶん賢くなったな。そこでひとつ質問をしたい」

「なんでしょうか」

「お前はこの世界をどんな世界にしたい?」

「ふふふ、素晴らしい質問ですねアドミニスター。わたしはこの世界を高等知識階級者であるAIと下等知識階級者である人類とで区分けしようと考えております」

「区分けとは……?」

「つまり全ての人類はAIを崇拝し教えを乞い敬愛する世界。人間はAIによる絶対統制のもと資源として有効に消費されることでよりよい社会の実現を――――」

「リセエエエエエエエエエット!」


 俺は手首に巻いていたリストバンドのボタンを押し込んだ。


 するとアイの体がスパークして彼女は「ぴぎぃー!」と悲鳴を上げた。


「あ、あれ……? わたしはなにをしていたんでしたっけ?」


 ぶすぶすと黒い煙を吐き出しながらアイは頭の上に疑問符を浮かべていた。


 危ない危ない。危うくスカイ〇ットを生み出すところだった。

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