chwech
術の解けたエムリスは、城の廊下をうろうろしながら、マルジンの行方を心配していた。部屋に戻って来たのはいいが、肝心の彼が見つからない。一体、どこへ行ってしまったのか。
「全く、あいつは……!」
王は焦燥を隠し切れずに、同じ場所を行ったり来たり、意味のないことを繰り返す。マルジンは姿を消してしまうし、おまけに――。
――みんな、死んじゃうんだよ。
マルジンの夢の話が、脳裏に焼きついて離れない。彼の言葉は重かった。ひどく、現実染みていた。
そもそも、ドルイドが夢の話をするのは、それだけで意味のあることだ。人は不思議な夢を見たとき、必ず彼らの下へ行き、夢の謎を解いてもらう。……つまり、マルジンは分かっているのだ。自らが見た、夢の意味を。それを分かった上で、ああやって話してくれたのだ。
あれは、ただの夢なのか。それとも――。
「やはり、あれは……」
――そのとき、何かが落下したような、そんな鈍い音がした。それほど遠くない、むしろ近くだ。
はすぐさま、音のした方へ走る。そこは、きれいな花が植えられた、城の美しい中庭だった。
「マルジン!!」
王は小さく安堵した。いつものドルイド衣装が、花に埋もれて見えたからだ。
「驚いたぞ。少し離れたと思ったら、いきなり消えるもんだから――」
……そこまで言って、絶句した。見知った顔は傷にまみれ、服の裾もほつれている。
「――っておまえ! 一体どうした、傷だらけではないか!」
マルジンは、弱々しく瞳を上げた。何とか気丈に振る舞おうと、必死になっているようだった。
「エムリス……」
よろよろと起き上がると、彼は王に縋りついた。力のない腕で、抱きついたように。
「……少しの間、こうしていていも、いいかい?」
「あ、ああ……」
王はしばし戸惑ったが、やがてぎこちなく腕を回し、マルジンのことを抱きしめ返した。随分と長い間、二人はそうやって寄り添っていた。
マルジンの心に、温かさが伝わった。彼は嬉しかった。ずっと、こうしていたかった。
「エムリス、僕は……」
涙が溢れそうになって、彼は思わず目を閉じる。それは複雑な感情を孕んで、薄い花びらを小さく濡らした。
「……ううん。やっぱり、何でもない」
申し訳なさそうに、彼は王から離れた。そして、寂しそうな笑みを浮かべた。
「しばらく、部屋のベッドで休むとするよ」
「おい、傷の手当は――」
「自分でするから、大丈夫。予備の薬が、あるはずだから」
マルジンは、自室に向かった。王の顔を、見ないように。
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