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開けた丘で空を見上げ、ひゅうと一つ、口笛を吹く。しばらく雲間を眺めていると、太陽の光を伴いながら、美しい大鷲がやって来た。
「どうだ、海岸の様子は」
主に報告を求められ、鷹は小さく、きぃと鳴く。こういう返事をするときは、良い知らせも悪い知らせも、何もないという証拠だった。
「そうか。平和そうで、何よりだ」
若い主は安堵して、鷹の煤けた頭を撫でる。緑に輝く彼の瞳は、深い慈愛に満ちていた。
彼の名前はエムリス・ウセディグ。数年前、「王占い」の儀式によって選ばれた、正真正銘の新王だ。
ローマ人が去ったのち、ブリタニアの権力は地方の豪族へと渡った。彼らは自らを「王」と呼ばせ、大なり小なり国をつくった。
エムリス自身、髭も生えぬ若者とは言え、王であることには変わりない。しかし、彼は「王の中の王」。各国の王の上に君臨する、ブリタニアの真の統治者だった。
涼しい風にあおられて、彼の長い髪が揺れる。それは糸のように細く、小鹿のように柔らかい、実に美しい茶色だった。
「どうだ、おまえ。やるべきことも終わったし、そろそろ狩りがしたい気分だろう」
きぃと喜ぶ鷹を見て、王の心は狩り模様になる。不安そうな部下のことなど、気にも留めないといった様子で。
「陛下、そろそろお戻りになられた方が、よろしいかと思います。このグワルフマイ、あまり遅くならないようにと、マルジン様に言われておりますので……」
「気にするな。あいつは今頃、新しい詩を作るのに必死だろうからな」
ドルイド僧・マルジン。若いながらも知識に長け、王の傍らにいることを許された、稀有の逸材。「王占い」の儀式のときに、エムリスの名を地に刻んだのも、他でもない彼だった。
「マルジン様のことですから、詩などとっくに作り終えて、暗唱まで済ませていることでしょう。ですから、狩りなどしている場合ではございません」
「まあ、そう急かすな。ほんの少しの寄り道くらい、別に何てこともない」
グワルフマイの言葉をよそに、王は馬の頭をめぐらせ、森の奥へと駆けようとする。彼の頭の中は、すでに狩りのことでいっぱいだった。
――しかし、そのとき。純白の羽根を持った鳥が、彼の視界に割り込んできた。ぷかりと宙にと浮かんだまま、頑なに道を譲ろうとしない。まるで、意思があるかのように。
それも、そのはず。次の瞬間、鳥は口を開けたかと思うと、流暢に言葉を喋り始めた。
「君の帰るべき城は、そんな森の奥にあるのかい?」
当然、王は面喰った。が、このようなことは日常茶飯事だった。
「また、おまえか……」
「悪いね。また、僕で」
エムリスにとって、それは実に、聞き慣れた声だった。そして鳥は、一陣の風を巻き起こしたかと思えば、青年の姿を取り戻していた。
滑らかな金髪に、澄んだ碧眼。ドルイド衣装の彼、その名もマルジン。
「どうせ、君のことだから、グワルフマイの言う事なんか、聞かないだろうと思ってね」
自らをドルイドと称する者は、決まって術の使い手だ。もちろん、彼も例外ではない。今までも様々な術を使ってみせ、大勢の人を驚かせてきた。
「さ、早く帰るよ。王としての責務を、しっかりと果たしてもらわないと」
ブリタニアの王と言えど、高貴なドルイドには逆らえない。さらに、彼らは不思議な魔術を心得ている。
つまり、エムリス・ウセディグは。今日も今日とて、マルジンの言う事を聞かなければならなかった。
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