第四話 ニワトリさん




「いい!女の子を泣かせるのは何があってもダメなんだから!」


「あぁ」


「それにあれ。よく見たら生徒会長でしょ!あの怖い人を怒らせて泣かせるなんて!」


「あぁ」


なぁ、俺はいつになったら解放されるんだ?

すでに35分ほど説教されているが。


「何でいつも返答が『あぁ』なの?ちゃんと聞いてるの?」


「あぁ、聞いてるぞ」


「また『あぁ』!?これはちゃんと聞いてないわね!それなら―――


理不尽が過ぎるぞ?


あぁ、説教あるある歌いたくなってきた。

脳内再生するか。


説教あるある歌いたいなぁ♪

同じことの繰り返し―――


pruprupruprupru!denwa☆


通知音………プルプルだと!?

音がスライムの音なんだが!?

この妹………!スマホにスライムでも飼っているのか………!?


「あ、ちょっと出るから馬鹿にぃは待ってて」


まぁ、そんな冗談はいい。


「え?ここに!そんなここは学校ですよ!?………私しかいない!?嘘でしょ!?

馬鹿にぃ!勝手に反省してなさい!」


大事なのはその電話のおかげで俺は説教から解放されたのだ。


ありがとう、まだ見ぬ救世主よ。

俺は次会ったら心から礼を言おう。

とりあえず二万でいいか?


「ふっ………何はともあれ。これでゆっくりできるな」


今日は疲れた。

あまり話さない葵とも話したし、目の前で苦手な生徒会長には泣かれるし、40分も説教されたからな。


「………これで家に無事に帰れば俺の勝ちだ」


だ…駄目だ まだ笑うな…

こらえるんだ…

し…しかし…


ドゴーン!!


突然爆音が響く。


「―――ッ!?」


爆発音とともに感じるこの感じは………魔力!?

くそっ!瀬場に言われていたことを忘れていた!


「まったく………一般人に被害が出ていなければいいが………」


俺は長らくいたこの場を後にするのだった。






★葵視点


「もう!何でこのタイミングなの!」


私、小緑ころく あおいは怒っていた。


「あの流れは説教を終わらせる条件として何かを馬鹿にぃに奢らせる流れでしょ!何でなの!」


馬鹿にぃとせっかくカフェに行こうと思っていたのに!

それで仲直りじゃなくてもそういう習慣をつけて……


なのに!

この世界を裏で牛耳っている者がいたら殴ってやる!


「そんなことより仕事よ。世界の平和が掛かってるんだから!」


私はAランクの魔法少女だからどんな相手でも太刀打ちできるし!


あと、エネミーのクラスと魔法少女のランクの違いは簡単。

同じランク以下のクラスのエネミーなら負けることはない。

基本的にそれだけよ。

私はすっごく、優秀なんだから。


「見つけた!今回は鳥?というよりニワトリ?何だか嫌な予感がするけど……………」


から●げクンみたいな見た目に尖ったサングラス、革ジャンを羽織っている。

微妙に可愛いのがムカつく。


「【フォルムチェンジ】!」


眩い光が私を包み、光が止む頃には私の姿は変わっていた。

元々黒髪は緑色の髪に、黒い瞳はエメラルド色に。

制服は消え、私が今着ているのは若草色のドレスだ。


「覚悟しなさい!ニワトリさん!」


『ワタクシはフェニックスよ!?あと何でニワトリなのかしら!?』


「え?………私、こう見えてもお嬢なので」


『覚悟しなさい!』(ナチュラルセレブは滅びなさい!)


「私が!?」


このニワトリさん、理不尽ね!?

まぁ、馬鹿にぃとのせっかくの時間を奪ったんだから消すけど。

骨の髄まで怯えさせた後でね。


「地獄の樹木よ!私の言うことを聞きなさい!【娑羅葬樹さらそうじゅ】!」


この痛ましいぐらいに赤黒い地獄の双樹で葬りましょう。

二度とシャバの空気を吸えると思わないことね。


『何か怖いわ!あなた!』


「そう?」


『そうよ!でも、残念ね。ワタクシの魔法は炎なの。【むらさきファイア】!』


「す、凄くダサい!?」


漢字とカタカナを同時使用した技はヤヴァイわ。

混ぜるな危険を無視してダサさという有毒ガスが発生してるわ。

センスの無さが移るから近づかないようにしましょ。


「でもね、ニワトリさん。これ、地獄の樹木だから普通の炎じゃ燃えないの」


『何ですって!?』


聞きなおすところあったかしら?


「え?もう一度言う必要あるの?」


『そうじゃ―――


ニワトリさんが言い終わるよりも早く【娑羅葬樹さらそうじゅ】が彼女?を呑み込み、閉じ込めた。


「これでよし。あとはこのまま潰すだけ」


ふふふ。私、これが終わったら馬鹿にぃに言いがかりでも付けて連れ出しましょ。

言いがかりの内容は「私に何か隠してるでしょ?」でいいか。(あながち間違っていない)


でも、私は知らなかった。

これがフラグだということに。


『融・合・完・了★』


「きゃっ!」


ニワトリさんのその言葉と共に私の【娑羅葬樹さらそうじゅ】が破裂し、その破片が私の顔をかすめる。


ツーと血が垂れるけどそれどころじゃなかった。

見惚れるような艶やかな長い黒髪にぴっちりと着こなした制服。

女の私が見てもため息が出る完成されたプロポーション。

きめ細やかな肌に美しさを体現した顔立ち。


「生徒会長!?」


とはいえ、腕にはオレンジ色の鮮やかな羽が生えている。


『これがこの女の子に融合中というハンデを無くし、完成されたワタクシの姿よ!完成されしSクラスのエネミー、舐めるんじゃないわよ!』


ニワトリさんがSクラスのエネミーとかどうでもいい。

生徒会長が憑依されているなんて!


『ワタクシをニワトリと侮辱したこと、後悔させてあげるわ!』


「というかSクラス!?」


どうでも良くなかった!

Sクラスは街がいくつか消えるレベルじゃない!


『【ヘルフレア】』


不気味な色に燃え盛る終焉。

紫色の球体の炎がゆっくりと落とされた。


「覚悟を決めるしかなさそうね。私はAランクの魔法少女なんだから!」


私が身体を張れば被害は抑えられる。

馬鹿にぃには悪いけど、私死ぬかもね。


ドゴーン!!


爆音が辺り一帯に響いた。

そう、響いたのだ。

まだニワトリさんは死期が近いのを知らない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る