第三話 ミミズは実はいい奴




「うっ……うぅ………」


生徒会長から嗚咽が漏れる。


「馬鹿にぃ?何で女の子泣かせてるの?」


「い、いや。そのだな」


あおいが仁王立ちで俺に聞いてきた。


お、俺にも分からないぞ?

急に泣き出したし。


「どんな酷いことをしたらこんなことになるの?」


「な、何もしてない!」


「悪いことをした人は皆そう言うの」


待て。それ俺が何言っても意味なくないか?

くそ!何て間が悪いんだ!

眼鏡がいたら人柱にして逃げたんだが……


「どういうことなの?」


「あ、あのだな――――


俺が言い訳を言おうとした時だった。


「はわわ!!蓮くんの前で私は何て醜態を!?」


生徒会長が正気を取り戻し、俺の冤罪が晴れるかと思われた。


―――が、現実はそう甘くないらしい。


「ぜ、ぜ、全部蓮くんが悪いんだからな!!」


「何っ!?嘘だろ!?」


そう言い残して走り去ってしまった。


「へぇ、全部馬鹿にぃが悪いんだ…」


「何故こうなった!?」


「馬鹿にぃ!!」


「は、はい!」


俺の叫びは虚しく散り、後には葵の説教だけが残った。

生徒会長許すまじ。




★生徒会長視点


れんから逃げた生徒会長は先ほどのことを思い出し、気が滅入っていた。


「うぅ………作者まで私のことをみなとと呼んでくれない……きっと皆、私のことを生徒会長と覚えているに決まっている………」


などと謎の供述をしつつ生徒会室の机に突っ伏して泣いている。

誰に言っているのか我々には分かることはないだろう。

神のみぞ知るとはよく言ったものだ。


「うっ………こういう時はアレだ!蓮くんとの思い出を思い出すしかない!」


若干ヤバい。

いや、蓮が聞いたら「頼むから半径五メートル近づかないでくれ」と言いそうな発言をしつつ、彼女にとって色褪せることのない、蓮にとっては一日で忘れた記憶を思い出した。


……………………

………


私はこの硬い雰囲気のせいか後輩たちはともかく、周りの同級生や果ては先輩方にまで委縮されてしまう。

恐らくだが、生徒会長に私が選ばれたのも「真面目そうだから」とかいう訳の分からない理由だろう。

決して私が人気のある人物ではないと自覚している。

私が男子に話しかければ背筋を正して、しどろもどろに返し、女子に話しかければ怯えたように震えて返してくるのだ。

本当に私が何をやったというのだ。


だがある時、明らかに校則違反をしている生徒を見つけた。

金色のカラコンを付け、そばに執事の服を着た男性を連れて登校してきたのだ。

何かのコスプレ会場と勘違いしているのか?

私は呆れて言葉も出なかったが生徒会長なので注意しない訳にはいかない。


「ここは学校だぞ!なぜそんな恰好なんだ!」


軽く威圧すれば態度を改めるだろうと思い、少し強めに私は注意した。

私が生徒会長だと分かっているだろうから相手は驚き、謝るだろうと思っていた。


――――だが、私に返ってきたのは予想もしない言葉だった。


「これは素の目の色であるし、こいつは俺の使用人だ。お前は何の権利があって俺に口出しをする?」


「それは私が生徒会長だからだ!金色の瞳など日本人にあるか!カラコンは校則違反だぞ!」


「生徒会長?それは随分と頭の高い名前だな。」


「名前じゃない!役職だ!」


「何?そうだったのか………!」


その少年の名は 小緑ころく れん


初対面の時は私はこの男子生徒が嫌いだった。

いくら注意しても態度を改めないし

(瀬場はこれ以降校門で別れています)、

カラコンは一週間かけて外してもらった

(黒色のカラコンを付けるようなった)

がいまだに「金色の瞳は素だ」と言うし(事実です)。


そうして毎日私が注意するうちに、口調が今と同じ敬語になった。

私を猛烈に避けるようになった。


だが、そのとき初めて私は気づいたのだ。

私に普通に話してくれる人はもういなくなったのだと。

私はそれが酷く寂しくなった。


あの時の私が聞けば必死で否定するだろうが、私は蓮くんと話すのを楽しんでいたのだ。


………………………

……………


「がぁぁぁ!思い出したら無性に自分に対して嫌悪感が沸く!なぜあの時私はもっと優しくしなかったのか!」


私は頭を掻きむしって立ち上がる。

セットした髪が崩れるがそうせずにはいられなかった。


「うぅ………私、このまま消えてしまいたい…………」


私は生徒会室の椅子の上で三角座りしながら呟く。

いつも蓮くんの前は気丈に振舞おうと思っていたのに泣いてしまったし、理不尽に蓮くんに怒ってしまったし…………


「私はもうダメだ………うじうじしてるミミズ以下なんだ………いや、これは分解者として働いてくれているミミズに失礼だ………きっと私はミミズ未満の進化の過程で敗北した時代の敗北者なんだ………」


『じゃあ、ワタクシが頂くわ』


「な、なんだ!?………ひゃう!?」


私の意識はそのまま闇に呑まれ、私は自分の主導権を失った。




「集中力を高めるには読書や瞑想がおススメですよ~」


ボクは訓練の休憩中、スペードさんに技術的なことを教えてもらっていた。


「へぇ………スペードさんは普段何を読んでるの?」


「え?はっ?わ、私ですか?」


急にどうしたんだろ?

ボクは首を傾げながらスペードさんの回答を待つ。


「おほん………私はですね。勘違いしないでくださいね?」


「うん」


可愛い………

出来ればこのままのテンションでいてほしいな………


「やっぱりオススメは『マッチョ大戦――閉ざされた筋肉繊維の秘密――』、『マッスルポーズに隠された真実』、『執事の書いた筋肉の素晴らしさについて語ったお話』ですかね……」


「へ、へぇ………」


うん、聞かなきゃ良かった。


というか最後の、作者知ってる人なんだけど?


「あ、あの!私の好みは可愛い系なので別にマッチョが一番好きというわけではなくてですね!?瀬場さんに勧められてハマったというか!」


「う、うん、分かったよ」


「ほんっとうに!勘違いしないでくださいね!」


ボクが言いたいのそこじゃないんだけどなぁ…………


ボクはスペードさんはスペードさんだなと思った。

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