第二話 星に願いを




「…………」


視線を感じる。

だが、俺は本から目を離さない。


「………」


非常に強い視線を感じる。

だが、ここでそちらに目を向けてしまえば俺の負けなので絶対にしない。

俺はこちらから話しかけてくるのを待つような奴とは話したくないからだ。


何だか癪だろ?


「…………………」


頼むからこっちを見ないでくれ!

見るなら何か話してくれ!

本の内容が入って来ないではないか!


「あの――


「何だ?」


「はひっ!」


おっと………少し食い気味だったか。

だが、相手から話しかけたのだから俺の勝ちだな。

もう一度言おう。

俺の勝ちだ。


「それで、何の用だ?」


これだけこちらを見たのだ。

それ相応の理由があるのだろう。


てか誰だ?

俺はここで初めて相手の顔を見る。


「れ、蓮くんに頼みたいことがあるのだ!き、き、来てもらおう!」


「げ………生徒会長…!頼みごとのくせに無理矢理腕を引っ張るな!こちらに拒否権がないのか!」


「ない!黙って私の言うことを聞いていろ!」


相当興奮しているのか、顔を真っ赤にして俺の腕を掴み、連れ出す長身の女性はこの学校の生徒のトップ、生徒会長様だ。

なかなか良いボディバランスだが、俺をこき使う歴代最悪(蓮視点の話です)の会長だ。

生徒から恐れられているとも聞く(これは事実)。


「眼鏡!俺を助けろ!」


「無視していいのは無視される覚悟のある奴だけだよ」


ドヤ顔で言う眼鏡。


「お前、後で、殴る」


「ワット!?あと何で片言!?」


次会ったら星にしよう。

願いを込めるのもいいかもしれない。

俺はそのまま生徒会長に連れていかれた。


「はぁ、何の用事何ですか。生徒会長」


「む、出来ればみなとと呼んでほしいと言っているだろう」


「嫌です。早く終わらせたいので要件を言ってください」


「むぅ………分かった。これを職員室に運んでほしい。よ、要件はそれだけなのだが今日……………ちゅ、昼食を、い、一緒に!」


「行ってきます」


「ぁ………」


あたふたしている生徒会長を置いて俺は書類を急いで職員室に持っていく。

これ以上の面倒事に巻き込まれるのは御免だからな。


「はぁ、それにしても何でこの俺が雑用を毎度押し付けられるのか………」


他にいるだろ。

眼鏡とか眼鏡とか眼鏡とか。


「まったく………慣れない敬語を使ったせいで肩が凝った」


「おやおや、そうおっしゃる割には彼女の指示を聞くのですね」


「………おい、瀬場。何でお前がいるんだ」


さっき別れたところだろ?

まだ一話も経ってないぞ?


まさか、忘れられるのを作者が恐れたのか?

瀬場だぞ?イケメン執事キャラだぞ?

このキャラの濃さを超える奴いるか?


………いるな。変態がいた。


「メタ発言は嫌われますよ。ほどほどにしませんと読者も勘づいてしまいます。深淵を―――


「それはどうでもいいから何の用か教えろ」


「おっと、これは失敬。どうやらエネミーがこの付近で出現したみたいです。お気を付けてください」


そう言って執事服を翻し、帰ろうとする瀬場。


「お前は戦わないのか?」


「こちらはこちらで忙しいのですよ。私の主なのですからこれくらいのことは出来てください」


「ふ、ふむ、そうか」


仕事馬鹿の瀬場が言うのだから相応忙しいのだろう。

そこは信用してもいいと俺は思っているからな。

いたらいたで心強いのだが。


「では、そして時は動き出す」


「急にいなくなったな」


誰も瀬場に気付かないのは異常だな。



そして俺は教室に戻り、眼鏡を殴り飛ばし、儚い星にした。

願いは………………眼鏡がいなくなることでいいか。

おぉ、素晴らしいな。

願いが叶っているぞ。




放課後になっても瀬場の言うエネミーが姿を見せることはなかった。


気を張るだけ無駄だったな。

発見できなければ対処のしようがない。

魔力の放出でもしてくれれば一発なんだがな。


「何難しい顔してるんだい?」


「眼鏡………生きていたのか………!」


ボロボロの姿で現れ、ふらついた足取りで現れる眼鏡。

あそこから生きることができたとは………!


「感動風にしても元凶は君だからね!?地味に拳を強く握ってるの怖いんだけど!?」


「いや、星になり損ねたのなら俺がもう一度手伝ってやろうと思ってな」


「殺るつもりだね!?その心殺るつもりだね!?」


「ややこしいネタを使うな!後処理が面倒だろうが!」


「あべしっ!」


俺は再び殴り飛ばし星にしておく。


「………お前はそういう運命だったんだ。まったく、汚い花火だな」


ふぅ………これで邪魔されずにエネミーを捜索することができ―――


「れ、れ、蓮くん!す、少しいいかな!」


「げ………」


「げ、とは何だ!げ、とは!」


長い髪を揺らし、こちらを睨むのは、朝俺に雑用を理不尽に押し付けてきた害悪、生徒会長だ。


「それで何の用ですか?」


「露骨に話題を変えたな………こほん。あ、あのだな。こ、これから良かったら私とカフェにでも」


「それなら俺には用事があるので」


どうせ仕事を押し付けるつもりなんだな。


俺には分かったぞ。

俺じゃなきゃ見逃してるね。


「あう………せっかく私がなけなしの勇気を出したというのに………」


「生徒会長?どうして涙目になってるんですか?」


何かブツブツ言いだしたぞ。


みなとと呼んでくれと言っても全く呼んでくれないし………」


「会長?」


あれ?こいつ、耳付いてるのか?


「用事は蓮くんと話すための口実なのに仕事しかしてくれないし………」


「か~い~ちょ~?」


「私はもっと話したいのに………うぅ…うっ…………」


「か、会長!?」


不味い。

生徒会長が泣きながらうずくまってしまった。

この状況を他の生徒に見られるとどんなに不都合か。

他の生徒が来るまでに逃げなければ。


「で、では俺は用事があるので………」


「馬鹿にぃ?何してるの?」


「あ………」


俺は自身の間の悪さを呪った。

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