第四話 マッチョ図鑑
◇
「ん………」
ボクはソファーに寝ころんでいた。
高級感漂う我が家のソファーだ。
スペードさんもボクに膝枕して気持ち良さそうに身体をうずめてる。
感触はなかなか柔らかい………
―――じゃなくて!
「スペードさん!どうしてボクを刺したんですか!?」
「あう……膝上の至福がぁ!」
ボクがそこから跳び起きて距離を取るとスペードさんは残念そうな声をもらした。
「どうしてか答えてください!」
こんな事をされたボクだけど、どうしてかこの人のことは嫌いになれなかった。
変な人だけど悪い人には見えないし。
その………言ってなかったけど見た目も綺麗だし………
「あううぅ………まぁ、そうですよね。どういうわけか説明いたします。まずは―――
スペードさんいわく、あの黒いナイフは〖ナイトメア〗と呼ばれる拷問魔道具をとある天才が改良した物らしい。
〖ナイトメア〗はその人間の根源的に恐れるものを強制的に夢として見せ、苦しませるものだとか。
誰だって自分の深層意識は見たくないし知りたくない。
ならば。と言ってできたとか。
「それでですね。魔力の覚醒にはちょうど自己の深層意識の把握と対話が必要なんです。自分を知らない、認められない人に力は使えませんからね」
「ふむ………」
それならもう終わったし、あの手を握ったときに使い方も分かった気がする。
頭の中に直接流れてくるみたいで気持ち悪かったけど。
「あっ!そうやって手をあごに当てて考える姿可愛いです!大人っぽくなろうとして背伸びしてる感じがして―――
「それでボクはどうしたらいいの?」
この人すぐ脱線するから面倒臭い。
「こほん、私は今日からあなたの専属マネージャーです。戦い方も身の隠し方もお教えします。こう見えても元魔法少女なので」
「え、いやだけど」
「そうですよね!このバストも大きな色白美少女たる私が専属マネージャーになるんです!もちろん嬉し…………………え?」
「いやです」
「て、照れなくていいですから………」
「何してくるか分からないしさっき刺してきたし………」
嫌いになれないけど怖いし。
「私悲しいです。泣いていいですか?」
「どうぞ?」
「はわぁぁ!まずいです!非常にまずいです!可愛い男の娘に嫌われてしまいました!生きていけません!でも……………………これはこれで興奮しますね!もっと嫌ってください!罵倒もありですよ!もっと私を泣かせてください!」
「何なのこの人………」
「と、冗談はここまでにしておいてですね」
スペードさんは姿勢を正し、キリッとした雰囲気を取り戻して言う。
この人、情緒不安定すぎて怖いよぉ!
泣きたいのはこっちだよぉ!
「早速ですが初任務です。会得した感覚を確実にするために魔法を使ってみましょう」
「で、でもボク昼間は外に出られないよ?」
アルビノが重度過ぎて日焼けが火傷みたいになってしまう。
だから、出来るだけ外に出たくない。
「何のための魔法装甲ですか?あのダークヒーローイケメン主人中二病つよつよお化けに貰ったものがあるはずですよ?」
あれって、魔法装甲だったの?
というか名前長いよ?
急いで部屋に置いていた白い物を取ってくる。
「ほぉ、『白雪』ですか。あなたのイメージにぴったりなものを渡されたみたいですね」
「『白雪』?」
ボクの名前は雪だから、ボクと似た名前だ。
何となく親近感を抱く。
「ともかく装着して魔力を込めてください」
「分かった」
白いこれは大昔のヨーロッパの貴族とかが仮面パーティーをするときに着けるような仮面で豪華な装飾が為されている。
ちなみにこれ多分女性用だと思います。
「こう?」
付けてスペードさんに見せる。
「そうです!そうです!そのまま魔力を込めてください!あと『変身』とかは言った方がやりやすいですよ!気持ちの問題なので!」
「わ、分かった。へっ、『変身』!」
あぅぅ。
すっごく恥ずかしい。
「え!?」
ボクを白く眩い光が包む。
朝、やったときには何もなかったのに!
「おぉ!成功です!ここまで可愛いとは、やりますねぇ!!あ、これ鏡です」
「ええええぇぇぇぇぇ!」
ちょっとどころかとても驚いた。
鏡に映っていたのが完全な女の子だったからだ。
もともと白かった髪は更に輝きを増して艶やかに光り、瞳は明るい赤から少し闇を含んだ深紅に。
服装は雪のように光を反射する白無垢のドレスになった。
一番驚いたのはボクの顔立ちが少し変わったことだ。
昔、お母さんに無理矢理メイクされたときよりもずっと女の子らしくなっていた。
あと少し甘い匂いが強くなった気がする。
「な、なんでボクこんなに女の子女の子してるの?」
「『白雪』はそもそも魔法少女用の変身道具ですからね!当たり前ですよ!それではお外にレッツゴー!」
「待って!聞いてない!完全な女の子だよ!これ!」
「安心してください!誰も男だと分かりませんよ!問題ナッシングです!」
「ちょっと!腕引っ張らないでよ!ちょっと痛いよ!あと変なところ触らない!」
「ぐへへへ………触っても減るものじゃないですからぁ」
ボクは
◆
「瀬場?何を読んでいるんだ?」
「これですか?」
車で移動中、俺の隣で座り雑誌を読む瀬場に話しかけた。
「あぁ」
「これは『世界のマッチョ図鑑』というものでして………」
「あ、やっぱりいい」
主の前で何て物を読んでいるんだ、この執事は。
「な、なぜですか!?人体について学ぶのにこれほど最適な教材はないですよ!?」
「騒ぐな。耳が痛くなる」
「こ、これは流石の私もクルものがありますね……………しかし、マッチョですよ。マッチョ」
「何が言いたいのか分からん。あと二度も言うな」
「そうですか……………それでは。この雑誌の感想を後で送りますね」
「要らん。そして静かにしろ」
「そちらから話しかけてきたんですどね」
「黙れ」
そういえばスペードの教育係こいつだったな。
まったく、これで無駄に優秀なのが腹立つ。
俺は深いため息を
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