第三話 スぺスぺ
◇
「ん…………ここは?」
ボクは目を覚ますと辺り一面砂漠の何もない空間だった。
太陽が二つあって、ボクを見守るように照り付けている。
「痛………」
頭が痛くて意識を失った理由が思い出せ―――
「いや、思い出した。ボク、刺されたんだ」
じゃあ、ここは死後の世界?
それにしては神様も出てこないし、実感もない。
「―――ッ!?」
全身から嫌悪感が走る。
何?気持ち悪い!
ボクは胃液が逆流するのを感じて口を押えた。
『ふーん、やっぱり嫌悪感を感じるんだ』
「誰!?」
砂漠の中には誰も………
ボクは思いっきり振り向いた。
「影?でも、形を成していく?」
正直言って、直視するのもしたくない。
でも、どうしても目を逸らしちゃいけない気がしてちゃんと見る。
『よろしくね?「ボク」?』
「―――ッ!?」
ボクは言葉を失った。
それの姿が完全に見えるようなってその正体に気付いたから。
それは―――――
ボクがこの世で一番嫌いなボク自身だった。
◆
俺は途中経過を確認するため、瀬場にスペードに連絡を入れるよう言った。
「おやおや。我が主は心配性ですね………」
「心配だから聞いているんじゃない。ただ今どうなっているのか知りたいだけだ」
「それを心配性というんですよ」
「さっさとしろ」
「滞りなく」
瀬場―――俺の忌々しく生意気な執事は『スペスぺ』と書かれた黒のスマホをこちらに向けた。
名前の設定適当すぎるだろ………!
「はい!何でしょうか!こちらスペードです!」
黒のスマホから元気のいい女性の声が聞こえる。
「ちょっといいか?」
俺は何か用事をやっているかもしれないので確認を取る。
「この幼いながらも素晴らしい声は!………はっ!?すいません、取り乱しました!大丈夫です!何でしょうか?」
「まったく、うるさい奴だな」
「えへ、ありがとうございます」
「褒めたつもりはない」
「えー!」
私にとってうるさいはご褒美ですよー、なんて声が聞こえるが無視するか………
「それで、雪はどんな調子だ?」
「むむ……無視ですか………こほん、はい!問題なく!ブスリと刺しておきましたよ!」
「そうか………」
こいつ、まったく
それがこいつらしいと言えば終わりなんだが。
「ふふふ!電話してくるなんて随分と心配性なんですね!私が――――
プープープー
ふむ?瀬場が切ったのか?
「あの雌豚。あとで教育する必要がありそうですね。我が主になんてことを………!!」
「お前も何ら変わりないからな?」
「おや、バレてしまいましたか?後でスペードを叱るのは確定してますがね。反応が楽しいので」
まったく、こいつらに関わると頭が痛くなるな。
◇
「君は何なの………?」
ボクはボクの形をしたそれに聞く。
『何って君だよ?君の大嫌いなボク。それ以外の何物でもないよ?』
「あ、そ」
どうしても冷たく当たってしまう。
ボクの取柄なんて明るく笑顔でいることぐらいしかないのに。
何も出来ないボクだから。
『ほんっとに………その被害者ぶった思想が憎いよ』
「え?」
もう一人のボクを中心に風が巻き起こりはじめる。
『ボクはそんなに下に見られたくないよ。ボクも生きてるからね』
風はどんどん強くなって渦を巻いていく。
「だってボクは!」
『だってボクは?』
もう一人のボクはそれを鼻で笑う。
風は強くなってボクは目を開けるのも苦しくなった。
『ボクはずっと渇き飢えているんだよ!それすら分からないの!?』
「くっ!」
砂嵐がボクを襲う。
『それなのに君は自分すらも自分を信じられなくて……!』
分かってた。
いや、分かってたつもりだった。
『この本心を無くさなくてもいいから!認めてよ!』
これがボクの醜い本心。
ボクの隠したかった本当の気持ち。
『ボクは寂しいよ………』
ボクは無理矢理、目を見開いた。
『もっとボクを愛してよ…………』
そこに映ったのは涙を流すボクだった。
そうか………
「そうだったんだ………」
ボクは荒れ狂う砂嵐を見渡す。
「君だけじゃなくて、ここ自体がボクの心の中なんだね………」
『……………』
愛に飢え、乾ききった砂漠。
孤独にかき乱された暴風。
そして――――
「ボクを照らす二つの太陽、か………」
そして、ボクはあの黒髪の少年に一度告げられた言葉を再び思い出した。
「『自分がそうであると思い込め。それだけでいい。結果は
ボクは信じてみるよ。ボク自身を」
『………!』
「誰も信じないなら、期待しないなら。ボクからね」
二人を守れるように強くなれるって。
「だから、力を貸してくれる?」
ボクはもう一人のボクの前に立って手を伸ばす。
『………次は上手くやってよ?』
「うん」
ボクはもう、掴んだ手を離さない。
自分を愛せない人に他人を愛するなんて出来ないんだから。
いつの間にか、風は凪いていた。
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