第二話 変態、男の娘に襲来



「ん……んん!ふぁぁぁ………!」


ボクは伸びをして欠伸をした。

昨日は本当に大変だった。

お母さんも来未くるみ姉もいつになっても帰ってこないボクを心配してあちこち探しまわっていたみたい………

悪いことしちゃったかも。


来未姉はボクの一つ上のお姉ちゃんでお隣さんだ。

昔からボクのことを弟のように見ていてすぐに抱き着こうとしてくる。

ボクってそんなに魅力ないのかなぁ………

男として見られていない気がする……


「でも、とりあえずこれが何なのか確認しないと」


あの時押し付けられた白い何か。

明るい所で見た感じ、貴族のような装飾のされたオシャレなハーフマスクだということが分かった。

何かあるかもと付けてみたけど何もなくて恥ずかしかったのは秘密だ。


「お母さんはもうに行っちゃったみたいだし」


ボクに秘密にしているみたいだけどお母さんは元だけど来未くるみ姉は魔法少女だ。

お母さんなのに魔法少女?

と、思ったかもしれないけどこの世界では年齢は魔法少女をやるのに関係ないのだ!

魔法を使うことが出来る女性全般をそう呼ぶ。

だから、おばあちゃんでも魔法が使えれば魔法少女なんだ。

といってもお母さんに関しては事務多いけどね。


「『自分がそうであると思い込め』か……………」


あの黒髪の少年の言葉を頭の中で反芻してみるけどよく分からない。


「外に出られないし暇だなぁ………」


ピンポーン!


タイミング良くチャイムが鳴った。

インターホン越しに見ると少し機嫌の悪そうな大人の女の人が立っている。


「ど、どうしよ!お母さんから知らない人は出ちゃダメって聞いてるし………!」


「スペードと言いまーす。如月雪きさらぎゆきさんはいらっしゃいますかー?組織のことでお話がありまーす」


「え?組織?」


「あのエロティックイケメン執事と俺様系ダークヒーローイケメン主人のいる所でーす」


なんかあの二人かわいそうな言われようしてる………


ってそうじゃなくてあの組織か!

力が手に入るって言ってたのに全くそんな気配ないから文句言いたい!


「はぁ!?いねぇのか?あの上司、めんどくさい仕事押し付けやがって!」


「何?ボクが如月雪だけど?」


「ふぇ?」


ボクはそのまま扉を開けて外に出る。

少しぐらいなら日焼けはしないし影にいるから大丈夫なはず。


「それで、ボクはどうやったら力が―――


「はわわわ!だ、男性だと聞いていたのにこの可愛らしさ!この神々しさ!これがまさに男の娘!?この仕事やっててよかったと再確認できました!」


「え?うん?」


「ありがとうございます!こんな可愛い子に引き合わせていただき誠にありがとうございます!神様、仏様、瀬場せば様ぁ!」


待って、この人ヤバい人だ。

お母さんの言う通り外は魔境なんだ!

逃げないと!


でも、すぐにボクはこの女の人に腕を掴まれる。


「逃がしませんよ!私の話を無理矢理にでも聞かせないと帰れないですからね!はっ!近づくだけでほのかなミルクの香りが!」


「や、やめてよぉ!」


「怖がらないでください!一瞬で終わりますから!痛くないです!さきっちょだけなので!」


「いやぁぁぁぁ!」


ボクの悲鳴が虚しくも家の中に消えていくのだった。




「さて、改めて自己紹介します。私は組織から派遣されましたあなたのマネージャーのスペードと言います。あ、スペードは名前ではなくコードネームのようなものだと思っていただいて構いません」


「………うん」


やや強引に家に入ると佇まいを直してピシッとして挨拶するスペードさん。

流石あの組織………こんな人でもここまでマナーを………


「組織の名前はご存じですか?ご存じないのであれば私が手取り足取り教えて―――


「いや、いいよ…………『エレボス』だっけ?」


ボクは怪しい気配がしたので話を切る。


「少し残念ですがいいでしょう」


「何が!?」


「こほん。『エレボス』とは夜の女神ニュクスの兄にして夫の存在であり、ニュクスと同じく原初の神カオスから生まれた神でもあります」


無視するんだ……………


「そして、その名の表すのは『幽冥』。罪人を閉じ込めるあの世、といった感じでしょうか?」


「ひっ!」


ボク、死んじゃうの!?


「あぁ怯えている顔も実に美しい………はっ!ではなくてですね?我々があの世に行くのではなく、あの世の番人として魔法少女を送らせないという意図だそうです!」


あっ、そうだったんだ。

難しいこと考えるなぁ………


「あなたの考えてらっしゃること私にも分かりますよ………」


秘密にしてほしいのですが、と言葉を続けるスペードさん。


「あの俺様系イケメンはですね………中二病を拗らせているんですよ………」


「中二病?」


中二病って何?

中二になったらなる病気なの?

今、中一だからもうすぐなっちゃう?


「あ、やっぱりいいですぅ………」


へなへなとしおらしくなるスペードさん。


「そんなことはどうでもいいです!ボク、どうしたら強くなれるんですか!?」


「そうでした!私はそのために来たんです!強制的に魔力を解放させに来ましたんでした!」


「強制的……………?」


え、怖いよ?

大丈夫だよね?

手をワキワキさせてるけど?

大丈夫だよね!?


「大丈夫ですよ?痛いのは初めだけですし。慣れたらすぐ気持ち良くなります!……………………冗談です。正確には強くなれます!」


「ほんとに?」


ボクは身長差で上目遣いになりながら尋ねる。


「強くなれるの?」


「はぐっ………!これは今日で私、死ぬかもしれませんね………私も覚悟を決めなくては……!さぁ、こっちに来てください!」


ボクはゆっくりとスペードさんに近づいた。

それに満足したように微笑むと少し悲しそうな顔をするスペードさん。

どういうことだろ?


スペードさんはボクの頭を軽く撫でると言った。


「では、頑張ってくださいね?応援してますから」


スペードさんが言い終わると胸元に激しい痛みが走る。


「……………え?」


胸元を見ると深々と墨色のナイフが刺さっていた。

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